ある場所で、祇園の話を書くと書いたのですが、夏の話なので、こちらをアップします。 暫く前に 京都御所について書いたものの第2弾。
周りは一生懸命盛り上げてくれるのだが、気持ちが不思議にすれ違う女性を、下宿まで送り届けた。
門限はとっくに過ぎていたけれども、ともかくは壁の向こうへ引き取ってもらい、吹っ切れない想いで、賀茂大橋にさしかかった。今出川通りは、もう時たまにしか車は通らない。
橋の逆のたもとの街灯の中に、男女が向かい合っているのが見えた。近づいてゆくと、同じクラブの2人なのがわかった。
一歩の距離をおいて、お互いに顔を真っ赤にし、彼は照れながらも、包むようにやさしく彼女を見ている。彼女は嬉しいような真剣な顔で、左右に下向きに顔を振りつつ、時たまちらりちらりと彼を見ている。
ポツッ、ポツッと言葉を交わしているようだけれども、根が生えたように動かない。
あっ告白の場に遭遇したのだと直感した。
戻るのも変だし、反対側の歩道だったので気がつかないかもしれないと、そのまま歩いていった。
しかし偶然オートバイが、くだらない大きな音と冷やかしの声を浴びせて通り過ぎたため、それを追った彼の眼が私に気がついた。
そして、私に声をかけた。
「やあ。」
聞くたびに悔しくなる、やさしいバリトン。しょうがないから答える。
「やあ。」
「○○さんを送っていったんだろ。」
なぜこんなところで、念押しするようにあの子の名前をだすんだ。
「そうだよ、じゃあね。」
そのとき彼女も、こちらを見て納得したかのように、会釈した。
そのまま通り過ぎ、暫くして振り返ると、まだそのまま向かい合っている。
彼は、以前私がからかうつもりでわざと弱音を吐いたら、真剣に一緒に考えようとしたやや鈍感なとてもいい奴、バイオリンを弾くと、音色だけでなくその恍惚とした顔そのものに引き込まれてしまう。
彼女はその気配りで誰からも好かれ、その半拍遅れた対話にこれまで癒されてきた私自身も、密かに好きだった。
少し迂回し、川下に出て様子を見ると、まだ立っている。
そのまま賀茂川の堤を降りて、歩き出した。
涙が出てきた。
時々、草むらにすわり、寝転び、雲が流れる夜空を見る。
なぜあんな純愛ってものを見てしまったのだろう。
コンチキショーって言いたい。
2人は一歩離れているけれども、その間には心がぎっしり詰まっていて、隙間はない。
さっさと一歩前に踏み出して欲しい。
私自身の密かな思いが絶たれたことよりも、2人が気持ちをつなげるのに、こんな風に彼が愛そうとしているのだとわかったことが、ショックだった。
どうやったら私は、ああいう風に愛することができるのだろう。
そしてどのようにして愛する人を見つけ、愛してもらえることができるのだろう。
その資質が、そのときどう考えても私の中にない、そしてどうやったら育てることができるのかわからないということが、本当に悔しかった。
春を迎えた川のせせらぎの音はやさしく、堤の草も柔らかく緑の香りで包んでくれた。
しかし、時たま覗く三日月の鎌の先に引っ掛けられて吊るされている、身動きのできない私がいた。
(Cafesta てんちゃんからの転載)
周りは一生懸命盛り上げてくれるのだが、気持ちが不思議にすれ違う女性を、下宿まで送り届けた。
門限はとっくに過ぎていたけれども、ともかくは壁の向こうへ引き取ってもらい、吹っ切れない想いで、賀茂大橋にさしかかった。今出川通りは、もう時たまにしか車は通らない。
橋の逆のたもとの街灯の中に、男女が向かい合っているのが見えた。近づいてゆくと、同じクラブの2人なのがわかった。
一歩の距離をおいて、お互いに顔を真っ赤にし、彼は照れながらも、包むようにやさしく彼女を見ている。彼女は嬉しいような真剣な顔で、左右に下向きに顔を振りつつ、時たまちらりちらりと彼を見ている。
ポツッ、ポツッと言葉を交わしているようだけれども、根が生えたように動かない。
あっ告白の場に遭遇したのだと直感した。
戻るのも変だし、反対側の歩道だったので気がつかないかもしれないと、そのまま歩いていった。
しかし偶然オートバイが、くだらない大きな音と冷やかしの声を浴びせて通り過ぎたため、それを追った彼の眼が私に気がついた。
そして、私に声をかけた。
「やあ。」
聞くたびに悔しくなる、やさしいバリトン。しょうがないから答える。
「やあ。」
「○○さんを送っていったんだろ。」
なぜこんなところで、念押しするようにあの子の名前をだすんだ。
「そうだよ、じゃあね。」
そのとき彼女も、こちらを見て納得したかのように、会釈した。
そのまま通り過ぎ、暫くして振り返ると、まだそのまま向かい合っている。
彼は、以前私がからかうつもりでわざと弱音を吐いたら、真剣に一緒に考えようとしたやや鈍感なとてもいい奴、バイオリンを弾くと、音色だけでなくその恍惚とした顔そのものに引き込まれてしまう。
彼女はその気配りで誰からも好かれ、その半拍遅れた対話にこれまで癒されてきた私自身も、密かに好きだった。
少し迂回し、川下に出て様子を見ると、まだ立っている。
そのまま賀茂川の堤を降りて、歩き出した。
涙が出てきた。
時々、草むらにすわり、寝転び、雲が流れる夜空を見る。
なぜあんな純愛ってものを見てしまったのだろう。
コンチキショーって言いたい。
2人は一歩離れているけれども、その間には心がぎっしり詰まっていて、隙間はない。
さっさと一歩前に踏み出して欲しい。
私自身の密かな思いが絶たれたことよりも、2人が気持ちをつなげるのに、こんな風に彼が愛そうとしているのだとわかったことが、ショックだった。
どうやったら私は、ああいう風に愛することができるのだろう。
そしてどのようにして愛する人を見つけ、愛してもらえることができるのだろう。
その資質が、そのときどう考えても私の中にない、そしてどうやったら育てることができるのかわからないということが、本当に悔しかった。
春を迎えた川のせせらぎの音はやさしく、堤の草も柔らかく緑の香りで包んでくれた。
しかし、時たま覗く三日月の鎌の先に引っ掛けられて吊るされている、身動きのできない私がいた。
(Cafesta てんちゃんからの転載)