前回に続いて、今度は 2日に起こった表記の衝突事故で私の気がかりなことを書きます。
この事故は、主翼および胴体がほとんど新しい材料であるCFRP製のA350という大型機が初めて衝突事故を起こし炎上した状況が公開情報となったことで、全世界から注目を浴びている。
複合材料の配置、胴体の構造を下記に示す。
<A350の材料 青がCFRP>
<内装前の胴体構造 リング状の部材と縦方向の部材が表面板に取り付けられている>
CFRPとは炭素繊維強化樹脂系複合材料といって、樹脂の中に非常に強度の高い炭素繊維を埋め込むことで、重さあたりの強度を鉄やアルミなどよりも強くした材料で、構造全体を軽くできる。最初軍用機に使用されていたが、暫く前から民間機にも使われるようになった。このサイズの大型機では一度欧州で軍用機の墜落事故があり炎上したそうだが、状況は秘密扱いとなっている。
炭素繊維とは、以下のようなもので直径10ミクロンメートルであるためしなやかである。ただしちいさな半径で曲げれば、折れてしまう。
<炭素繊維の外観>
今回の事件で一般に騒がれているのは、まず事故の原因、それから衝突後の破壊から完全燃焼の経過である。
事故原因については、第一原因として海上保安庁側が管制の指示を間違えたことが挙げられるが、ひとつの間違いでもリカバリーして安全回避できるはずなのが航空機運航のシステムで、空港側の不備も挙げられている。
事故の破壊から完全燃焼の過程については、ネットでは下記のような評価となっている。
1.衝突時にA350の構造全体に顕著な損傷は起こらずに原型を留めた。よってCFRP構造の構造安全性が示された可能性がある。
2.機体全体に火が廻るのに時間がかかったおかげで、乗客が脱出できる余裕ができた。
ただし、1については現段階では複合材料が新しい材料であるので、安全率を高めに設計し、また衝突の仕方も偶然負荷がかかりにくくなっていただけであったかもしれない。破壊モードが金属の場合は形が崩れる塑性変形で、CFRPはある荷重までは弾性変形でそこまでなら形がもどるという状況だったと考えられる。その荷重を越えると衝撃的にバキッと折れるのだが・・・
2については、CFRPは約300℃で熱分解をはじめ条件によっては燃えだす樹脂が約30%と、炭素の塊だが500℃を越えてゆっくりと外側から灰化していく超高級な炭であるカーボン繊維が70%の混合体である。ただし樹脂は燃焼時にはすこし有毒ガスを発生する。
従来のアルミニウムの場合は燃えないが、多分300℃を越えると軟化して自重で変形をはじめ、600℃を越えると溶融する材料である。
海上保安庁機の燃料ケロシンを浴びてそれが燃えだしたとすると、多分アルミ構造なら熱伝導率もよいため、早い段階で高温になった形状が順次崩れ落ちるが、CFRPの場合は表面の樹脂が燃えだしても中の繊維が燃えにくいので構造を保持すると理解でき、今回の状況はわかる。ただし有毒ガスの問題があるので、遅く脱出した乗客の健康確認は必要だと思う。
私が注意しなければならないと思っているのは、ゆっくりと胴体の火が広がっているのに途中で何故消せなかったかということ、そして火災後の現場の処置である。
<なぜ途中で火が消せなかったのか>
テレビで見ていると、初期段階では胴体は外は大したことがなく、寧ろ中で火が広がっている。火災後の処理を考えると、早期段階で消してほしかった。
テレビで見た火災状況を示す。
<火災初期 窓から火が噴き出している>
<火災最盛期 構造のリング状のもの、縦の部材がうっすら見える>
外は消防車のアクセスがあり抑えられるが、中はアクセスがないこと、また内壁や断熱材、座席等の難燃物質のはずのものが燃えたのかもしれない。初期段階で覚悟を決めて爆破等でアクセス孔を明け、内部消火できる手段を考えるべきだろう。
<消火後の処置>
消火後に胴体の部分に、真っ黒いものが寝て固まっている。樹脂は燃えたけれどもその温度が低くて灰化せず燃え残った炭素繊維と思われる。
それを除去するのに、ショベルカー等の陸上工事機械を使っていて、とんでもないと思った。
除去作業を下記に示す。
<崩れ落ちた構造 黒く見えるのは樹脂が燃えて露出した炭素繊維と思われる。
<壊し始め 高いところから構造をはがし始める>
<
<地面に落とした炭素繊維をトラックに組み込む>
<
<最後は手で拾って集める>
炭素繊維は前述の様に10ミクロン程度の細い繊維で、樹脂内に埋まっていれば取り扱い性に問題はないが、裸になっていると横からの力でポキッと折れやすくなる。その際微小な破片も飛び散ることが考えられる。また細い線が皮膚に刺さることもある。
ずっと以前軍用機等のCFRPの塊が火災になった時、カーボン繊維の細かい破片が飛び散って広がり、電子機器を汚染(導電体なのでLSI等にくっ付いてショートする)怖れが懸念されていたが、その後話題になっていないので、大丈夫だったのだろう。しかし繊維が刺さることの消火士への安全性、また消火後の取り扱いで、繊維を壊して細かい繊維を周辺にばらまいてしまうことを防止する対策は必要だと思っていた。
炭素繊維協会が示している、炭素繊維の取り扱い指針を下記URLに示す。
https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/toriatsukai.pdf
これはきれいな炭素繊維に対応するもので、きれいならば炭素繊維と肉体は悪い反応はしないとされているが、表面が他の物質で汚染もしくは修飾去れている場合は、なにが起こるかわからない。
ショベルカーなどで叩いていたので、繊維が折れて周辺に短繊維や破片がばらまかれたろう。空港は広いが、かなりの風が吹くのでどこまで繊維が飛んで行ってしまったかを確認すべきだ。
まずは消防士とその後の調査員、そして後片付けの現場作業員の健康のヒアリングを行うこと、そして繊維の飛散状況を調査すべきだ。そしてその結果を今後のために公表すべきと考える。
なぜなら、高級な自動車にCFRPは使用されつつあるとともに、ドローンや空飛ぶ車ではCFRPが主要材料になりつつある
。それらが燃えた場合には空港のような整備の整った消防隊が駆けつける訳ではない。新材料に対して未経験の一般の消防士が駆けつけるし、周辺を野次馬が囲うかもしれない。そういった場合の安全性対策を、今度の事件から学び、資料化すべきである。
この事故は、主翼および胴体がほとんど新しい材料であるCFRP製のA350という大型機が初めて衝突事故を起こし炎上した状況が公開情報となったことで、全世界から注目を浴びている。
複合材料の配置、胴体の構造を下記に示す。
<A350の材料 青がCFRP>
<内装前の胴体構造 リング状の部材と縦方向の部材が表面板に取り付けられている>
CFRPとは炭素繊維強化樹脂系複合材料といって、樹脂の中に非常に強度の高い炭素繊維を埋め込むことで、重さあたりの強度を鉄やアルミなどよりも強くした材料で、構造全体を軽くできる。最初軍用機に使用されていたが、暫く前から民間機にも使われるようになった。このサイズの大型機では一度欧州で軍用機の墜落事故があり炎上したそうだが、状況は秘密扱いとなっている。
炭素繊維とは、以下のようなもので直径10ミクロンメートルであるためしなやかである。ただしちいさな半径で曲げれば、折れてしまう。
<炭素繊維の外観>
今回の事件で一般に騒がれているのは、まず事故の原因、それから衝突後の破壊から完全燃焼の経過である。
事故原因については、第一原因として海上保安庁側が管制の指示を間違えたことが挙げられるが、ひとつの間違いでもリカバリーして安全回避できるはずなのが航空機運航のシステムで、空港側の不備も挙げられている。
事故の破壊から完全燃焼の過程については、ネットでは下記のような評価となっている。
1.衝突時にA350の構造全体に顕著な損傷は起こらずに原型を留めた。よってCFRP構造の構造安全性が示された可能性がある。
2.機体全体に火が廻るのに時間がかかったおかげで、乗客が脱出できる余裕ができた。
ただし、1については現段階では複合材料が新しい材料であるので、安全率を高めに設計し、また衝突の仕方も偶然負荷がかかりにくくなっていただけであったかもしれない。破壊モードが金属の場合は形が崩れる塑性変形で、CFRPはある荷重までは弾性変形でそこまでなら形がもどるという状況だったと考えられる。その荷重を越えると衝撃的にバキッと折れるのだが・・・
2については、CFRPは約300℃で熱分解をはじめ条件によっては燃えだす樹脂が約30%と、炭素の塊だが500℃を越えてゆっくりと外側から灰化していく超高級な炭であるカーボン繊維が70%の混合体である。ただし樹脂は燃焼時にはすこし有毒ガスを発生する。
従来のアルミニウムの場合は燃えないが、多分300℃を越えると軟化して自重で変形をはじめ、600℃を越えると溶融する材料である。
海上保安庁機の燃料ケロシンを浴びてそれが燃えだしたとすると、多分アルミ構造なら熱伝導率もよいため、早い段階で高温になった形状が順次崩れ落ちるが、CFRPの場合は表面の樹脂が燃えだしても中の繊維が燃えにくいので構造を保持すると理解でき、今回の状況はわかる。ただし有毒ガスの問題があるので、遅く脱出した乗客の健康確認は必要だと思う。
私が注意しなければならないと思っているのは、ゆっくりと胴体の火が広がっているのに途中で何故消せなかったかということ、そして火災後の現場の処置である。
<なぜ途中で火が消せなかったのか>
テレビで見ていると、初期段階では胴体は外は大したことがなく、寧ろ中で火が広がっている。火災後の処理を考えると、早期段階で消してほしかった。
テレビで見た火災状況を示す。
<火災初期 窓から火が噴き出している>
<火災最盛期 構造のリング状のもの、縦の部材がうっすら見える>
外は消防車のアクセスがあり抑えられるが、中はアクセスがないこと、また内壁や断熱材、座席等の難燃物質のはずのものが燃えたのかもしれない。初期段階で覚悟を決めて爆破等でアクセス孔を明け、内部消火できる手段を考えるべきだろう。
<消火後の処置>
消火後に胴体の部分に、真っ黒いものが寝て固まっている。樹脂は燃えたけれどもその温度が低くて灰化せず燃え残った炭素繊維と思われる。
それを除去するのに、ショベルカー等の陸上工事機械を使っていて、とんでもないと思った。
除去作業を下記に示す。
<崩れ落ちた構造 黒く見えるのは樹脂が燃えて露出した炭素繊維と思われる。
<壊し始め 高いところから構造をはがし始める>
<
<地面に落とした炭素繊維をトラックに組み込む>
<
<最後は手で拾って集める>
炭素繊維は前述の様に10ミクロン程度の細い繊維で、樹脂内に埋まっていれば取り扱い性に問題はないが、裸になっていると横からの力でポキッと折れやすくなる。その際微小な破片も飛び散ることが考えられる。また細い線が皮膚に刺さることもある。
ずっと以前軍用機等のCFRPの塊が火災になった時、カーボン繊維の細かい破片が飛び散って広がり、電子機器を汚染(導電体なのでLSI等にくっ付いてショートする)怖れが懸念されていたが、その後話題になっていないので、大丈夫だったのだろう。しかし繊維が刺さることの消火士への安全性、また消火後の取り扱いで、繊維を壊して細かい繊維を周辺にばらまいてしまうことを防止する対策は必要だと思っていた。
炭素繊維協会が示している、炭素繊維の取り扱い指針を下記URLに示す。
https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/toriatsukai.pdf
これはきれいな炭素繊維に対応するもので、きれいならば炭素繊維と肉体は悪い反応はしないとされているが、表面が他の物質で汚染もしくは修飾去れている場合は、なにが起こるかわからない。
ショベルカーなどで叩いていたので、繊維が折れて周辺に短繊維や破片がばらまかれたろう。空港は広いが、かなりの風が吹くのでどこまで繊維が飛んで行ってしまったかを確認すべきだ。
まずは消防士とその後の調査員、そして後片付けの現場作業員の健康のヒアリングを行うこと、そして繊維の飛散状況を調査すべきだ。そしてその結果を今後のために公表すべきと考える。
なぜなら、高級な自動車にCFRPは使用されつつあるとともに、ドローンや空飛ぶ車ではCFRPが主要材料になりつつある
。それらが燃えた場合には空港のような整備の整った消防隊が駆けつける訳ではない。新材料に対して未経験の一般の消防士が駆けつけるし、周辺を野次馬が囲うかもしれない。そういった場合の安全性対策を、今度の事件から学び、資料化すべきである。
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