草むしりしながら

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草むしり作「ヨモちゃんと僕」前13

2019-07-29 09:54:09 | 草むしり作「ヨモちゃんと僕」
草むしり作「ヨモちゃんと僕」前13
(冬)信雄ちゃんと明子ちゃん①

 お父さんとお母さんは、もうみかん山にはいかなくなりました。今は収穫したみかんを出荷する作業で大忙しです。倉庫の中でお母さんがみかんの大きさを選り分けて、お父さんが箱に詰めています。みかんの入った段ボール箱がみるみる積み上げられていきます。
 
 ヨモちゃんはさっそく段ボールの角に顔をこすりつけています。僕は足音を忍ばせて、ソロリソロリと後ろからヨモちゃんに近づいていきました。
「嫌って言ったでしょ」
 ヨモちゃんの鋭い爪の先が、僕の鼻先すれすれに繰り出されました。
「ごめんなさい」
 あともう少しのところだったのに、残念。僕は相変わらずヨモちゃんに嫌われています。

 僕が触ろうとするものだから、ヨモちゃんは怒って倉庫の奥に消えて行きました。
「ごめん下さい」
 誰かがやってきて倉庫の中に声をかけました。僕は慌てて空のコンテナの裏に隠れました。相変わらず僕は誰か来ると隠れてしまう、ビビリ虫です。

「今日は倉庫で仕事かえ」
 手押し車を押したお婆さんが、回覧板を持ってきました。お隣のおサちゃんです。おサちゃんはサヨという名前なのですが、みんなはおサちゃんと呼んでいます。たぶんおサヨちゃんの最後のヨが詰まっておサちゃんになったのだと思います。

「おや、ヨモちゃん。久しぶりだね」
 おサちゃんの声を聞いたヨモちゃんが、倉庫から飛び出してきました。ヨモちゃんはおサちゃんの足元に仰向けに寝転んで、背中を地面にこすりつけてクネクネとしています。

「いや、うち(私)はこれに座るから」
 お父さんは空のコンテナをひっくり返した上に座布団を乗せて、腰かけるようにおサちゃんに勧めました。でもおサちゃんは、自分の押し車の上についている荷物入れの上に座りました。よく見ると荷物入れの上には丈夫な蓋が付いていて、腰かけになっています。

 おサちゃんはひとしきり今朝の霜のすごかった話をすると、お母さんの入れたお茶をおいしそうに飲みました。コンテナの上の座布団には、いつの間にかヨモちゃんが座っています。

 真っ白だった霜も、お日さまが顔を出すとすぐに溶けてなくなり、昼間はポカポカと暖かくなりました。柔らかなお日さまの光に照らされて、ヨモちゃんの背中の縞模様の毛が、キラキラと輝いています。

「新しい猫は、出てこんのかい」
「今までおったけど、よその人が来ると隠れてしまうンよ。ちょいと待ちよ」
お母さんはコンテナの裏に隠れていた僕を抱っこして、おサちゃんの所に連れていきました。

「僕を保健所に連れていくの」
「尻尾がフサフサじゃあなー」
 おサちゃんはぼくの尻尾を見て言いました。
「こないだ柿ン木に、こげな尻尾をしたおかしな奴が登っちょったで」
「もしかしたら、アライグマじゃなかろうか」
 友達の猟師さんが仕掛けた罠に、アライグマが掛かったとお父さんが言いました。イノシシ、シカ、サルにカラス、ヒヨドリ。その上今度はアライグマまで。畑やみかん山を動物に荒らさる被害は増える一方で、困ったものだとお父さんが言いました。
「あん、尻尾がフサフサした奴が、アライグマかえ」
 アライグマに柿の実を全部食べられた話に始まり、イノシシに山際の畑に植えたサツマイモを全部食べられてしまったことなど、おサちゃんの話はつきません。

僕はお母さんに抱かれて人間のお話に付き合っていたのですが、いつまでも話しているものだからだんだんと飽きてきました。コンテナの上のヨモちゃんはうつ伏せになって、頭を下に向けて目をつぶっています。たぶん狸寝入りでしょう、時々人間の声に反応して耳をピクピクと動かしています。

「あっち行こうと」
ヨモちゃんは僕が近づくとコンテナから飛びおりて、どこかに行ってしまいました。入れ替わりに僕はコンテナの上に飛び乗り、ヨモちゃんと同じようにうつ伏になって座りました。おサちゃんの話を聞いているうちに、いつの間にか眠ってしまいました。

「いつも悪いなぁ」
「売り物にならん奴じゃあから、持っていきよ」
おサちゃんにみかんをあげるお母さんの声で、僕は目が覚めました。

「あれヨモちゃん、そこにおったんかい。そうしたら、こっちは誰かい」
 見送りに出て来たヨモちゃんを見て、おサちゃんが驚いています。隣で眠っているのは、ずっとヨモちゃんだと思っていたのでしょう。話に夢中になっていて、僕とヨモちゃんが入れ替わったのに気が付かなかったのです。

 ヨモちゃんはお腹や脚の部分が白くて、頭の上と背中から尻尾にかけて黒と灰色の縞の模様です。僕は全体が黒と茶色のしま模様で、尻尾がフサフサしています。見た目はあきらかに違うのですが、真上から見ると、ぼくたちの背中の縞模様は区別がつかないくらいによく似ているのです。おサちゃんの所からは背中だけしか見えなかったので、ヨモちゃんとぼくを見間違えてしまったのです。この背中の縞模様が後になって僕を助けてくれるのですが


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