切られお富!

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『東京裁判』 小林正樹 監督

2015-08-17 21:00:54 | アメリカの夜(映画日記)
『日本のいちばん長い日』もよいんだけど、いま一度見直すべき映画はこれじゃないですかね。4時間余りありますが、全然長くありません。左右どういう立場であれ、網羅的に東京裁判を知るには決定版といえるドキュメンタリーだと思います。というわけで、久しぶりに見直しての感想。

長いからちょっとだれるかなと思いきや、全然そんなことはありませんでした。

この映画というと、大川周明が梅毒で頭が変になって東条英機の頭を叩くくだりばかりが語られますが、あのシーンの編集にも映画的な工夫があることは、編集技師浦岡敬一氏の本に詳しく語られています。(ちなみに、わたし、絶対、大川周明は詐病だったと思いますよ。つくづく卑怯なインテリだなと。)

さて、全体を通して感じたのは、まずまず公平に編集された作品だということ。GHQ寄りでもなければ、必ずしも左翼寄りでもないし、A級戦犯の反論場面も結構出てくるし、東京裁判をめぐる連合国サイドの混乱もよく描かれている(インドのパル判事やオーストラリアの判事交代の件もさることながら、A級戦犯の弁護を担当したアメリカ人弁護人の健闘、ソ連の滅茶苦茶な主張など。)。多少、時代の制約を感じるところもなくはないんだけど、これだけの構成力を発揮しているあたり、小林正樹はなかなかの人物だったと、改めて思いました。

また、佐藤慶のナレーション、武満徹の音楽もよいんですよ。特に武満徹の最良の映画音楽かもしれないですね。

なお、この映画の制作秘話に関しては、前述の映画編集技師浦岡敬一氏の『映画編集とは何か』に詳しく語られているので、映画ファンのみならず必読です。なにしろ、これだけの大作に、講談社からのギャラがまともに支払われず、小林監督や浦岡氏らによる映画人としてのプライド一本で、作品が完成されたことは、さすがに頭が下がります。講談社は、なにがしかの償いをすべきなんじゃないのかな。

というわけで、多少注釈をつけてでも、学校で見せるべき映画だと思います。ここに出てくることを知らずして、「東京裁判史観」とかいっても仕方がないでしょう。

なお、わたしは、東京裁判は(天皇免罪も含め)日米合作なんであって、中身は問題大有りだけど、やくざの手打ち式みたいなものなんだと思っています。手打ち式だから、歴史検証上はおかしいところも多々あるけど、コレを否定してしまうとサンフランシスコ講和条約を否定するのかという話になる。ま、この件に関しては論争する気はないんで、この辺にしておきますが・・・。

そんなわけで、戦後70年に観るべき一本といえますね。

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