最近はデザインを重視したマンションが増えてきています。独特の雰囲気をかもしだし、住民に愛される一方で、特殊な様式のために大規模修繕時に懸案となることもあります。今回はそういった事例を、設計を担当した設計会社の方に紹介していただきます。
団地概要
コンセボール21多摩は、京王・小田急多摩センター駅の北側に位置し、駅のプラットフォームからパステルカラーの印象深いファサードを遠望することができる。総戸数211戸。高層棟2棟を含む14棟は、全棟がおだやかな斜面に配置され、新築時の設計者が意図した地中海風の色彩が周辺の雰囲気を決める大きな要素になっている。
今回の工事は始めての大規模修繕工事である。新築時の外壁は陶磁器質の塗材を特殊なローラーで転塗して、凹凸の大きな模様をつけていた。この仕上げは外壁に深みのある素材感をだす一方で、雨筋などの汚れが付きやすい欠点があった。今回の工事では新築時に計画された固有の色彩と、陶磁器質ローラー仕上げの深みをどのように受け継いでいくかが大きな課題となった。
外壁汚染対策の検討
大規模修繕工事を実施するにあたって、懸案になったのは外壁の汚染防止対策で、外壁を極力汚染させない方法を準備段階から検討した。汚染が目立ったのは、階段踊り場やバルコニーの手すり壁、庇見付け、外壁の最上階付近である。これらの部位には水切り処理がされておらず、それぞれの天端に溜まった埃などが雨水とともに壁をつたって流れ、壁面を汚染していた。そこで建物の各所に水切りを取り付け、壁面の雨だれ汚染を軽減させることにした。
各種手すり壁の天端には、外壁にモルタルが使用されていたころの一般的な仕様であるモルタル製の水切り笠木を左官仕事で施した。屋上パラペット廻りや、小庇天端には、アルミ製水切り金物を取り付けた。施工段階ではモルタル笠木、アルミ水切り金物ともに建物の一部で試験施工をして、効果を確認したのちに全体の工事を実施した。
色彩計画
コンセボール21多摩の特徴は、パステルカラーを配した外壁色にある。外壁塗替え色の選定は居住者の大きな関心ごとであり、団地のイメージを左右する大きな要因でもある。特に、コンセボール21多摩では新築時の色彩イメージが居住者の間に強く定着しており、新築時の色彩コンセプトを踏襲しながら、時代に即した色調に調整することが設計者に求められた課題であった。
改修前は、一階が茶系の磁器質タイル、中間階は各建物タイプでそれぞれ黄、赤、グレー、オレンジ系のアクセント色が配され、さらに最上階は数種類のアイボリー系になっていた。これはひと昔前の単色による建物イメージとは異なって、バブル経済終焉直後の時代性を反映したものである。ここに一定のコンセプトは感じられるものの、現代にあっては使用されている色が多すぎると判断した。
色彩計画にあたって、まず新築時の設計関係者にヒアリングをおこない、当時の色彩計画のコンセプトを確認することから始めた。その上で、各棟最上階のアイボリー色を全棟の共通基準色として、中間階のアクセント色は全体のバランスを考慮して3色に絞り込んだ。設定した色は、団地の経年による成熟に配慮して新築時の色より彩度を下げ、落ちついた雰囲気を意図した。これにより、新築時の基本コンセプトを踏襲しつつ、現代に対応した団地全体の固有性と統一感を表現した。
外壁改修
大規模修繕工事では、一般に、ひびわれなどの躯体改修工事や、既存の脆弱な塗膜の剥離処理などを実施する。外壁塗装にあたって、現在の特殊な仕上げパターンを生かすことが望まれたので、ひびわれや塗膜の剥離補修後の調整が難しかった。そこで、健全な部分は弱溶剤型低汚染タイプのトップコートを塗り重ね、補修跡の調整は新築時の仕上げパターンローラーと同一のものを用意して対応した。また、実際の工事にあたっては入念な試験施工を実施し、補修跡や塗装の仕上がり状態を確認した上で全体の工事に移った。
おわりに
団地が新築された1990年代初頭は、個性的な色彩や仕上げを施した団地型マンションが多い。今回の工事では、新築時の時代背景や、これからの定住化時代へ向けての団地のあり方を修繕委員の皆さんと何度も話し合うことから、多くの改善事項を決め、色彩計画のコンセプトを決定することができた。これらのことにより、団塊の世代が中心となった団地型マンションのモデルとなる成果が得られた。
(株)スペース・ユニオン 一級建築士 藤木亮介
<アメニティ新聞258号 2004年3月掲載>
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