(2)工事中断の背景 よりつづく
防潮堤について鍬ヶ崎そして「鍬ヶ崎の防潮堤を考える会」が当面する問題は、住宅、海の景観、海のなりわい、地場産業など復興問題に関連する諸問題である。いま、気仙沼から発し国会議員に請願する「巨大防潮堤より避難道を」運動と軸を同じにするところもある。この岩盤シリーズでなぜ(1)(2)(3)(4)と防潮堤のハード問題に言及するのかといえば、岩手県がこのハードについて誤った設計、手抜き施工をしているばかりか強引な正当化のPRを始めているからである。影響されて地元の一部の人々が安易に同調しているからである。ハードへも介入せざるを得ない。
1、鋼管杭の「横バネ」とは?
P.9
図 10 岩手県・宮古土木センター資料(2014.11.4)
岩手県が「横バネ」を説明した唯一のページ。「杭が水平力を、横抵抗で負担するので、壁の自重(重さ)は重力式ほど必要ないため、壁は小さくなります」とある。絵も文章も貧弱すぎる! 内容的には産湯を捨てようとして赤子を流している…。壁や敷地が小さくなる事を誇示して、防潮堤は無力なものになった。それだけ…
図 11 津波の力を受ける直立式防潮堤
鋼管杭は防潮堤にかかる津波の力の他に、地下の地層のあり方によってもさまざまな力を受ける。いかに鋼管杭が「横バネ」に優れていようとも、鋼管杭が図11のようにずれたり傾いたりすれば即(そく)防潮堤の崩壊につながる…
図 12 鋼管の強さ、鋼管の弾力性で防潮堤を支える。それを支える支持地盤 ◯
鋼管杭は横バネを発揮するためにはびくとも動いてはならない。図12は、あり得ない事を誇張して描写している。鋼管杭の傾きも、弾力性による復元もほとんど0(ぜろ)でなければならないからである。復元力が発揮される前段、傾きがわずかに生じた時点で防潮堤全体の崩壊の始まりの危険信号となるからである。そうではなく、鋼管杭の「横バネ」を有効にするにはなにより支持層(岩盤等)に足もとが強固に埋設されていなければならない事を言いたい。その事が大前提だ。図の赤丸のところ、ここが弛んだり遊んだりする事は許されないことだ。それがいわゆる「横バネ」を発揮させる前提であり条件となる…。ビル建設のコンクリートパイルなどとの違いを考えてほしい。
2、「横バネ」を利かすには、支持地盤の(1)硬さ(2)傾きなどの地形が問題
(1)硬い岩盤が第一の前提である
図 13 鍬ヶ崎調査地地質縦断図「凡例」
鋼管杭支持層(鋼管杭の埋設地盤)については図13のような予定地地質のうち、本命は反古になった縦断図の「宮古層群」、「陸中層群」(R-CL)のようであるが土層や層群の分類のほか珪質粘板岩、風化珪質粘板岩(いずれも日立浜地区追加ボーリングの最下層地質)といった岩盤名の区分などがあって、素人にはにわかには分からない。とりあえず「岩盤」の硬さと覚えておく。なんであれ岩盤の硬さが鋼管杭の「横バネ」を引き出す一つの前提である。岩手県は認定有効土層、有効地層、有効岩盤名などをそれとして公表するべきだ…
それ以外の沖積地質などは鋼管杭の「横バネ」を引き出すというより鋼管杭を挟んで支えるだけの普通の土砂と覚えておいた方がよい。その方が近いのではないかと思われる。図11のように有事のとき単独では役に立たない地層群である。これら地層群の方の鋼管杭に及ぼす支持力効率はどうなっているのであろうか? 一見、岩盤以外を地質調査する意味が分からない…
注意)前ページの中・高生「講座」で分かったと思われるが「宮古層群」は「宮古の地層」みたいなローカルの分類ではなく地質学にとっての一般的な学術カテゴリー(分類・言葉)である。そこは注意しないとややこしくなる…
(2)鍬ヶ崎の岩盤の地形が「横バネ」を利かなくする。海側に落ち込む傾斜地形
図 9-1 図 9-2
鍬ヶ崎防潮堤予定地の深層の岩盤は(予定地を横断的に)陸から海の方向に向いて急傾斜で落ち込んでいる(図9-2)。まだ実証されていないので傾向としてでもいいし、推測としてでもいいが、岩盤が都合よくフラット(図9-1)だとは考えにくい。陸側から海側に横断的にペアを組む鋼管杭の間隔、7m~8mの間隔の作り出す岩盤傾斜の上下の高低差は計り知れない。1:2 、1:3 の高低差があってもおかしくなく、15m、20mの「想定より深い支持地盤が確認」されても不思議ではない。なによりも急斜面によって鋼管杭の打設が阻まれ、鋼管杭の打設によって薄い岩盤斜面が蹴上げられ崩壊する事も想定される。「横バネ」が利く利かないの以前の事態である。
岩手県は根拠もなく地下岩盤は横断的にはフラットだと考えてきたから、遅きに失っして「防潮堤整備箇所全区間において、追加のボーリング調査を行いました」(PRちらし第1号=5月)という事になったのだ。すでに鋼管杭を打設した場所において、打設を中断している場所おいて、これから打設を予定している全ての場所において、次々に「想定より深い」支持地盤が発見されてくるはずだ。──この辺りの「不備」「迷い」「予感」が中断の理由、中断の真意、岩手県庁の深層の闇。いくら追加ボーリングしても縦断線上のものであれば問題は解決しない。
(3)「横バネ」だけの問題ではなくなった。岩手県は鍬ヶ崎地区海岸線の地層、深層岩盤に対応していない
図3、図4、図5をよくみると横断方向のペア鋼管杭は疑いもなく同じ長さで統一されている。図9−2にみる通り岩盤の深さの高低差があるはずなのに無視して設計し、作業企業体、現場作業員に誤った指示を出している。その結果が現場からの反発である。工事を中断せざるを得ない。全国どこの地区にも通用するというメーカーの営業マニアルを優先させて、当の作業現場から猛反発を喰っている。作業現場とは作業員という意味の他に、他ならない現地の深層岩盤からである。メーカーの主観的机上設計が、現地の岩盤に合わなくなり、全工程のやり直しに直面しているのが現状である。防潮堤基礎設計は現地の岩盤に合わせて設計するべきである、と…
横断断面に対する手抜き地質調査のために、バネを利かすとか、有効な鋼管杭を打設するとかの本来の目的から外れて、工事のための工事、打設のための打設になってきている。前言を繰り返すが「大半の杭(くい)が横バネ効果を発揮するどころかまともに打ち込めるかどうかも分からない。岩盤から外れたり岩盤を破壊したりする」「更に困る事は、鋼管杭の埋設の長さの調整をするために余分な長さの鋼管杭を打ち込み、必要量をはるかに超える無駄な鋼管、コンクリート等を打ち込む自然破壊である」──。
(4)結論 につづく