切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『魔王』 伊坂幸太郎 著

2012-04-17 23:59:59 | 超読書日記
今、「買ったっきり読んでなかった本」の整理月間に入っていて、普段は古典至上主義者のわたしが柄にもないような作家の本ばかり読んでいます。で、この本は小泉政権下くらいの時期に買ってそのままになっていた一冊。でも、橋ズム旋風吹きすさぶなか、今改めて読む価値あるかな~と思い手に取ったところ、これが傑作。この作家の本って、恥ずかしながら初めて読みましたが、スタンスに共感できたのと、構成力&文章力が素晴らしいと思った。というわけで、簡単な感想ですっ。

発売当時の帯の「問題作」というのは、小泉純一郎を当て込んだものらしいんだけど、小泉時代以上に、「今」にあってる気がしますね~。

アマゾンの紹介文をそのまま引用すると「不思議な力を身につけた男が大衆を扇動する政治家と対決する」ってことですが、主人公の男性が、常に立ち止まって、自分で考えようとするところに感銘を受けました。つまり、対ファシズムってことでいうと、個人のこういう姿勢で対抗するしかないんじゃないのって意味で。

そういう意味では、マスメディア時代から、ソーシャルネットワーク時代に入って、ますます、自分で立ち止まって考える姿勢が問われるんじゃないですかね~。とはいっても、このブログでたびたび取り上げた「JASRAC批判問題」とか慎太郎の「都の尖閣買い取り問題」なんかを考えると、一般ピープルの「立ち止まり」力は、はなはだ怪しいとは思いますけれど…。

で、なんとなく印象として思ったのは、この作家って、数学できるひとだなってこと。

作家の文章には、数学できる人できない人の違いがあるような気がして、実際に数学が好きだったといわれるスタンダールとか夏目漱石みたいな文章の論理性を、わたしはこの作品から感じました。特に理屈っぽい会話の切り返しって、夏目漱石の小説の男女の会話を思い出しましたね(ちなみに、漱石作品だと、理屈っぽい男の言葉を、女が庶民の常識の言葉でやっつけてしまうってパターン。)。

それと、アマゾンのレビューで、「最初に張った伏線を回収し切れてない」みたいな批判が載っているけど、わたしは全然違う見解。こんなに頭のよさそうな作家がそんな失敗をするわけがない。つまり、確信犯的に全てを語ってないのだと、わたしは思いましたね。

ムッソリーニを思わせる政治家について、ストレートに語りすぎると、結局陳腐になってしまうでしょ。「魔王」の全貌を描かないからこそ、怖さが出る。お化けについて、細叙したら、お化けじゃなくなっちゃうっていうのが表現の面白さだと思うんだけど、いかがでしょうかね?

というわけで、改めていいますが、今こそ読むべき一冊。オススメです!

魔王
クリエーター情報なし
講談社
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 心配ですね、高田文夫さん! | トップ | 選挙プロパガンダに都民の税... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

超読書日記」カテゴリの最新記事