湯川さんと後藤さんが殺害されたことで,イスラム国の残虐性は世界中の関心を集めたが、戦場では、すでにイスラム国は弱小集団になっている。半年前にめざましい躍進をしたイスラム国だが、今は見る影もない。さほど実力がない集団のプロパガンダに、2人の日本人が利用されてしまった。
しかも「イスラム国と戦う周辺諸国を支持する」という日本政府の明確な立場ゆえに。
イスラム国と戦っているはずの周辺諸国が、陰でイスラム国を助けている。
「サウジアラビアに向かって原油を運んでいたイスラム国のタンクローリー10台を空爆して破壊した」という報道がある。サウジは、イスラム国から原油を買い上げて、イスラム国を助けている。サウジが有志連合に参加するのは、世にも不思議なことだ。サウジとイスラム国は昔も今も、これからも友人だ。
<イラクでイスラム国が躍進>
イスラム国の支配地 2014年8月
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イスラム国は、2014年の夏、イラクの東部と西部を支配下に置いた。かなり広い領域を短期間に支配下に置いたので、「電撃戦」であった。軍の装備では、ナチス・ドイツと比べると、かなりお粗末であるが。
4大精油所 アルビル・ベイジ・バグダッド・バスラ
BBC
(説明)イラク北部にモスル(Mosul)があります。モスルの東にクルド人の首都アルビル(Irbil ) があります。モスルの南にベイジ(Baiji )があります。バグダッドの南東、チグリス・ユーフラテスの河口にバスラがあります。
<ベイジ精油所をめぐる攻防>
イラク北部のキルクークには油田があり、イラク政府はあわてた。またべイジの精油所はイラクで最大であり、6月18日、イスラム国がべイジの町にせまると、イラクのマリキ政権はパニック状態に陥った。精油所はべイジの町から数マイル離れたところにある。イスラム国は精油所を包囲した。この製油所は莫大な富を生む。イスラム国がこれを手に入れれば、国家建設実現に一歩近づく。これまで資金源としてきたシリア東部の油田をはるかに超える、巨額の資金源を手にいれるからだ。ただし精油所があっても原油がなければ意味がない。北部のキルクークの油田はクルド人が守り、南部の油田はシーア派が守る。両者とも手ごわい敵である。原油の産出量は、南部の油田が9割を占め、北部のキルクーク油田は1割に過ぎない。
とりあえずは、イラク政府が製油をできなくなり、大打撃を受ける。
ベイジ精油所
ZeroHedge
翌6月19日、すぐさまイラク軍の対テロ部隊が出動した。治安部隊や武装ヘリコプターの支援を受け、万全の態勢で臨んだが、イスラム国の抵抗は激しく、最後には精油所の隣の従業員宿舎に立てこもった。この日、精油所の敵を一掃できなかったので、マリキ首相は米国に空爆を要請した。
夜明け前に始まった戦闘により、燃料貯蔵タンク2基が炎上した
結局ベイジの攻防は11月8日まで続く。この日、政府軍が精油所の安全を確保し、町の大半を取り戻した。しかし、町の3分の1はまだイスラム国が占領している。
炎上するベイジ精油所の燃料タンク
Reuters
米軍の空爆は、イスラム国の戦闘員を多数殺害し、イスラム国に大きな打撃を与えた。犠牲者には司令官も多く含まれていた。また空爆によって通信手段を破壊したので、イスラム国の兵士は命令を伝えたり、連絡を取り合うことができなくなった。地上では、政府軍とクルド人部隊が本格的な攻勢に出て、イスラム国の兵士は防戦するのがやっとになった。戦いの流れは完全に逆転した。
夏の時点では、イスラム国を敗北に追い込むには3-4年かかるだろうと考えられていたが、現在では(2015年1月末)、今年中に決着がつくと考えられている。
しかし、これは楽観論だとする慎重論もある。イラクのアンバール県では、イスラム国は攻勢に出ている。また、現在は全般的に劣勢だが、再起の可能性もある。スンニ派の不満が解決する見通しが立っていないからである。