前エントリーで桑の実について書いたが、この樹の枝葉にも、不思議な力を感ずることがある。なんと言っても、蚕の食草であることがあまりにも不思議だが。
沢山の実が成る外来種の桑(マルベリー)〈葉に切れ込みがない〉
桑は枝葉の生長が極めて盛んな樹木だ。伐られても伐られても、どんどん新芽を吹き、枝葉を出す。伐った枝葉を地表に敷いて置くと、短期間で土に還る。自らリグニン分解酵素をもっているのだろうか?枝葉は数週間で消える。他の植物に較べると、格段に消滅するのが速い。
桑の木の剪定された枝葉は自らを分解して速やかに土壌菌の好餌となり、有機物が更に分解されて肥料成分になる。肥料成分には枝や葉を速やかに成長させる栄養素がある。この樹には、極めて高い再生産力が具わっているようだ。それでこそ、旺盛な食欲の蚕の餌料となるに相応しい。おそらく養蚕の現場では、蚕が葉を食べた残りの枝を刻んで、木の周りに敷いて置くのではなかろうか?
そのように急速に成長し歳月を重ねた桑の大樹は、家具用材に用いられた。
かつて私の家にあった桑の木の古い茶箪笥は、天板や側板の板幅から推定すると、直径は目通り60cm以上あったに違いない。江戸期には、指物用材として需要が高かったという。
絹糸や絹織物が輸出の主要品目であった明治時代の日本には、家具用材に適した桑の大木(育蚕用の予備樹)が、養蚕の盛んな地域に数多く遺っていたことだろう。それは数千年に亘る養蚕の歴史の遺産と言える。
戦後ナイロンの普及とともに、絹の需要が減り養蚕は廃れ、桑の木の植え付け面積も激減した。かつては、桑原・桑野という苗字を生んだほどに広大な桑畑のあった日本の山村の原風景が蘇ることは、もう二度とないだろう。そう思うと、桑の樹に特別の念いを抱かないではいられない。挿し木で苗をつくり、鉢植え栽培している。
在来種(マグワまたはヤマグワ)の桑〈葉に切れ込みがある〉
沢山の実が成る外来種の桑(マルベリー)〈葉に切れ込みがない〉
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