号外10)笑顔

 黄土高原の農村を回って帰国間際の日本の青年が私に話します。「貧しい村ほど人の表情が豊かで笑顔がすてきです。町はそれが薄れ、大同や北京では表情がとげとげしくなります。その先に大阪が待っていると思うと、帰るのがイヤになります」
 私も同感。真っ黒に日焼けしたしわだらけの農民が、しわをもっと深くして笑うのがなんともいえない。好奇心いっぱいで、目を輝かせる子供たちもいい。そのなかにつかっていると、誰でも性善説になりますよ。
 でも農村の暮らしは大変。最近では1999年と2001年が大干ばつでした。井戸による灌漑が可能な畑以外は収穫ゼロで、大同市の農業生産は82パーセント減、平年の5分の1もない。一人あたり年収が500元(1元=13円)を切る村が続出しました。自分の家で食べる食糧すらないのです。
 津軽育ちのSさんは戦前の東北地方の冷害を知っています。「それは悲惨なものでしたよ。でも客観的にはここの方がずっとひどいのに、悲惨さが感じられない。どうしてでしょう?」
 私にわかるはずはないのです。でも言えることは、まずは借金がない(できない)こと。転げ落ちても最低がゼロだから、やりなおせます。日本で自ら命を絶つのは、借金苦でマイナスに追い込まれるからでしょう。
 それから財産と言えるほどのものがないこと。失うものがないと悩みも少なくてすみます。過酷な環境で、多くを望まず、無理をせず、自然のままに生きる。それがあの透明な笑顔のもとなのかもしれません。
【写真】「貧しい村ほど人の表情が豊かで笑顔がすてき」とツアー参加者は語る。私たちがこのような笑顔を失ったのはいつからだろうか。
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