切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『私の男』 桜庭一樹 著

2012-04-23 20:44:45 | 超読書日記
「買ったきり読んでなかった」シリーズの一冊。この本も長らく寝かせてましたけど、なんで改めて読む気になったかというと、作者の桜庭一樹が今でも一日一冊本を読む生活を送っていると知ったから。わたし、基本的に本を読んでる人、映画を観ている人は信用するタチなんですよね~。というわけで、簡単な感想ですっ!

まず、あっさりとした読後感でいうと、この作者って、物語作者であって、一瞬にして物事の本質を言い当ててしまうような、芸術家肌の作家ではないという印象を持ちました。なので、この小説のテーマである「近親相姦」に関して、何か重要な真実を得ようとする態度は、この本には向いていません。だから、読み巧者であり書き巧者である作者の「小説の企み」を楽しむのが一番よい。そして、この小説に書かれる狂おしいまでの「愛」は、恋に恋するブキッシュな人の作り出した「愛」だっていうのが、わたしの見方。でも、それでいいんじゃないですかね、これくらい巧みだったら。

文章的にいうと、宇野千代の『色ざんげ』という本の語り口を思い出したんだけど、『色ざんげ』の方は女性作家の著作なのに、語り手はモテモテの男で、ギラギラしてないのにモテまくるところがヘンに面白いんですよね~。

で、戦前の「女流作家」たちに「少女雑誌」出身者の系譜があるということと、桜庭一樹をはじめとする今の「女性作家」たちにライトノベル出身者が多いって話は、再考を要する話のような気がします。だって、どちらもブキッシュな読み巧者という共通の出発点をもってるでしょ?あるいは、24年組の少女漫画家から漂ってくる学校の図書館の匂いというか…。

さて、もう少し内容に踏み込んだ話をすると、ポーの「黒猫」以来の「遡り式」のストーリー展開に、ひねりが加わって、読者を迷わせつつ引っ張っていく手腕はさすが。遡りすぎるとつまんない話になるのかと思いきや、ちゃんと引き込まれましたからね~。それに、北海道経済や時節柄興味深かった津波のくだりなんか実に取材が行き届いていると思いました。

とはいえ、ここに描かれる男女(本当は父と娘)に共感できたかというと…。親子であるとか、犯罪の匂いは、結局セックスの餌にすぎなくて、作者は条件の整った密室の中の愛を描きたかったんじゃないですか?そういう意味では、スタイルは全然違うけど森茉莉の『甘い蜜の部屋』を手に取りたくなりましたね~。

そんなわけで、近親相姦それ自体について考えたいのなら内田春菊の本とかだし、セックス問題ならやまだないととか魚喃キリコ(以前書いたこの人の感想はココっ。)のマンガなんか洗練されていて皮膚感覚が伝わってくる。

でも、そういう生々しいのじゃくて、狂おしい愛の「ものがたり」が読みたいという人にはオススメします。

私の男
クリエーター情報なし
文藝春秋


色ざんげ (新潮文庫)
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新潮社


甘い蜜の部屋 (ちくま文庫)
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筑摩書房


ファザーファッカー (文春文庫)
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文藝春秋


フレンチドレッシング (アクションコミックス)
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双葉社


痛々しいラヴ (Feelコミックス)
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祥伝社
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