切られお富!

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第6回亀治郎の会「俊寛」「娘道成寺」(国立大劇場)

2008-08-26 00:10:00 | かぶき讃(劇評)
土曜日、国立大劇場で市川亀治郎の自主公演「第6回亀治郎の会」を観てきました。わたしはこの自主公演、今回が初めてでしたが、「俊寛」に「道成寺」という意欲的な演目に加え、演出も通常とは異なりかなり凝っていた!というわけで、とりあえず、簡単に感想です。

たった二日間の公演の初日。わたしは諸般の事情で会場入りが5分遅れたのですが、なんと、開演が10分遅れ。助かった~と思いつつ、自主公演って、通常の興行とは違う苦労があるんだろうなあ~なんてことも想像してしまいましたね。

で、劇場に入ったときの第一印象は、「よ~く、お客さんが入っているなあ~」というもの。

当日券も売っていたとはいえ、大劇場がほぼ満席。大河ドラマの効果か、浅草歌舞伎からの流れか、どこかで見たような人たちもチラチラみかけたし(石川耕士さん、鈴木治彦さん、などなど)、注目度が高い役者だって事は、確かなんでしょうねえ~、きっと。

①「俊寛」
正直なところ、演目の発表があったときは、「亀治郎が俊寛?」って感じで、随分イメージにない役をやるものだって思ったんだけど、武田信玄を演じた後ということもあって、低い調子の出だしなんかは随分貫禄(というより貫目)を感じてしまいましたね~。

舞台中央がせり上がっての登場(でしたよね、違ったっけ?)というのは新演出だったし、歌舞伎座に比べてやや舞台の幅が狭い国立大劇場、竹本葵太夫の語りにも独特の緊張感があって、「俊寛」という芝居は、俊寛役者と太夫の真剣勝負の舞台なんだなあってことに、今更ながら気づかされました。

舞台下手からの船の登場は澤潟屋の型だってことらしいけど、猿之助の「俊寛」もこうだったかなあ~というのは、どうも記憶が定かではない。(というか、猿之助が舞台に出られなくなってしまって、結構時間が経ってきたって事なんでしょうけれど・・・。)

ただ、亀治郎の台詞の語尾は、わりと猿之助の調子に似ているという印象は持ちましたね。
それと、割合センチメンタルだったりする吉右衛門や仁左衛門の俊寛に比べて、ちょっと目にギラギラ感があるという感じはあったかな、不敵さというか・・・。(これって、若いから?)

で、この舞台をみたときの意外な収穫というのは、じつは共演陣。

段四郎の敵役・瀬尾、丹左衛門尉の門之助がよいのは当たり前として、亀鶴の康頼、成経の亀三郎が予想以上の大健闘。

亀鶴は滑稽味やふくよかさがあったし、亀三郎は色男役が意外にもうまかった。もともと、亀三郎・亀寿兄弟って、声がよくて、いい若手役者の割には役に恵まれないなあなんて思っていたけど、台詞がいいと役が生きる。お祖父さんの羽左衛門も草葉の陰で喜んでるんじゃないかしら?浅草歌舞伎や歌舞伎鑑賞教室の若手配役レベルを超えた立派な舞台だったと思います。

さて、千鳥の右近くんに関してだけは、ちょっとチャレンジっぽい配役だったかなという印象。

最近、以前のぽっちゃり型から、お父さんに似た細面に変わってきたけれど、この役の持っている可憐さというよりは、田舎娘っぽい雰囲気で、もうひとつ色気には欠けたのはしょうがないか・・・。でも、高校生でこれだけやったら、まあ上出来ってところではあるんでしょうけれど。

とにかく、全体としては、若手中心の自主公演などというレベル以上の大きな舞台で、緊張感もあったし、楽しめました。亀治郎には、若手やベテランから力を引き出せる座頭のパワーがあるってことかもしれませんね~。

②「娘道成寺」

これも見たことのない演出だった!

花道スッポンから登場の<花子=亀治郎>は、その細面の面差しから、ちょっと歌右衛門の花子を髣髴とさせた。

いつもの「聞いたか坊主」の登場で始まる「道成寺」に慣れている観客は、びっくりしたんじゃないですかね!

通常、道成寺に着いた花子と坊主のやり取りは門口で行われるわけだけど、道成寺の門前の絵を使うことで、「山道を門前までやって来た花子」という、この舞踊のストーリーを明確化。

舞踊に入ってからも、通常の衣装と引き抜きのパターンとは微妙に違っているような気がしたけど、わたしの力では解説はできそうにないなあ~。

ただ、ちょっと気になったのは、最初の乱拍子の舞のあと烏帽子を取る場面で、鐘の綱に烏帽子を引っ掛けるくだりが、期待に反して若干もたつき気味でカッコよくなかったことと、鐘入りするところで通常なら蛇の鱗を模した銀色の衣装になるところが、ちょっと違う感じの衣装でわたしのイメージとは合わなかったという感想は持ちました。

とはいえ、花道登場時の立ち姿と、ちょっとフェイント気味で口を拭いた懐紙を客席に投げる姿が、亀治郎らしくてコケティッシュ。

見た感じは歌右衛門だったけど、てきぱきと溌剌とした舞姿は、春風駘蕩、現代的で新しい若手女形の舞踊という印象で、意欲的な演出といい、来てよかったって思ったなあ~。

たぶん、今年来た人は来年も来るんじゃない?というわけで、亀治郎ミーハーならずとも楽しめる舞台でした。

PS:あと、話題になったと思われるのは、ピンクの派手なパンフレット。1800円もするので、高いなあなんて買う前は思ったけど、中身を見たら、「これって原価割れしてるんじゃない?」って思えるほどのこだわりの内容。

やっぱりこれも「カメ流」ってことなんでしょうねぇ~。

カメ流
市川 亀治郎
角川学芸出版

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