切られお富!

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一月大阪松竹座 「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」 

2010-03-03 00:00:00 | かぶき讃(劇評)
今頃、1月の舞台の感想というのもどうかとは思いますが、備忘録として、違いを列挙しながらの簡単な感想とします。(というか、ほとんどメモ)

(昼の部)
①大序
・大手・笹瀬の引割幕
・二重の上の背景が前面石垣
・判官、薄縁(うすべり)を敷く →今回はなし
・師直の「ご寛恕!」で回り舞台 → 進物場へ

「大手・笹瀬の幕」というのは画像の幕で、真ん中から左右に開いていく形で開きます。新田義貞の冑の入った箱を中心にして開く形になので、後ろの背景が石垣なんでしょう。通常の石垣でなく境内になっている絵だと、真ん中から開くときに見た目が締まらないからですかね?

まず、大序の感想。

第一声は足利直義から始まるわけですが、今回は片岡進之介。顔が少しふっくらしたというか、お父さんの我當に似てきたと思いましたね。で、見た目もさることながら、台詞回しも、お父さんに似てちょっとエモーショナルかつセンチメンタル。したがって、通常この役のパターン、「貴公子の無表情でスッキリした感じ」とは違いましたね。

翫雀の若狭之助は短気というよりセンチメンタルに反応した感じで、扇雀の判官は一見クールに見えるが・・・ってとこか。

孝太郎の顔世御前が名古屋からやっているせいか、貫禄ありで感心。藤十郎の師直は、「師直役者じゃない」と言わせないほど立派な顔に。

②三段目(進物~刃傷)
・進物場から廻って殿中
・刃傷の前に「文使いの場」 → 今回はなし
・刃傷で師直が判官に触れない →藤十郎の型

藤十郎の師直は八世綱大夫の義太夫を参考にしているというので、最近出たCDを事前に聴く。

藤十郎の師直のネチネチ感は、綱大夫の重くて異様な師直よりは軽いが、憎らしさにどこか笑いの要素がある。判官に触らない型。ここまでがとっても早い!

③四段目(切腹~城明渡し)
・大評定省略
・由良之助の衣装、肩衣は「二つ巴」紋、着付けは「鷹の羽」→今回は両方「二つ巴」
・城明渡しで城門に青竹で×印。
・城明渡し、東京では引き道具だが、二段にあおり返しで遠ざかる。
・力弥の衣装が振袖

扇雀の判官が力演。壱太郎の力弥はややドタバタしすぎ。我當の石堂が立派。

藤十郎の由良之助は「昭和の管理職」(山一証券最後の社長とか・・・。)という趣きで、ちょっと涙もろい。提灯を畳んで懐に入れ、花道で大泣き。

③五段目(鉄砲渡し~二つ玉)
・落人省略
・定式幕引いて、勘平登場
・斧定九郎が「團蔵型」ではない。
(山賊風でよく喋る、花道から登場)
・大道具が違う(演出の違いから)
・定九郎地蔵を蹴る
・勘平、火縄の縄を廻さない
・勘平、死体の足を紐で吊らない
・舞台廻って六段目

山賊型の定九郎を観たのは文楽を除けば久しぶり(国立の藤十郎の忠臣蔵通し以来。)

花道から定九郎が渡世人風の身なりで与市兵衛を追っかけてくる。定九郎は翫雀。

よい芝居をしているが、役が役者にとっておいしくない!気の毒!

藤十郎の勘平は形形が決まってよい。

④六段目(勘平腹切)
・舞台廻って、お軽が化粧中、外におかや
・二重舞台で上手に一間(与市兵衛の死体を入れる場所)
・勘平が帰って、着替えはおかやが手伝う。(通常はお軽)
・勘平、紋服には着替えない
・六段目までで昼の部
・二人侍が花道で子守娘に道を尋ねる
・勘平、二人侍が来てから、奥の引き出しから箱を出し、紋服と刀を出す
・二人侍に、妻を売ったと告白したところで、おかやがお軽の矢絣の着物を掴む
・上手の部屋に死体、下手で後ろを向いて勘平腹切。
・腹切状態で、上手部屋の柱で見得(舅の傷を確かめる)
・名台詞「色にふけったばっかりに~」はなし。

今回の舞台の白眉はココでした。

上手で与市兵衛の傷が鉄砲ではなく刀傷だとわかるその瞬間くらいに、下手で勘平が腹切するという、運命の一瞬の皮肉。

竹三郎のおかやは前半は老け、後半は熱情と激情。一文字屋お才の孝太郎が意外にもよい。この役は、通常ベテラン女形がやる役なので、力不足かと思ったが、名古屋でもやったとのこと。短期間の二度目だったので芝居が慣れていた。一文字屋源六の中村寿治郎が絶品。本当の関西の商売人の雰囲気。こういう舞台を観るために大阪まで来たんだって思いましたよ!

秀太郎のお軽は大ベテランながら、可愛いお軽。藤十郎の勘平も、この型に慣れているせいか、決まり決まりが自然で段取りに見えない。

「色にふけったばっかりに~」がなくても、充実した、感動の舞台でありました!

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(夜の部)
④七段目(一力茶屋)
・舞台が低い。中足(東京は高足)
・正面に沓脱石
・釣灯篭が木製
・お軽のいる2階、手摺の下に小屋根
・九太夫と伴内の花道からの入れ込みで芝居が始まる
・お軽の衣装が胴抜き
・お軽が団扇を使わず、懐紙であおぐ
・部屋の中で目隠し鬼ごっこ
・平右衛門が二重屋台の上で、お軽を殺そうとする

九太夫が由良之助を試そうとして、蛸を食べさせようとするくだり。仁左衛門の由良之助だと眉毛がクっと吊り上って怖かったのだけど、藤十郎の場合は、「由良の涙」って感じで、悔し泣きというニュアンス。

藤十郎の由良之助はセンチメンタルな由良だけど、義太夫の泣き節の涙という感じがあって、幸四郎の喜劇人っぽい涙とはニュアンスが異なる。また、藤十郎はタヌキオヤジ的な由良。

秀太郎の遊女・お軽は、はんなりと柔らかい。他の中堅・若手のお軽だと、柔らかさがない。また、平右衛門に訊く「勘平さんに何か?」の第一声が秀太郎は低い調子でリアル。他の役者だと、この台詞が大抵頑張り過ぎ。

平右衛門の翫雀は立派。形・口跡すべてよし。また、秀太郎とちゃんと兄妹にみえるところがよい。

⑤八段目(旅路の花嫁)
(違い、わからず・・・。)

常磐津一巴太夫、藤十郎の戸無瀬、扇雀の小浪。奴は翫雀。

背景が東から西へ変る。(富士山など)

全体的にダレ
扇雀の小浪はさすがにトウがたっている
藤十郎の戸無瀬は、見掛けは立派だが、疲労感漂う。(無理も無い)
翫雀の奴は元気。

九段目(山科閑居)なしで八段目(落人)をやるのは、脈絡的に浮いていると思う。忠臣蔵を知らない人が見たら、全然判らないくだりになってしまうだろう。

東京の国立劇場で通し上演をやったときは、九段目が最高だっただけに、今回上演されなかったのは、とっても残念!

⑥十段目(天川屋)

25分くらいの舞台だったけど、とっても陳腐。
九段目が重厚なだけに、この幕をやると、由良之助が安っぽくなってしまう。

離縁をやめさせる由良之助って、なんかカッコよくないな~。

舞台では、吉弥、我當が口跡、形とも立派!(ただし、初日の我當、藤十郎は台詞が入ってなくてひどかったらしいけど・・・。)

⑦十一段目(表門~広間~炭火小屋)

広間が出るのは珍しいが、特に面白みはない。
炭火小屋の前の焼香で、平右衛門が早野勘平の財布を出す。

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<トータルな感想>

・今回の通し上演でいうと、充実していたのは断然昼の部で、白眉は六段目!

・夜の部は、七段目はよいとしても、十、十一段目は必要薄だったのような・・・。むしろ、九段目が観たかった!

・役者では、翫雀が素晴らしい。上方歌舞伎・重鎮二世世代では断トツの実力ですね(松嶋屋一門ガンバレ!)。上方歌舞伎は、翫雀をもっと中心に祭り上げてもいいんじゃないでしょうか、今後のためにも。二世鴈治郎みたいな、地味だけど通好みな役者になるといいなあと思いましたよ。扇雀もよかったし、成駒屋は力をつけてるなあ~。お父さんがいつまでも主役をやりすぎだという気がしなくもない・・・。

・松嶋屋では、我當の出番が少ない!もったいない!秀太郎のお軽は派手さはなかったけど、しっとりとしたいいお軽でした。舞台写真が欲しかったけど、大阪では売らないんですかね?探してしまいました!孝太郎が、思ったより、貫禄が出て感心したけど、名古屋でもやっていたのが大きいんでしょうね~。

以上、感想でした。(だいぶとっ散らかっている!)
                 ★    ★    ★

大阪松竹座
壽初春大歌舞伎
通し狂言 仮名手本忠臣蔵
平成22年1月2日(土)~26日(火)
昼の部

大 序 鎌倉鶴ヶ岡兜改めの場(かまくらつるがおかかぶとあらためのば)

三段目 足利館門前進物の場(あしかがやかたもんぜんしんもつのば)
    同 殿中松の間刃傷の場(でんちゅうまつのまにんじょうのば)

四段目 扇ヶ谷判官切腹の場(おうぎがやつはんがんせっぷくのば)
    同 城明渡しの場(しろあけわたしのば)

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場(やまざきかいどうてっぽうわたしのば)
    同 二つ玉の場(ふたつだまのば)

六段目 与市兵衛住家勘平腹切の場(よいちべえすみかかんぺいはらきりのば)

【大序・三段目】
             高師直  藤十郎
            塩冶判官  扇 雀
            顔世御前  孝太郎
            足利直義  進之介
          桃井若狭之助  翫 雀

【四段目】
          大星由良之助  藤十郎
            塩冶判官  扇 雀
            大星力弥  壱太郎
        薬師寺次郎左衛門  薪 車
            顔世御前  孝太郎
          石堂右馬之丞  我 當

【五段目・六段目】
            早野勘平  藤十郎
            斧定九郎  翫 雀
          一文字屋お才  孝太郎
           千崎弥五郎  薪 車
            母おかや  竹三郎
           女房おかる  秀太郎



夜の部

七段目  祇園一力茶屋の場(ぎおんいちりきぢゃやのば)

八段目  道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)

十段目  天川屋義平内の場(あまかわやぎへいうちのば)

十一段目 師直館表門討入の場(もろのうやかたおもてもんうちいりのば)
     同 広間の場(ひろまのば)
     同 柴部屋本懐焼香の場(しばべやほんかいしょうこうのば)

【七段目】
          大星由良之助  藤十郎
          寺岡平右衛門  翫 雀
           千崎弥五郎  薪 車
            大星力弥  壱太郎
           遊女おかる  秀太郎

【八段目】
             戸無瀬  藤十郎
              小浪  扇 雀
             奴可内  翫 雀

【十段目】
           天川屋義平  我 當
           女房おその  吉 弥
           千崎弥五郎  薪 車
          大星由良之助  藤十郎

【十一段目】
          大星由良之助  藤十郎
            大星力弥  壱太郎
           千崎弥五郎  薪 車
          寺岡平右衛門  翫 雀

八世 竹本綱大夫 義太夫「仮名手本忠臣蔵」
竹本綱大夫(八世),竹澤彌七(十世),豊竹つばめ大夫(三世),竹本土佐大夫(七世),杵屋栄二社中
キングレコード

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