水晶岳(2986m)と鷲羽岳(2924m)をめざして、お盆の休み本格的な縦走に参加した。
メンバーは一人の高校生を抜かせば50台前後の方々、総勢5人。
富山の折立口から雲の平経由、水晶岳・鷲羽岳~真砂岳~湯俣温泉、信州高瀬ダム~大町を目指す、
全長たぶん40Km前後、標高差1700m前後。
はっきり言って、修行の道 だった。
台風一過の晴天を期待していたが、全行程雨と霧。足元をひたすら気にして歩く。
足元の花々は見えるが、周りの景色は1日目の薬師岳への分岐点、太郎兵衛小屋前でこの先の山々を目にしてから
最終日、くだりの稜線と野口五郎岳への道・カールしたの五郎池がほんの瞬間、霧の切れ目から見られただけ。
こんな日々でも、途中エスケープルートはないので、一度踏み出したら、前へ進むか戻るか、とどまるかしか
選択の余地はなし。人生そのものかもしれない。
三角のツンとした山が「水晶岳」
最後の秘境
今回の山域は今年初めのメンバー飲み会でほぼ決定していたが、どうしても参加したい訳があった。
「水晶岳」、ここは下界からでは眺めることができない山で、ひとつ山を越えてこの山域まで踏み入れないと
見れない山であること、そしてもうひとつは私の名前の由来の山だからである。
深田久弥の100名山のひとつでもあるが、『日本百名山』の記述から引用すると
<前略>四周すべて山である。文字通り北アルプスのどまんなかであって、
俗塵を払った仙境に住む高士のおもかげをこの山は持っている。
確かに、1日目7時間半、2日目6時間半かかってやっとその麓にたどりつく。水晶小屋の周りには水もなく、
雨水が頼り。そんな場所に、下界からは臨めない域に存在する。人を寄せ付けない孤高の強さを感じた。
そこまでの道のりも「最後の秘境」と言われている雲の平の庭園をつっきって行く。
1泊目は薬師沢がすぐそばを流れ、水も豊富な薬師沢小屋
薬師沢小屋
水が豊富で流しっぱなし、ビールもペットもその水で冷やされている
冷たい水が本当においしい。黒部源流に近い。
しかし、このお盆のため、悪天候にもかかわらず、小屋はいっぱいで、5人部屋に布団は4枚・・・
ビールでのどを潤せば、すぐ寝られる私はノー天気・・・
小屋にたどり着く前のカベッケガ原の広々した風景はここまでの7時間を洗い流してくれるだけの清々しさがあった。
実はここへ来る前にほんの小さな川を渡る際にバランス崩してこけて、水に漬かった私は、片足の靴の中はいつも
川の中を歩いているような状態。めがねも川に流してしまって、ちょっとしょげていたが、ここで気分転換できた。
トリカブトが咲いていた。それにしても10キロちょいの荷物を背負っていると、ちょっとバランスをくずしただけで
体制を整えられない。やっぱり腹筋と背筋をもう少しつけておかないといけないな~。それに亀の子状態になると
一人でたちあがるのも重労働・・・ いろいろとしょっぱなから感じることしきり。
2日目は水の音で目が覚めた。雨だろうか・・・
昨晩結構ひどく雨がふっていたので不安だったが、この水の音は川の音だった。が、昨日とは明らかに水量が違う。
小屋すぐ目の前のつり橋を渡り対岸へ、大嫌いなはしごを降りると急勾配の斜面。35度近い傾斜の登りが始まる。
2時間ほど岩場と根っことの悪戦苦闘。岩場はほとんど小川と化している。
登りきったところに広々とした庭園が広がっているはずだった。ここからはしばらく木道をるんるんと歩けるはず・・・
ところが、霧と雨がひどくなり、ごらんの有様
アラスカ庭園、奥日本庭園、ギリシャ庭園といわれているのっぱら
昨日の川の中のような片方の靴は意外と乾いていたが、雲の平山荘に着くころには両靴の中はずぶずぶ。
当然雨具も着、足にはスパッツもつけているが、そんなのお構えなしに、雨と汗でぬれていく。
4日前に出来上がったばかりという、木の香りぷんぷんする雲の平山荘に泊まりたいと思ったが、先が長いので
水の補給だけをして先に進む。祖父岳を登り、鷲羽岳・水晶岳の分岐点に来たときはまだ昼前だったが
雨風が横殴りとなりその上、2800Mを過ぎていたので、息が上がっていた。こうしてもう6時間は歩いていることになる。
心拍数が少ない、ということがここでマイナスとしてでるのだろうか、とにかく、呼吸を整えるのに時間がかかる。
水晶小屋まであと15分、という看板が背中を押してくれるのだが、
足を一歩一歩だすのがやっと。長い15分に感じられた。
この日に分岐のところから鷲羽(往復約2時間ちょっと)を登る予定だったが、悪天候のためキャンセル。
百名山のピークハンターはちょっと残念そうだった。
が、この雨風では仕方がない。小屋に入って靴を脱いで逆さにしたら、水が出てきた。
そんな靴にもう今日は足を突っ込みたくない・・・と誰もが思った。
乾燥室にはそんな上着、靴下、スパッツなどがかけられていたが、ぎゅうぎゅうづめ・・・
火炎放射器のような乾燥用ジェットとストーブが使われたが、翌日まだ湿っていた。
水晶小屋
3歳になるかならないかの子供をつれて、小屋の番をしている若い夫婦
あの子を背負ってここまで登ってきたのだろうか。1ヶ月半、籠るという。
(ちなみにここでペットボトルのお茶を買うと、500円です)
ここの神棚にあのヤタガラスが祭られていた。
その横に、多分小屋の伊藤さんという主人が書いたであろう言葉が。
「ゆっくり歩こう、山は人生」
翌日、雨は降っていないものの、霧はかかっている。
下界では考えられない13度ほど。涼しい。
40分の登りで念願の「水晶岳」にたどりつく。今回企画した御仁、この山域のうち、水晶だけ登っていなかったと。
今日でもうこの山域は卒業だ~!と満足そうだった。
岩稜の頂上
さてさて、今日は麓まで一気に下る。標高差、多分1600M
霧のおかげが雷鳥の親子に出くわす。
ガレている崩壊地をそろそろと進むとまた少し登り返し・・・
野口五郎岳が見える稜線に来たところで、少し晴れ間がやってきた。
五郎池
全行程くだりと思っていたら、
真砂岳、湯俣岳と登り返しもあり、樹林帯に入ってからはひたすら下り、どろどろになりながら約6時間半
川(高瀬川)の音が聞こえ出した頃には足はヘロヘロ、温泉の硫黄の匂いがしてきて、少し気を持ち直した。
昭和7年に最初の宿が立てられた湯俣温泉。昭和17年に流されて、再建されたという由緒ある温泉。
川のそばを掘るとこうしてお湯がわくらしい。私は内湯だけにしたけど、いい湯でした!!
露天
高瀬川 硫黄分が含まれているからだろうか、とても美しい色
最終日の朝、つり橋を渡り15分ほど川原を散歩すると仏舎利のような噴泉塔がある。その近くにはぷくぷくと温泉が湧く。
ぷくぷく温泉
途中で1匹分のきれいなへびの抜け殻を見つけた。金運アップになりますように!と真ん中を少々頂いた。
携帯からも隔絶された4日間、俗世界から離れた日々
修行のような道のりだったけど、
もしかしたら、私も蛇同様一皮むけたかもしれない・・・と期待する。