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7月歌舞伎鑑賞教室(国立劇場)「義経千本桜 渡海屋・大物浦」

2015-08-18 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
お蔵入りにするのもなんなので、ごくごく簡単な感想のみ。

義経千本桜の三つの幕、「渡海屋・大物浦」、「すし屋」、「四の切」のうち、どれが一番好きかと問われれば、わたしはいま上げた順番に好きなんだけど、一方で、好きになった順番はと問われれば、ちょうど逆。宙乗りがあってもなくてもエンタメした「四の切」が最初に好きになって、そのあとに愛嬌のある主人公いがみの権太が面白くなり、最終的には「渡海屋・大物浦」にたどり着いた。

で、なんで「渡海屋・大物浦」が一番好きかというと、簡単にいえば義太夫味があるから。「すし屋」もよいけど、世話物っぽいところが分かりやすい分、重厚感で「渡海屋・大物浦」かなと。

というわけで、本題の舞台の方。

この芝居の良し悪しって、前半の「渡海屋」の渡海屋銀平が粋で貫録があって、いかにカッコいいかにかかっていると思う。着物の着こなしから、武士を軽くやりこめる余裕。このあたりを演じきれるのは、第一に吉右衛門、仁左衛門だし、国立で千本桜の三役通しをやった時の團十郎が個人的には記憶に残る。また、海老蔵も初役でやったときは、若いのに相手をいなす貫録があって、感心したものでした。

で、今回の菊之助ですが、なかなか立派に演じていて遜色がなかった。吉右衛門的な台詞の抑揚には乏しい分、口跡が良いので、とにかく気持ちいい。ちょっと仁左衛門の銀平を思い出しました。或いは、わたしは見たことないけど、初代辰之助がこの芝居をやったらこういう感じかなという印象でした。簡単にいうと、吉右衛門は余裕で武士をいなすけど、仁左衛門だと、小気味よく武士をいてこます感じというかね。

で、この役って、すし屋の権太みたいにユーモラスな部分がないから、菊之助向きだったという印象もある。菊之助の弱点は洒落っ気のなさですから、権太を持ち役にしている菊五郎の芸の継承はどうなるのか、ちょっと気になるところではあるんだけど、思えば、吉右衛門も権太はいまいちですから、義父の芸風と案外相性が良いのかもしれない。

と、いろいろ書きましたが、「町人の家は武士の城郭」というくだりが様になる若手はなかなかいないでしょう。それに、大方の芝居好きが、菊之助のニンにない役だと思っていたことからしても、上出来ですよ。ただ、後半の芝居は多少息切れ感を感じはしましたけどね。

梅枝の典侍局は、暖簾口から出てきたところといい、その佇まいといい、若手とは思えない世話女房ぶりでおおいに感心。夫の天気予報が当たることを自慢する一人語りのくだりも、この若さを考えれば上出来の部類でしょう。ちゃんと様になっていた。ただ、内侍局になってからが多少淡白か。

弁慶は團蔵が怪我で休演。菊市郎の代演はまずまず無難だったものの、最後のホラ貝を待つまでもなく、結構重要な役でしょう。知盛に数珠を渡すだけの役というなかれ。貫録という点ではやはり團蔵で観たかったですね~。

そして、義経の万太郎はさすがに気の毒。渡海屋の花道の引っ込みの余韻など、若手にできる役ではないし、知盛の裏をかく大将ですから、腹がいりますよ。ただ、鑑賞教室では立派な口跡で、だいぶ印象よかったですけどね~。

というわけで、菊之助の幅を広げた舞台だったと思います。でも、このひと、音羽屋と播磨屋の芸に加えて、玉三郎からも教わったりするでしょ。勉強が大変ですよ。ま、それだけ期待されてるとはいえねぇ~。休暇はちゃんととった方がよいなあ~などと心配になります。
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