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8月納涼歌舞伎(歌舞伎座)第1部「おちくぼ物語」「棒しばり」

2015-09-05 02:57:31 | かぶき讃(劇評)
簡単なことだけ。

①おちくぼ物語

早い話が平安時代版シンデレラで、面白い芝居かといわれると微妙なんですが、納涼歌舞伎の演目としては、わかりやすくてよいのかもしれませんね。でも、同じシンデレラでも、イタリアオペラのチェネレントラ(シンデレラ)のインパクトからしたら、かなり小粒な印象は否めない。

さて、舞台の方に話を戻すと、わたしがこの芝居を観たのは福助&海老蔵コンビ以来で、その時は、福助が薄幸の娘の役にどうも合わず、鼻にかかった台詞が厭味ったらしく感じてしまったんですが、そもそも福助はもうちょっと年増の役の方がニンに合っていますよね。

その段でいうと、七之助の線の細さやクールな感じは、薄幸な感じを醸し出していて、ニンに合っていたと思います。ただ、芝居冒頭の台詞は、おそらく教えたであろう福助風で、鼻にかかった感じが笑ってしまったんだけど・・・。ただ、この芝居のこの役って、誰が演じても、女形が演じる限りは難しいのかもという感想も持ちました。言ってみれば、昔の朝ドラのヒロイン的に、朴訥自然で慎ましいというのは、作為的には出せないものかもしれませんから、天然な若い女子向けの役といえなくもないですものね。ただ、オペラだと、歌唱力で誤魔けてしまえるんだけど。

この芝居で頑張っていたといえるのは、まず、已之助と新悟演じる帯刀と阿漕のカップル。已之助は色気と愛嬌があって、三津五郎のきっぱりとした魅力とは違う何かがありました。また、新悟の女形は、写メ日記にも書いた通り、若いのに古風な雰囲気があるのが面白くて、ひょろとしたところや顔立ちは女形っぽくないのに、萬次郎なんかに通じる女形の変種みたいな味わいが出てきた。本人は嫌かもしれないけど、映画俳優だと江口のりこ的ですよ。今後も楽しみですね。

そして、若手中心の納涼歌舞伎とはいえ、大抜擢といえるのは隼人くんの左近少将でしょう。海老蔵や橋之助、初代辰之助、白鸚など、歴代の二枚目役者が演じている上に、年齢的にもキャリア的にもまだまだの彼ですが、まず、品よく演じていたのが、お父さん譲りでよかった。欲をいえば、さらに余裕があると「いい男」なんだけど、今回は精一杯というところで、プレイボーイには見えなかったかな。でも、最後に姫に酒を飲まぬようにいうくだりも様になっていて、予想以上に大健闘だと思いました。

そして、写メ日記の繰り返しになりますが、今回の舞台でいちばんわたしが良いと思ったのは、彌十郎の中納言。余裕のある遊び人みたいな雰囲気が若手には出せない味で、今月のこの人の役では、一番でした。

作品自体でいうと、最初にチラッと書きましたが、ヒロインおちくぼの前半のしおらしさが、後半の酔った時のご乱行の対比として重要なんだろうけど、それが歌舞伎らしいといえなくもないとはいえ、取ってつけたような展開という気がしなくもない。また、女形のしおらしい芝居というのが、どうもなかなかはまらないということを考えても、やはり労多くして、実り少ない芝居なのかなと。

とはいえ、白鸚&山本富士子による大阪新歌舞伎座の舞台なんて記録もあるので、どう演じられたのか気になるところですね。また、子供の頃に読んだきりの「落窪物語」を再読してみようという気にはなりますね。ということで、ノーマークだったけど意外に楽しめました。

②棒しばり

そんなに期待していなかったんですが、素直に感動しました。もっとも、これは歌舞伎を見続けたからこその感動なんでしょうけどね。

で、写メ日記にも書いたけど、巳之作の第一声の明快さが観客を沸かせたこと、勘九郎の溌剌とした調子、意外と柔らかみがあった彌十郎がよくて、さわやかな印象を残した舞台でした。今までの納涼歌舞伎の歴史を知るファンなら、さまざまな思い出が走馬灯のようにめぐる感じもあり、胸が熱くなったという方も多いんじゃないですか。

ただし、踊りの名人六代目菊五郎と七代目三津五郎が縛られたらどう踊るのかという、酔狂な楽しみから生まれた演目ですから、本当の粋にまで到達するのはきっとこれから。スタートラインを観ることができたという意味で、今後のこのコンビに期待したいですね。

でも、やっぱり、といっては失礼だけど、シネマ歌舞伎で勘三郎・三津五郎コンビの「棒しばり」が上映予定だときくと、そっちを観たくなりますね~。生の舞台を観ている頃は、これが貴重な映像になるなんて、意外と思っていなかったから、余計に、いろいろ考えてしまいます。役者は自分の芸を持って旅立ってしまうんだな、と。

というわけで、いろいろ考えさせられつつ、楽しめた舞台でした。
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