切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『歳月』 司馬遼太郎 著

2016-05-22 00:10:30 | 超読書日記
ウィキペディアに、大久保利通が撮らせたという、江藤新平の生首の写真が載っているんですが、つい140年位前の近代国家による処刑なんですよね、やはり国家って怖いな・・・。この本は、30過ぎまでほぼ無名、34歳くらいからその才覚で出世して、国政に携わる参議にまで大出世したものの、征韓論で西郷隆盛らと下野、最後は佐賀の乱の首謀者として数え年41歳で処刑された江藤新平の物語です。ま、ジェットコースター人生ですよ。切れ者故に組織から失脚していく人の典型ですね~。中堅クラスの社会人が読むと、いろいろ思うところがあるんじゃないでしょうか。おすすめ。

「薩長土肥」っていいますが、「薩摩、長州、土佐まではいいけど、なんで肥前(佐賀)なの」っていう疑問が解ける本でもあります。佐賀藩は長崎の防衛の任にあたっていたことから、西洋技術を積極的に取り入れ、幕末の頃には日本国内でも先進的な地域になっていたんですね。加えて、教育にも熱心で、藩校の成績が悪いと禄高が減るという厳しい藩士教育もやっていたというから、今でいう教育県みたいなイメージですか。そういう背景から、副島種臣、大隈重信、大木喬任、江藤新平らの人材を輩出できたというわけなんですね。

で、もっとも貧しい層から出てきたといえる江藤がなんで出世できたのかといえば、脱藩時代に作った京都人脈が大きいわけですよ。幕末って、会社でいうと、生え抜きエリートじゃなくて、中途入社組とか出戻り社員が偉くなる感じに近くて、従来の出世エリートじゃない層が出世していく。で、その背景が人脈とか語学力だってケースが多いですね。(もっとも、江藤は語学はできなんですが・・・。)

で、江藤は持ち前の頭の良さとディベート力で明治政府の司法卿にまでなるんですが、今でも法科生にありがちな、ロジックはわかっても政治とか人間がいまいちわかっていなくて、百戦錬磨の薩長閥と衝突していく。汚職にまみれた山縣有朋、井上馨を一時的に失職にまで追い込むんだけど、結局、敵をたくさん作っちゃうタイプですよね。

で、征韓論で下野、大久保の術中にはまっていく・・・。

この本を読むと、同じ切れ者なのに抜群の政治感覚をもった大久保とは、江藤は最初から勝負ならなかったな~と思います。もっとも、大久保だって、江藤の4つ年上でしかないんだけど・・・。

自分が司法卿として整備した近代法秩序では、「政治犯は死刑にはならない」と踏んでいた江藤が、大久保の政治的暗躍で暗黒裁判にさらされ、当時でも士族には適用されなかったさらし首(梟首)にされてしまうなんて、「ロジックの人」江藤には想像もつかなかったことでしょう。でも、国家レベルはともかく、日本の組織じゃあ、ルールなんてあってなきが如し、そこは今でもいっしょ。理屈屋の失脚をみるようで、最後のくだりなんか、痛いです。

ただ、大久保サイドの理屈としては、佐賀の乱以降、西日本に広がった士族の反乱の最初の事件である佐賀の乱の首謀者江藤を見せしめ刑にしなければ、国家がもたないという、高度に政治的な判断だったんでしょうけどね。

というわけで、敗者を語る司馬リョウは、英雄を語っているときより、ある部分熱っぽいですね。特に最後の章の大久保批判なんか・・・。

なので、組織で挫折した人にこそ、おすすめします。

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2 コメント

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う~ん (蝙蝠お高)
2016-05-26 21:59:19
読む勇気と傲慢さが私にあるだろうか…
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コメントありがとうございます。 (切られお富)
2016-05-27 23:16:41
蝙蝠お高さま

コメントありがとうございます。

司馬リョウの幕末早世異才モノとしては、「峠」の河井継之助、「歳月」の江藤新平、「花神」の大村益次郎の三作だそうですけど、「歳月」一番ヘビーかな。ま、元気のない時は避けた方が無難でしょう。吉村昭の「冬の鷹」の方をおすすめしますよ。
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