高等学校の物理で「力は質量&速度の2乗に比例する」
という風に習った。さすがに E、a、m、s の実数は習わなかったが…。
空気の破壊力
5月6日につくば市で発生し猛威を振るった竜巻は時速60kmの速度で500m幅をもって15kmをかけぬけたという。竜巻の渦(うず)自体の回る風速は秒速50~69m(時速180~250km)相当といわれている。土台だけ残して破壊された建物や折れ曲がった電柱などへは、瞬間的であれ、通過速度60kmも加算された風速(240~310km)の2乗に比例した力が加わったことになる。風速の2乗という事の実態は分からないが、とてつもない数字になる事は想像がつく。風速という空気の運動とはいえ、竜巻ほどの速度になると、空疎な空気(m=質量)でさえ津波なみの大きな破壊力となるのである。
速度の破壊力
津波が沿岸を襲った時の早さは岩手県宮古市では2カ所で観測されている。いずれも速度は推測であるが田老摂待海岸で時速30km、 重茂半島の川代地区で115kmと報道された。前者は140トンといわれる巨石を海岸から500m陸上に運んだ計算から、後者は、沿岸の津波の連続写真からの計算であるという。
まず140トンの巨石を軽々と地上500mを転がした水(m=質量)の力に驚いた。次いでその田老摂待海岸の津波の速度30kmの、約4倍の重茂海岸の津波の速度115kmに驚いた。力のエネルギーに換算すると約15倍の力になる。140トンの15倍、2100トンの岩を、一帯で、くり返し繰り返し、軽々と転がす事になる、と言ったら言い過ぎであろうか?
摂待海岸の巨石(写真出典不明)
津波の破壊力
水に比べたら空気は限りなく0(ゼロ)に近い重さである。真空では水の約1/1000の重さ(=空気の質量=m)だという。運動のエネルギーは速度の2乗に比例して大きくなるほか、質量 m にも比例する。速度の2乗に比例する運動のエネルギーは、空気の塊(かたまり)である竜巻でさえ、つくば市のような破壊力を発揮する。空気でなく水の塊である津波が、竜巻の渦なみの高速で沿岸を襲撃するのであるから、その破壊力は、それこそ、ある程度正確にシミュレーションしたら、想像を絶する結果が出るはずである。竜巻の渦と同じ速度なら最低でもその1000倍! 竜巻は範囲も狭く、比較的短時間の破壊力である。津波は1000倍の力を維持して、継続して、無限広範囲で、沿岸を撃ち続ける。沿岸の全てのコンクリート構築物を粉砕するまで…
津波の破壊力は高さではない
長々と書いてきた理由は、岩手県や宮古市のシミュレーションが全て浸水深にかぎられているからである。侵入津波の高さ、また浸水の深さは、それだけでは津波の破壊力の大きさを表すものではないという事を言いたいからである。津波のタテの高さや深さは破壊力の大きさには必ずしも比例しないということを考えてほしいからである(運動のエネルギー的にはゼロである)。この点が、やまごの洪水学者や、やまごの県庁の役人が、故意に見落とすか、軽視しているところである。
海彦は子どもでも誰でも、この事は、経験上、ものの道理として感覚的に知っているのである。津波は、横への速度次第でその力は破壊の力となる。ただ木材が浮いたり水が出たりするのでは破壊のエネルギーにはそれほどの差はないといえる。津波が破壊的で恐ろしいのはそれが高速度で横に動くからである。2メートルで家が倒壊し30センチで人が死ぬといわれる所以である。海彦の防潮堤に対する不信は、その高さではなく、それ自体が津波の破壊力に対抗することが出来るかどうか疑問だからである。
岩手県庁の言い分
県庁の役人は、本当の破壊のシミュレーションに県民の目が向かないように「結果がすでに出ている」と宣伝している。彼らは、彼らの目的である防潮堤の高さを決めるために、また防潮堤の高さの有効性を証明したいために根拠薄弱な物語を作っている。これまでの巨大津波から、高さだけを拾い上げて、地形をなぞって浸水深を決めている。そこから防潮堤の高さを引き算してそれをもってシミュレーションであるとしている。目的的な幼稚なシミュレーションである。だから、そこからは、他に何一つ有効なものは出てこない。例えば一番大事な津波の強さ(破壊力)が導き出せないでいる。津波の多様性、跛行性、地域性などは無理。早い話が防潮堤の強度、有効性の説得は不可能なのである。(1)巨大津波の結果を何度経験しても有効なシミュレーションをすることが出来ないのはシミュレーションの目的が決まっているからだ(2)県庁のシミュレーションは遠からず必ず破綻する。理由は宮古湾湾奥問題と、そのもどり波問題を見れば明らかだ。──