道警ヤジ排除「違法」 北海道に賠償命令
札幌地裁「表現の自由侵害」
web 北海道新聞(03/26 01:42 更新)
札幌市で2019年7月、安倍晋三首相(当時)の参院選での街頭演説中にヤジを飛ばし、道警の警察官に違法に排除されたとして、男女2人が道に計660万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、札幌地裁であった。広瀬孝裁判長は、警察官による排除行為の大半について違法とし、「憲法が保障する『表現の自由』を侵害した」と判断。道に対し、慰謝料などとして計88万円を2人に支払うよう命じた。
原告はともに札幌市北区の団体職員で、大杉雅栄さん(34)と桃井希生(きお)さん(26)。判決によると、2人は19年7月15日、札幌市中央区の演説会場で、元首相にそれぞれ「安倍辞めろ」「増税反対」などと叫び、複数の警察官に排除された。
主な争点は、道警の排除行為が「人の生命や身体に危険が及ぶ恐れがあり、緊急の場合」に市民を制止できるとする警察官職務執行法(警職法)の要件を満たしていたかどうかだった。
判決理由で広瀬裁判長は、当時の状況が映った動画からは、道警側が主張するような怒号や、聴衆が騒然とする様子は確認できないと指摘。危険な事態が生じていたとはいえないとし、排除は違法と判断した。
その上で判決は、表現の自由について「民主主義社会を基礎付ける重要な権利であり、公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利」と指摘。「安倍辞めろ」など、演説会場での2人のヤジを「表現行為」と認めた。声を上げてから10秒程度で2人を排除した警察官の行為については、「内容や態様が場にそぐわないと判断し、表現そのものを制限した」として、自由の侵害に当たるとした。
このほか、排除後の桃井さんに警察官が約1時間同行したことについても、危険な事態が認められない以上、違法と指摘。移動の自由やプライバシー権を侵害されたとした。
判決後、道警監察官室は、控訴など今後の方針について「内容を精査し対応を検討する」とのコメントを出した。大杉さんは19年12月、桃井さんは20年2月に提訴した。(水野可菜)
■政権忖度に裁判所が歯止め
ジャーナリストの大谷昭宏さんの話 札幌地裁の判決は極めて厳正な判断で、北海道警の言い分は全て否定され完敗した。道警の排除行為の背景には、安倍政権(当時)が批判的なやじに警戒を強めていたという事情がある。道警は適切な職務執行よりも、安倍政権に忖度(そんたく)してすり寄ることを選び、裁判所が歯止めをかけた形だ。社会全体で批判が巻き起こらなかったのも、日本の言論に対する鈍感さを表している。言論は何よりも大事だ。守り切る気概を持たなければならない。
■自由な意見表明は不可欠
武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法学)の話 札幌地裁の判決は民主主義の実現には自由な意見表明や情報交換が欠かせないことを重視し、憲法で保障される「表現の自由」を中立的かつ正当に判断した点で評価できる。同種の判例では公共の福祉の観点から、警察による市民の言動制限を是認する傾向があったが、今回は原告が提出した動画が確かな証拠となった。政治的な発言を控える雰囲気が漂う中、それを打破するインパクトがある。多くの人に読まれてほしいと願う判決だ。
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