てんちゃんのビックリ箱

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ハピネス 名古屋ボストン美術館の最終展覧会 感想

2018-10-05 13:27:37 | 美術館・博物館 等
名称:名古屋ボストン美術館 最終展 ハピネス~明日の幸せ求めて
場所:名古屋ボストン美術館
訪問日:2018年10月2日
期間:2018年7月24日(火)~10月8日(月・休)
惹句:「幸せ」ってどんなもの?
 日常における幸せ、四季の美しさを愛でる幸せ、100年前のボストニアンたちが夢見た桃源郷ユートピア、現代アートにみる幸せの表現…展覧会を巡りながら、ご自身の「幸せ」に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。


構成:
 1.愛から生まれる幸せ       2.日本美術に見る幸せ   
 3.ことほぎの美術         4.アメリカ美術に見る幸せ
 5.アートでつなぐ幸せ      

 
 名古屋に文化の拠点を作る目的で、名古屋財界がアジア由来の作品が多量にあるボストン美術館に眼をつけ、そこから美術品を借用して展示する美術館を20年前に作った。
 しかし名古屋側の展示品希望の思惑が外れたことと、入館者数が想定よりかなり少なかったこと、ボストン美術館側が要求する寄付金が大き過ぎたことなどから、大赤字になり10月8日で閉鎖することとなり、この最終展が開かれた。
 多分美術館関係者にとって不幸な閉鎖に対して、「ハピネス」というテーマの展示会で終了するというので非常に興味があったが、酷暑のため出かける意欲に欠け、閉鎖直前で訪問することができた。

 美術館関係者は、「ハピネス」を提示する上で日本とアメリカの意識のずれを示したかったのだろう。1が世界全体、2/3が日本中心、4/5が米国中心の展示だったが、特に4/5で美術品に対する日本と米国の意識にずれが出ていたと思う。

1.愛から生まれる幸せ
 子供と親、家族、夫婦などの濃密な関係の情景を、エジプトやインドの古美術、印象派や浮世絵、そして現代の絵画や写真で表し、基盤的な愛の状態を示そうとしている。
一方的もしくは相互に愛を伝えようというものばかりで別離等の作品はなく、現在進行形の幸せのみを扱っている。
 
 まずエジプト古王朝の夫婦の像。妻が左手を夫の腰に回している。とてもいいカップル。
 そして無頓着な二人の愛ゆえにエデンを追い出されたアダムとエヴァのカップル。デューラーとレンブラント、そして現代作家のマウラーのものがある。ここには最も様式美のあるデューラーのものを示す。追い出された後はさておき、知恵のリンゴを食べる場面では、2人は本当に幸せだったのだろう。

 


 母と子の幸せの形として、喜多川歌麿の授乳や子供を膝枕で寝かせていたり、子供との散歩の姿を描いた肉筆浮世絵がある。そのうち「授乳」を次に示す。満ち足りた母の子供を見る眼が優しい。
 ヨーロッパからはミレーの「編物のお稽古」。こちらは部屋の雰囲気、母親の身体の動きや服の色で、とても優しい空間を作り上げている。

 


 兄弟の間の幸せな関係を示すルノアールの「ガンジー島の海辺の子供たち」。 中央の長女の優しい顔、そして彼女に守られて手元にいる子供の安心しきった顔。
 そしてアフリカの父子の写真。セイドウ・ケイタ作「娘を抱く父」。娘を絶対に幸せにするぞと自信を持っている父、そして安心しきっている子供がかわいい。

 





2.日本美術に見る幸せ
 日本と言うよりも東洋の範疇の話で、住みやすい自然環境、気の合う周辺の人たちとのふれあいの喜び、やりたいことがやれる楽しさなどを示すものが展示されている。
 絵巻物や屏風、襖絵などの大作が並べられて、このブロックが最も充実している。多くの作品のうち 3点を紹介する。

 自然環境を描いたものとしては、板谷桂舟「四季花鳥図屏風」。日本の春夏秋冬の美しさを煌びやかに贅沢な深い青と緑で描き、美しい鳥が飛びまた歩き回っている。





 人との関わりを描いたものとして菱川派 「江戸四季風俗図巻」。これは長い絵巻で15分ほど並んでから、約15分かけて見る。武家や民衆、そして湯屋等の江戸風俗が描かれているが、特にいいなと思ったのは、下記の人々が輪になって踊っているところである。



 そして今回の展示の目玉である曽我蕭白の「琴棋書画図」。音楽、書、絵と自分が好きなことを自由にできる場面を描いている(棋は欠けている。) 雄大な構想のもとに自由な線で描かれ、それぞれの人の楽しさが溢れている。特に絵を描く人は蕭白の自画像とも推定されているが、端正な姿勢で自分の気持ちを絵に込めようとしている様が清々しい。琴を弾く女性は嫋やかだけど不必要に美人ではないのがいい。そして集まっているおじいさん達の一人の、お腹いっぱいの髭が楽しい。





3.ことほぎの美術
 言葉や形で幸せを願うものに関わる展示がなされている。日本の場合には喜びの言葉に意匠を加えたもの、また刺繍で華やかに鶴や亀そして七福神などの吉兆を現すものを示した衣装などである。それに対してアメリカインディアンなどの縁起のいいネックレスや壷が展示されている。

 日本側の作品で、喜びの言葉に意匠を添えたものとして、葛飾北斎の作品「寿字と唐子図」、白隠和尚の作品等がある。
 前者は、有名な書家の寿の字に絡めて曲芸をしている子供を書いたもので、子供が生き生きと楽しんでいる様子が描かれ、北斎の肉筆のすごさがわかる。
 白隠和尚の「布袋図」では、布袋がいかにも楽しそうに、袋に大きく描かれた寿という文字を広げている。

 


 その他に 鯉とか七福神の絵や焼き物が展示されているが、その中で正木惣三郎の「宝船置物」が素晴らしい。小さいものだが乗っている七福神が、生き生きと人間臭く楽しそうに作られている。(これは 名古屋市博物館蔵)



 ここで女性陣がじっと動かなくなるものがある。それは着物や袱紗に描かれた刺繍。下に鮮やかに縁起の良い花が描かれた振袖(子供用に仕立て直されている)と、袱紗の宝船、そして高砂の袱紗を示す。

 


 振袖の花柄の絢爛豪華さは素晴らしい。商家の娘用とのことだがこの花柄に勝つことができるどんな素敵な女性が着たのだろうか。
 宝船は写真では平坦な感じがするが、実際のものは角度を変えて見ると妖しく輝きが変わる。そして高砂。この刺繍で特に素晴らしいのは2人が着ている薄物。本当に透けて見えるようだ。
 このような袱紗まで、美術品として海外で蒐集されていることがすごい。

 アメリカ側のものとしては、過去のものでなく20世紀に入ってからのインデアン工芸品に倣った焼き物とネックレス作品が展示されていた。
 焼き物作品の例として、壷。幾何学紋様が素朴。 そしてネックレス(アギラー作)。貴石を大事に使っている。きっと歴史的には魔除けの意味があるのだろう。

 


4.アメリカ美術に見る幸せ
 アメリカが独立しそして力をつけていく過程での、幸せになるんだという強い意志の素朴な美術品、またアメリカが海外進出して出会った日本や中国などの西洋とは違う新しい世界との付き合いに関わる作品が展示されている。東洋美術に関しては、今までにない心の平安のあり方を期待している。

 今回の展示の目玉になっているのが、「メリーゴーランドの豚」」。ケルニ製作のダンツェル・カルーセル社製。たぶん遊園地で実際に使われていたものだろうが、とても顔が楽し気で生き生きしている。この豚も幸せそうだし、きっとこの上に載って遊んだ人も幸せだったのだろう。 美術館がこんなものまで蒐集するなんて、アメリカは大胆。これならば日本は、ガンプラや怪獣のぬいぐるみを美術館は蒐集していくべきだ。




 アメリカの最初の頃の風景画。基本的に技術をヨーロッパから輸入したものとされているが、アメリカの雄大な風景を描くために、光の描き方がヨーロッパとは違うとアメリカの美術館に行くたびにそう思う。



 そしてやはりヨーロッパのスタイルと違う、アメリカ人の子供たちの描写。(ジョン・フランシス作 3人の子供)  
 子供といってもとても大人びた顔で、自分たちの未来を考え、とても自信を持っている。



 またアメリカの美術館で重要視されているのが写真。この展覧会でもアメリカの人の逞しさを記録する写真があった。

 

 そしてここのブロックには、東洋の考えを取り込もうと蒐集したものが展示されている。
 蒐集した人(カーティス)自身が、日本画を学ぶため描いた絵「山間望月」。日本画の技法をちゃんと取り入れている。そしてサイン、落款までこだわっている。

 こういったボストニアン蒐集者が集めた作品群、西山芳園作「白衣観音図」。非常に優しい顔の流れるような衣服の線。包み込むような愛を感じる。

 


 それからインドのシバ神にそしてチベットの小祠。シバ神は邪鬼を踏みつけながら、流麗に踊っている。チベットの小祠は高さ90㎝くらいの高さの箱の中に、数100体もの木製や土製の仏像がぎっしりと納められている。祈りの強さを感じる。

 


5.アートでつなぐ幸せ(アートの世界につつまれて)
 ボストン美術館というよりもアメリカ側の強い意志が出ている。アメリカの誇る現代アートを示し、アメリカ流の美術との付き合い方を見せている。そして特にポップアート作家ジム・ダインのハートマークの連作を示している。
 この展示で示したいことは「幸せ」について考え過ぎず、「幸せ」を感じること。

 最近アメリカンアートが強い勢力を持っているが、例えばコンセプチュアルアートのピーター・コフィンの主張は 作品に作者の伝えたい意図はなく、鑑賞者が自分の立場で自由に見て自由に解釈してほしいということ。
 彼の作品を下に示す。
 非常にカラフルでうきうきするようなポスター。こういったものを部屋に飾って、自分から幸せな気分になればいい。



 そして大量に展示されているのが、ジム・ダインのハートマークの連作。ハートマークという共通認識を、いろんな色、いろんな背景や描き方、大きさで並べている。マークで心の問題と認識させ、色などで気持ちにハレーションを起こさせる。版画であり、それほど高くなく、市場に大量にばら撒くことができる。美術品を生活に密着させることで、幸せを感じさせるようにしようとしている。 
 


 今回の展示は、日本中心の前半は重厚であり、米国中心の後半は日本人基準ならばあっけらかんとしたものと感じるかもしれない。でもそれが日本人と米国人(ボストニアン)それぞれの美術品との距離にあるのだと思う。
 日本人の場合は、教養として評価が定まったものの美しさに共感しようとしているのに対して、ボストニアンたちはその時の生きていく力を得るために、自分の共感するものや自分の生活を飾るものとして美術品を見ている。その基準は自分にあり、作者が無名の人でも気にしない。ぜ気に入ったのかを深堀りする人もいるし、そうじゃない人もいる。ともかくは自分の現在、そして未来を豊かにするものを、自分の周りに集めようとする。
 前半はほぼ評価の定まったものだから、日本人には共感を得るだろうけれども、後半のライフスタイルのファッションとしての美術品は理解が難しいものとおもう。

 また経済的困難から名古屋ボストン美術館の継続が困難となったが、ボストニアンたちにとっては理解できないことかもしれない。彼等の場合の美術館の設立は、大金持ちからの美術品の寄託であり、そして維持に関してはお金持ちの寄付である。彼等にとってみれば、チャリティはお金持ちの当たり前の社会的義務であり、また自分の美意識を主張出来るチャンスである。
 名古屋は自動車で儲けた富が集中しお金持ちもたくさんできただろうに、そういった動きがないということは、日本のお金持ちは主張する美意識も社会的モラルもかけているというように、ボストニアン達には思われてしまう。


コメント (2)
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