切られお富!

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<訃報> 作家 J・D・サリンジャー

2010-01-30 23:59:59 | 超読書日記
訃報を聞いても微妙な感じが残るのは、「とっくに死んでいる作家」というイメージのためか?でも、『ライ麦畑~』って、今でも随分売れているんでしょ?というわけで、ご冥福をお祈りいたします。

「ライ麦畑でつかまえて」サリンジャー氏死去(読売新聞) - goo ニュース

<メディア嫌いの表現者>の先駆けだったかもしれない人ですよね~。

村上春樹が翻訳の許諾を得る際も、解説の類を一切許可しなかったって話だし。

わたしもご多分に漏れず、野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』を高校生時代に読んで、感化された人間の一人ですが、「インチキ(phony)」って言葉をこの小説で知ったって感じですかね~。

似たような、オトナの欺瞞を撃つみたいな感覚は、太宰治の『畜犬談』とか『ダス・ゲマイネ』みたいな初期作品にも共通するものがあるけど、サリンジャーの方が攻撃的だったという印象はあるな~。

ただ、このひとって、『ライ麦畑~』の未完成っぽさで語られすぎていて、実は巧い作家でしょ。『ナイン・ストーリーズ』の諸作なんかをみると、ものすごくテクニカルな作家としての一面も持っていますよね。

だから、『赤頭巾ちゃん気をつけて』の庄司薫的な、作者と主人公を同一視しようとする<読者の視線の力学>を、巧妙に意識した作家だったのではという推測もしてしまいます。

ただ、庄司薫と違うのは、『ライ麦畑~』があまりにも世界中で売れすぎたこと。だから、主人公のホールデンの頑固イメージが作者につきすぎて、本人も離れられなくなってしまったのではないか?

華やかなセレブリティ生活で自分を見失っていったトルーマン・カポーティと、実は表裏一体にある作家人生だったって、気がするなあ~、わたしは・・・。(しかし、サリンジャーもカポーティも翻訳している村上春樹は狡猾なひとですよね、きっと。)

で、改めて読むなら、やっぱり『ライ麦畑~』を原著でというところ。

日本での成功の影に、“the catcher in the rye” を『ライ麦畑でつかまえて』と翻訳した野崎孝のセンスがあるってことも忘れてはいけないと思います。というのも、『ライ麦畑の捕手』という直訳タイトルの翻訳も存在しているからで、「~つかまえて」というファジーっぽさに日本語のよさを感じるのも一興なんじゃないかと思えるからなんですよね~。(

それと、「バナナフィッシュにうってつけの日(『ナイン・ストーリーズ』収録)」の「うってつけ」も巧い訳だな~。なお、この短篇小説の深い意味を知ったのは、岩波新書の『続・日本人の英語』を読んだあとでした。

他の作品では、初期短篇で『ライ麦畑~』の原型になったといわれる『きちがいの僕』、『ナイン・ストーリーズ』では、めちゃくちゃ巧い『笑い男』。サリンジャー自身を追いかけたノンフィクションや、じつはベースボール賛歌であると同時にサリンジャー賛歌でもあった『シューレス・ジョー』(映画『フィールド・オブ・ドリームス』の原作)もお忘れなくというとこですかね~。

(過去に書いた記事)
・サリンジャー氏、「ライ麦畑でつかまえて」続編をめぐり提訴!

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