小春日和の中、久しぶりに一人で美術館に出かけてみた。 シニアーになると、入館料が割引されることなど知らなかった。 それ程ご無沙汰である。
出かけてきたのには理由があった。 童話画作家100人展が開催されているからである。
久しぶりの一人街歩きも楽しもうと、早めに家を出て、古本屋巡りをした。 新刊本の本屋さんは、近所に郊外型大店舗があるのでそこで用事が済んでしまう。
わが住む街には、古本屋がない。 そこで広島の中心街へ出ると「古本屋」。 これが私の近頃の、街の散策の目的である。 三軒の店を尋ねたが、目的の古本が無かった。
昭和30年代から営業している喫茶店に思わず飛び込み、懐かしの「イタリアンスパゲティ」を「キリマンジャロ」のコーヒーと共に注文したら、途端に店の奥からTVカメラが出てきて、取材させてくれという。 「 ・・・・・?。」 地元のTV局が取材をしていたらしい。 気がつかなかった。 どうも広島の喫茶店のメニューの、「イタリアンスパゲティ」について取材していたようである。 そこに私が入るなり「イタリアンスパゲティ」を注文したので、TVカメラが飛んで来たようである。この喫茶店は、昭和40年代からの馴染みの店である。
昼食の「ナポリタン」を食し、 今日はなにか起こりそうな日だと思いながら、美術館に向かった。
美術館の庭には、ツグミがのんびりと餌を探している。 同年代の親子連れの女性が私の前を横切っていった。 親子で美術館そんな休日も良いだろうなと思いながらベンチに腰をかけて、私はツグミを見ていた。
何かしら視線は感じてはいたが、田舎オヤジ丸出しの服装で出かけてきた私なので気にもとめず。 広島県下に、二枚の「ゴッホ」の作品がありその一枚が「ひろしま美術館」に常設されている。 ゴッホが入院していた精神病院の庭を描いたもので、私は大変に気に入っているのである。
印象派の作品が多く収蔵されているが、私はこのゴッホ絵一枚見るだけで十分である。
十分に堪能して、美術館の中の喫茶室で紅茶を注文し、一人庭の木を眺めていた。イタヤカエデの木だろうか?。・・・・
小えだに昨年の実が残り付いているのに気がついた。 紅葉や楓の実は羽を持っている。 風に飛ばされ遠く迄運ばれて種の保存を図るためだそうであるが、枝から離れる時期も少しずつずれて飛んでいくそうである。 それにしてももうすぐ春。 新しい葉が出始めりころには旅立つのだろうと見上げていた。
「失礼ですが、藤森さんではありませんか?」 失礼も何もない、間違いなく本人である。 入館した時、私の前を通りすぎた同年代の親子が声をかけてきたのだ。
女性が45年経つと変わる。 名乗られれば面影があった。 娘さんの顔は若かりし頃の彼女の面影をそこに留めている。 「確か結婚して、大阪に行かれたと聞いた」がと話すと、先年連れ合いを「癌」で亡くし、娘の住む広島に戻ってきたそうである。 なぜ娘さんが広島?。 どうも色々事情があったらしく、娘さんが実家を継いだそうである。
ところで、今一枚のゴッホの絵は、「ウッドワン美術館」にある。広島市内から、30km。約一時間の山の中に作られた美術館で、当初ゴッホの物とは分からずに所蔵されていたが、修復作業時にゴッホと判明し、加筆された部分を取り除き、展示されている。これは、「人物画」である。 広島にお越しの際は、是非ともご覧下さい。