「四谷怪談」というと、近年は中村勘三郎の専売特許みたいになっちゃってるけど、「違う『四谷怪談』のお岩さんが見たい!」って思っていたのはわたしだけではないでしょう!!というわけで、早速見てきましたよ、期待と不安をないまぜにして・・・。
ところで私事ながら断っておきたいのは、このブログの歌舞伎劇評って、今の勘三郎(当時・勘九郎)の「四谷怪談」お岩を批判したことが、そもそものスタートだったんですよね~。
というのも、歌舞伎ネタのホームページやブログを覗きにいくと、たいてい勘九郎礼賛みたいな感想ばかりで、どうにも納得がいかず、「じゃあ、自分で書いて見よう!」ということから始まったというわけです。
そんなわけで、いろいろ思うところのある「東海道四谷怪談」ですが、簡単に整理すると、わたしにとって勘三郎版お岩が気に入らない最大の理由は、勘三郎のお岩が美しく見えないということに尽きるんです。
というか、言葉を変えると、勘三郎のお岩はオバサンというイメージなんですよ。
まあ、「先代萩」の政岡みたいに、母親役というハラだと魅せるものがある勘三郎だけど、お岩とか「夏祭浪花鑑」のお辰みたいな色っぽい女形をやるにはちょっとトウが立ってきたというのが、わたしの偽らざる感想です。
もちろん、お岩には乳飲み子がいる設定だから、母親イメージがダメなわけでもないんだけど、やっぱり、わたしなら、あのお岩では若い娘に気持ちが移る伊右衛門の気持ちが判らなくはないなあ~って感じてしまうんですよね。(もちろん、顔が変わる前!)
で、いよいよ本題の、今回の「四谷怪談」ですが、とにかく、福助のお岩さんが色っぽくてよかった!容貌が変わった後も最後まで色気があったという意味では、かつての歌右衛門の至芸(といっても、わたしが見たことのある映像は晩年のものだけど・・・。)とも違う、若々しい武家の人妻というイメージが残りました。
そもそも、序幕でもわかるように、伊右衛門はお岩の父親・四谷左門を殺してまでお岩と復縁したがったのだし、南北の原作を読む限り、お岩の容貌が変わるまでは、伊右衛門もお岩のことはまんざらでもない風ではあるので、あんまりオバサンじゃあ、この役は困るというのがわたしの永年の考え。
福助というと、台詞がちょっと艶っぽ過ぎるというイメージがあったけど、ここのところは随分品がよくなってきて、いやみな感じはなくなってきましたね。特に、吉右衛門と共演している先日の「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」と今回の「四谷怪談」は、いままでわたしが観た福助の芝居ではベスト・アクトといえます。
具体的には、序幕第四場の花道からの出の立ち姿の色っぽさ。
ニ幕目伊右衛門浪宅では、伊右衛門が蚊帳を持って行こうとするのを止めようとする場面、通常の演出だと蚊帳ごとお岩が引きづられてしまって、客席から笑いが起こったりするのだけど(なお、今の勘三郎や歌右衛門の舞台でも笑いが起きている。)、今回の舞台では蚊帳ごとお岩が引きずられず、伊右衛門とお岩が形で決めて哀れさを持続していて、吉右衛門と福助の工夫を感じましたね。
一方、吉右衛門初役の伊右衛門ですが、ちょっとニンじゃなかったというのがわたしの正直な感想。いわゆる「色悪」の白塗りで無表情な美男の悪漢という感じではなくて随分地味なイメージで、世話物の悪党という雰囲気。
そのせいか、花道で按摩宅悦を脅す場面に吉右衛門ならではのリアル感があったのと、ニ幕目の伊右衛門浪宅と伊藤喜兵衛内の廻り舞台で、お岩の容貌の変化を見るまでの心の揺れを感じたのは、吉右衛門ならではでしたが・・・。
なお、作家の森茉莉が「伊右衛門に合っているのは沢田研二」だといったのは、なかなかの名言だと、個人的には思います。
そういう意味では、奥田庄三郎役の中村錦之助なんかは、見た感じ伊右衛門役者かもしれないって予感はしましたけど。
他の役では、按摩宅悦の歌六が、とかく面白い役にしすぎてしまうこの役を、落ち着いた生世話風に演じて好演。どうも、笹野高史みたいな按摩はやりすぎだと思うんですよ、コクーンだからあれでもいいんでしょうけどね~。
それと、芝雀のお岩の妹お袖役は可愛らしかった。この人で今回省略された「三角屋敷の場」が見てみたいですね。(この場面は、コクーン歌舞伎「四谷怪談」の北番でやっていましたけど、七之助がまずまずの好演。でも、芝雀ならさらによさそうですよね。)
あとは、段四郎の直助権兵衛は「藤八、五文、奇妙」という花道の出からして、古風でよい感じ。
なお、福助二役目の小仏小平は、歌右衛門が珍しくやっていたこの立ち役の、ちょっと不気味な異形感はなくて、普通の若旦那っぽかったなあ~。といっても、歌右衛門のこの役が、ある意味猟奇的過ぎるんですが・・・。
それと、最後の仇討ちの場面の雪は、忠臣蔵の討ち入り日と繋がっているということに最近になって気づいたわたしは、うかつでした!
というわけで、今回の「四谷怪談」は古風さがあって、近年のこの芝居では随分わたし好みでした。できたら、前述のように三角屋敷も入れて完演版が見たいですね。
<過去の参考記事>
・「勘九郎のお岩」 八月納涼歌舞伎 第三部
・森茉莉と歌舞伎
PS:歌舞伎に詳しい方から、「四谷怪談」は芝居に出ない場面が面白いといわれて、読み直しているんですが、確かに面白い!いままでは、鶴屋南北の最高傑作は「桜姫東文章」か「盟三五大切」かと思っていたけど、「四谷怪談」には実験性が満ちていますね!この機会に、興味のある方はどうぞ!
ところで私事ながら断っておきたいのは、このブログの歌舞伎劇評って、今の勘三郎(当時・勘九郎)の「四谷怪談」お岩を批判したことが、そもそものスタートだったんですよね~。
というのも、歌舞伎ネタのホームページやブログを覗きにいくと、たいてい勘九郎礼賛みたいな感想ばかりで、どうにも納得がいかず、「じゃあ、自分で書いて見よう!」ということから始まったというわけです。
そんなわけで、いろいろ思うところのある「東海道四谷怪談」ですが、簡単に整理すると、わたしにとって勘三郎版お岩が気に入らない最大の理由は、勘三郎のお岩が美しく見えないということに尽きるんです。
というか、言葉を変えると、勘三郎のお岩はオバサンというイメージなんですよ。
まあ、「先代萩」の政岡みたいに、母親役というハラだと魅せるものがある勘三郎だけど、お岩とか「夏祭浪花鑑」のお辰みたいな色っぽい女形をやるにはちょっとトウが立ってきたというのが、わたしの偽らざる感想です。
もちろん、お岩には乳飲み子がいる設定だから、母親イメージがダメなわけでもないんだけど、やっぱり、わたしなら、あのお岩では若い娘に気持ちが移る伊右衛門の気持ちが判らなくはないなあ~って感じてしまうんですよね。(もちろん、顔が変わる前!)
で、いよいよ本題の、今回の「四谷怪談」ですが、とにかく、福助のお岩さんが色っぽくてよかった!容貌が変わった後も最後まで色気があったという意味では、かつての歌右衛門の至芸(といっても、わたしが見たことのある映像は晩年のものだけど・・・。)とも違う、若々しい武家の人妻というイメージが残りました。
そもそも、序幕でもわかるように、伊右衛門はお岩の父親・四谷左門を殺してまでお岩と復縁したがったのだし、南北の原作を読む限り、お岩の容貌が変わるまでは、伊右衛門もお岩のことはまんざらでもない風ではあるので、あんまりオバサンじゃあ、この役は困るというのがわたしの永年の考え。
福助というと、台詞がちょっと艶っぽ過ぎるというイメージがあったけど、ここのところは随分品がよくなってきて、いやみな感じはなくなってきましたね。特に、吉右衛門と共演している先日の「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」と今回の「四谷怪談」は、いままでわたしが観た福助の芝居ではベスト・アクトといえます。
具体的には、序幕第四場の花道からの出の立ち姿の色っぽさ。
ニ幕目伊右衛門浪宅では、伊右衛門が蚊帳を持って行こうとするのを止めようとする場面、通常の演出だと蚊帳ごとお岩が引きづられてしまって、客席から笑いが起こったりするのだけど(なお、今の勘三郎や歌右衛門の舞台でも笑いが起きている。)、今回の舞台では蚊帳ごとお岩が引きずられず、伊右衛門とお岩が形で決めて哀れさを持続していて、吉右衛門と福助の工夫を感じましたね。
一方、吉右衛門初役の伊右衛門ですが、ちょっとニンじゃなかったというのがわたしの正直な感想。いわゆる「色悪」の白塗りで無表情な美男の悪漢という感じではなくて随分地味なイメージで、世話物の悪党という雰囲気。
そのせいか、花道で按摩宅悦を脅す場面に吉右衛門ならではのリアル感があったのと、ニ幕目の伊右衛門浪宅と伊藤喜兵衛内の廻り舞台で、お岩の容貌の変化を見るまでの心の揺れを感じたのは、吉右衛門ならではでしたが・・・。
なお、作家の森茉莉が「伊右衛門に合っているのは沢田研二」だといったのは、なかなかの名言だと、個人的には思います。
そういう意味では、奥田庄三郎役の中村錦之助なんかは、見た感じ伊右衛門役者かもしれないって予感はしましたけど。
他の役では、按摩宅悦の歌六が、とかく面白い役にしすぎてしまうこの役を、落ち着いた生世話風に演じて好演。どうも、笹野高史みたいな按摩はやりすぎだと思うんですよ、コクーンだからあれでもいいんでしょうけどね~。
それと、芝雀のお岩の妹お袖役は可愛らしかった。この人で今回省略された「三角屋敷の場」が見てみたいですね。(この場面は、コクーン歌舞伎「四谷怪談」の北番でやっていましたけど、七之助がまずまずの好演。でも、芝雀ならさらによさそうですよね。)
あとは、段四郎の直助権兵衛は「藤八、五文、奇妙」という花道の出からして、古風でよい感じ。
なお、福助二役目の小仏小平は、歌右衛門が珍しくやっていたこの立ち役の、ちょっと不気味な異形感はなくて、普通の若旦那っぽかったなあ~。といっても、歌右衛門のこの役が、ある意味猟奇的過ぎるんですが・・・。
それと、最後の仇討ちの場面の雪は、忠臣蔵の討ち入り日と繋がっているということに最近になって気づいたわたしは、うかつでした!
というわけで、今回の「四谷怪談」は古風さがあって、近年のこの芝居では随分わたし好みでした。できたら、前述のように三角屋敷も入れて完演版が見たいですね。
<過去の参考記事>
・「勘九郎のお岩」 八月納涼歌舞伎 第三部
・森茉莉と歌舞伎
PS:歌舞伎に詳しい方から、「四谷怪談」は芝居に出ない場面が面白いといわれて、読み直しているんですが、確かに面白い!いままでは、鶴屋南北の最高傑作は「桜姫東文章」か「盟三五大切」かと思っていたけど、「四谷怪談」には実験性が満ちていますね!この機会に、興味のある方はどうぞ!
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伊右衛門役者は今回の座組みのなかじゃ錦之助じゃなくて染五郎のほうでしょう。染五郎はいずれやるでしょうね。悪役も出来るようになってきたようですし。そういえば幸四郎の伊右衛門はかなり良かったですよ。吉右衛門は直助役者ですね。
染五郎の伊右衛門ですか・・・。
確かに見た目はそんな感じだけど、まじめっぽさが災いして、硬い感じがしそうかなと・・・。
今回は1階で見てたのですが、花道の錦之助の横顔がきれいだったもので、悪くないかな~なんて思ったんですよね。
わたしが観たい伊右衛門は、すでに「かさね」をやっている海老蔵、段治郎といったあたりですが(その場合、お岩=玉三郎、希望)、ダークホースで市川團蔵、古風で行くなら梅玉で、魁春との兄弟で「四谷怪談」なら渋いけどわたし好み。
あと、思い切って若手奮闘公演なら、獅童・亀治郎コンビというのもあるかな~。
それと、「盟三五大切」もそうだったけど、南北物って、なぜか幸四郎の方が合ってるような気がわたしもします。
では!