食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

1・1肉食と火の革命(2)

2019-11-26 12:33:07 | 第一章 先史時代の食の革命
肉食が頭脳を発達させた
人類の祖先は遅くとも200万年前には肉食を本格的に開始することで、脳が拡大する栄養上の条件が整った。その結果、より高度な知性を進化させることが可能になったと考えられるのだ。その進化の道筋を見て行こう。

ホモ・ハビリスよりも大きな脳を持ち、手斧などのより機能的な石器を使うようになったのが原人の「ホモ・エレクトス」だ。彼らは約200万年前にアフリカに出現し、その後アフリカを出て新天地に飛び出した。ジャワ島で見つかったジャワ原人や中国で発掘された北京原人は、ホモ・エレクトスの地域集団である。しかし、アフリカを出たホモ・エレクトスは約30万年前に滅んでしまう。

一方、アフリカに残ったホモ・エレクトスからいくたびかの進化を経て、約20万年前に「人類(ホモ・サピエンス)」がアフリカに誕生したと考えられている。そして、その一部が約6万年前にアフリカを出て、世界中に分布するようになった(図表2)。この中には、今は海に沈んでいるベーリング陸橋を渡って、アメリカ大陸まで進出した大冒険家たちもいた。


このような人類への進化の過程で肉への依存が高まって行ったと考えられている。そして、この肉食の増加は脳を大きくするのに必要だった。
どういうことだろうか。

脳を維持するには大量のエネルギーが必要だ。例えば、人の脳は体重のわずか2%の重さだが、安静時の必要エネルギーの25%を消費している。脳が大きくなるためには、増えた分に必要なエネルギーを新たに獲得しなければならない。このエネルギーをまかなうために、肉への依存度が高まったと考えられている。

また、肉食が増えると植物性の食べ物の摂取量が減る。この結果、植物繊維の消化に必要な長い腸がいらなくなったと考えられている。腸も脳と同じようにエネルギー消費が激しいため、腸を短くして余ったエネルギーを脳にまわすことができたのだ。

火の利用がさらに脳を大きくした
さらに脳の拡大をおし進めたのが、火の利用だ。

火で調理すると、食べ物は消化・吸収されやすい形に変化する。例えば、肉を加熱するとタンパク質が変性することによってかみ切りやすくなり、さらに、消化酵素で分解されやすくなる。また、穀類やイモ類などのデンプンを多く含む食品はそのままではとても食べられたものではないが、煮たり蒸したりすると柔らかくなり美味しく食べられる。また、デンプンも消化されやすい構造に変化する(これをα化と呼ぶ)。ちなみに、非常食用のα化米は、火を使わなくても水を加えるだけでα化したコメを食べられるように加工した食品だ。

火は食べ物の消化・吸収を良くするだけではなく、食べ物の風味を良くする。デンプンは熱せられると一部分解して甘くなる。また、火で調理すると「メイラード反応」と呼ばれる化学反応が起こるが、この反応によって、たくさんの美味しそうなにおいが発生するのだ。例えば、肉を焼いた時の香ばしいにおいや、うなぎのかば焼きの食欲をそそるにおいは、どちらもメイラード反応によって生まれたものだ。

このように様々な食材を火で調理すると、消化・吸収が良くなるとともに風味も増すことで、以前よりも多くのエネルギーを摂取しやすくなった。このことも脳の拡大を促進したと考えられている。

人類の祖先が火を使い始めるようになった時期についてははっきり分かっていないが、少なくとも100万年前には火が使用されていたと推察されている。最初は、山火事や落雷、火山活動などで発火した木の枝などを火種にしていたのだろう。やがて人類は、火打ち石を使うことや木同士をこすり合わせることで火をつける方法を編み出した。日本の縄文時代の遺跡からは、木の摩擦熱を利用した発火装置が見つかっている。

火を用いた調理法も次第に工夫されるようになった。最初は単にたき火で食材をあぶるだけだったが、火で熱くした石の板の上で食べ物を焼いたり、熱くなった灰の中に食材を入れて熱したりするようになった。


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