たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

2012年12月23日 謎が多いホムスの化学兵器事件

2017-09-06 01:04:24 | シリア内戦

 

201211月末、シリア軍が大規模なかが攻撃を準備していることが発覚した。

「シリアの化学部隊は、混ぜ終えた化学物質を空爆用の500ポンド(272キログラム)爆弾数十個に注入し、それらをトラックに積み込んだ。トラックは近くの軍事空港に向かい、化学弾は航空機に搭載されるだろう」。

これはイスラエルが衛星画像によって知ったことである。イスラエル軍の高官が米統合参謀本部に電話した。米国は軍事行動をちらつかせ、シリアに化学攻撃の中止を迫った。中国、ロシア、アラブ諸国の仲介により、シリアは化学攻撃を中止した。

未遂に終わったが、実行されればシリア内戦で最大の事件になったであろう。これについては前回書いた。

今回はその一か月の事件について書く。未遂ではなく、実際に化学兵器が使用され7名が死亡した。

20121223日ホムスで起きたの化学攻撃について、メイル・オンラインが書いている。使用されたのはサリン、マスタードより毒性が弱いエージェント15であると考えられている。米国がこの事件調査し、米政府関係者が調査結果をメディアにもらした。調査に時間がかかったのか、他の理由からか、メディアが報道するのは事件の一か月後である。

 

======〈1223日、ホムスで化学攻撃〉=======

U.S. backed plan to launch chemical weapon attack on Syria and to blame it on Assad 's regime

     Mail Online 2013129

128日米政府は、化学兵器使用の問題について述べた。

「化学兵器使用の結果について、米国は他の諸国と共にレッドラインを設定した」。

漏えいした米政府の通信によると、1223日シリア軍はホムスで化学攻撃をした。イースタンブールの米国総領事(Scot Frederic Kilner)がこの事件を調査した。The Cableが公表した文書にはその調査結果が書かれている。ついでに、アサドの妻アズマが4人目の子供を妊娠したことも書かれている。

この文書を見たオバマ政権の役人が次のように述べた。

100%の自信はないが、1223のホムスの攻撃に使われたのはAgent15である。シリア人通報者の証言は信頼できる」。

キルナー総領事は化学攻撃があった場所の住民、医師、反対派戦闘員に聞き取りをした。また、シリア軍の元将軍で大量破壊兵器部門の長官だったムスタファ・シェイク(Mustafa al-Sheikh)から話を聞いた。

ホムスの神経科医師アブ・アブドは化学兵器が使用されたことを確信している。「あれは化学兵器だった。催涙弾で、人は死なない」。

目撃者によれば、戦車が化学弾を発射した。人々は吐き気、ひきつけ、精神錯乱、呼吸困難などの症状を示した。

このような症状は化学兵器化合物Agent15が原因である。

シリア政府は化学兵器の使用を否定している。「シリア軍は自国民に化学攻撃をすることはない」。

====================(メイル・オンライン終了)

トルコに駐在する米総領事の調査結果とされるものは、リーク(漏えい)された情報であり、米政府が正式に発表した見解ではない、ホワイトハウスの報道官は「このメディア報道は米政府政府が得ている情報と一致しない」と述べ、米国務省の報道官は「メディアが伝える秘密電報の内容は誤りである。ホムスで化学兵器が使われたと断定できる証拠はない」と述べている。

政府関係者が語ったとされる情報を、米政府は否定している。米政府の公式見解は「ホムスで化学兵器が使われたかどうかは、わからない」というものである。

この謎めいた事件について、ニューヨーカー紙が書いている。ニューヨーカーによれば、「トルコに駐在する領事の調査結果」を最初に報道したのはフォーリン・ポリシーである。

 

====《ホムスで使用されたのはエージエント15か?》===

The Case of Agent 15: Did Syria Use a Nerve Agent?

                 By Raffi Khatchadourian

       New Yorker  2013年1月16日

クリスマスの直前、ホムスから不幸なニュースが発信された。シリア軍がホムスの反対派支配地に向けて、毒性の強いガス弾を発射した。

アルジャジーラは次のように伝えている。

----活動家は「最悪な状況だ」と落ち込んだ様子で語った。「マスクが足りない。我々は何のガスかわからないが、医師はサリンに似たガスだと言っている」。------

このニュースはシリア紛争のエスカレーションを示唆している。1988年サダム・フセインが毒ガスを使用し、ハラブジャのクルド人を大量に虐殺したことを思い出させる。またこれを口実に、国際的な軍事的干渉が始まるかもしれない。

反対派が次のように報告している。

23日バイヤーダ地区で戦闘があり、その際毒ガスが使用され、7人が死亡した。被害者は嘔吐、筋の弛緩、視力低下、呼吸困難などの症状を示した。被害者の中には、ガスを大量に吸いこんだ人がおり、死に至った」。

 

 

 

何が起きたのだろうか、謎の毒ガスはサリンだろうか。それともサリンに似ているガスだろうか。毒ガスの使用はシリア内戦の状況を根本的に変えるだろうか。現時点で答えを出すのは難しい。

一か月前の11月、イスラエル軍の幹部はシリア軍が化学兵器を準備していることを知り、米国防総省に伝えたと言われる。

タイムズが次のように伝えた。

「衛星画像により、大量の化学物質を保管する2か所で、シリア軍が化学物質を混ぜているのが、わかった。それから、出来上がった毒ガスを数十個の500ポンド(272kg)爆弾に注入した」。

恐るべき事実の発覚後、目を見張るような外交努力がなされた。米国、協力してシリアの政権に圧力をかけ、攻撃の中止を迫った。そして各国の努力は成功した。

しかしながら一か月後、冒頭に述べたように、シリア軍はホムスで化学攻撃を実行した。シリア軍の行為はあからさまで、眉をひそめざるを得ない。トルコの米大使館は調査を開始し、ホムスの医師や社会活動家たちに聞き取りをした。またシリアのABC兵器(核、生物、化学兵器)部隊の元司令官で、現在は亡命しているムスタファ・シェイク(Mustafa al-Sheikh)から話を聞いた。

調査した外交官はこれまでにない徹底した調査を行った、と自負した。

先週トルコに駐在する米国の総領事は秘密の回路で調査結果をワシントンに打電した。

そして昨日、オバマ政権の一員が匿名で、フォーリン・ポリシー紙の記者にその内容をもらした。その内容は矛盾に満ちている。政権内のこの人物は以前のインタビューでは「サリンまたはそれに似た毒ガスだ」と語っていたのに、フォーリン・ポリシーの記者には「ホムスで使用されたのは神経ガスではなく、あまり知られていない、未知の薬品だ」と語った。

フォーリン・ポリシーは次のように書いている。

100%の確信はないが、12月23日ホムスで使用されたのは、エージェント15である、とシリアの情報提供者が言っている。彼の説明は説得力がある」。

徹底的な調査の結果が、エージェント15というのは、あきれる。的外れな調査結果だ。ワシントンに送られた極秘電報の内容はいかがわしい。

ホムスで使われたのはエージェント15という説明は受け入れられない。エージェント15は乗り物酔いを防ぐ薬に似た化学物質で、神経の活動をある程度麻痺させる。これをを大量に吸い込むと、精神錯乱を引き起こす場合があるが、通常は精神の機能を低下させるだけで、死に至らない薬品である。

死者が出たことと、ホムスの医師アブ・アブドがアトロピンを処方したことを考えると、使われたのはエージェント15ではない。エージェント15は神経の作用を抑制するが、停止させることはない。アトロピンは神経を停止させる毒物に対する薬である。サリンは神経の作用を停止させる毒物であり、サリンの被害者にはアトロピンが処方される。

投与された薬から推定すると、毒物はサリンであるが、ホムスからの情報はサリンではないことを示している。住民は臭いがしたと言い、かなりの量のガスを吸っても死なずに済んだ例がある、という。神経の働きを停止させる毒物であるが、サリンより効果が弱く、臭いがある薬品とは何か? それは有機リン系の殺虫剤である。この種類の殺虫剤は有機リン系の化学兵器と同程度の効力を有し、被害者は死に至る場合があり、治療にはアトロピンが用いられる。

もしホムスで使用されたのが市販の殺虫剤であるなら、誰かが日用品から原始的な方法で、貧者の化学兵器を作成したのかもしれない。

こう考えると、オバマ政権の公式見解がよく理解できる。

昨日ホワイト・ハウスの報道官トミー・ヴィーターは次のように述べた。

「ホムスの化学兵器事件について報道されていることは、米政府がシリアの化学兵器について知っていることと、矛盾する」。

今日国務省の報道官がこれを補足した。

「フォーリン・ポリシーが伝える秘密電報の内容は誤りである。ホムスで化学兵器が使われたと断定できる証拠はない」。

一か月前イスラエルが探知した500ポンドの化学弾が使われたわけではない、それを証明することはできないということだ。

化学弾が戦車によって発射されたという点も、疑わしい。

ロンドン在住のシリア人政治活動家ラミ・ジャラー(Rami Jarrah)はフェイス・ブックに次のように書いている。

「秘密電報の内容は誤りだ。証拠が不十分だ。私が集めた報告の中に、異常な症状の例がある。また毒ガスは気球の中に入っていたという報告もある。一定の高さで破裂する仕掛けだった」。

シリア軍と反政府軍のどちらが実行したか、彼は語っていない。

気球を使ったという話は信じがたいが、彼のフェイス・ブックに埋め込まれている、被害者を撮影映したビデオは真実だ。偽作や演技のようには見えない。

=================(ニューヨーカー終了)

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