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切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

九月大歌舞伎 夜の部

2004-09-19 16:48:31 | かぶき讃(劇評)
★昨日観て来ました。忘れないうちに感想です。

①『恋女房染分手綱』
 生き別れになった親子の再会と別れという、ストーリー自体はあまり面白くない芝居なのだが、(最後の玄関先の場の芝居があるとはいえ、)ほぼ奥座敷一場の芝居を飽きさせずに見せる歌舞伎ならではの工夫がちりばめられており、興味深い芝居だ。
 
 最初の群集シーンから、三吉と小道具の<忘れ物の刀>が取り残されるシーン、そして刀が取り返された後に、義太夫が始まって、母親・重の井登場、とリズムがあって昔の人はうまい演出を考えるなあと感心させられる。

 さて、今回の芝居だが子役三吉役の中村国生君(橋之助の長男)は、なかなか舞台度胸があるらしく、台詞回しに器用さはないが、堂々した感じの好演。竹本葵太夫の義太夫にうまくのった台詞と芝居で感心した。成駒屋の教育の賜物かな。(因みに竹本葵太夫は、年配者の多い義太夫語りのなかでは、若くてちょっと二枚目の義太夫語りで、歌舞伎ファンの女子にカルトな人気を呼んでいる人です。)結局この芝居、裏の主役は義太夫なので葵太夫の声を堪能してほしいですね。
 最後に芝翫の玉の井だが、若い頃の歌右衛門の繊細な指使いの玉の井(もっともこの人は全部が<繊細な指使い>なんだけど。)が記憶にあるせいか、どっしりとした貫禄のある玉の井だなあという印象。太い感じの安定感はあるんだけど、細くて凛とした歌右衛門のイメージがあるので、もうちょっと、<怯まない、姿勢の良さ>みたいなものがあったほうが私の好みではある。芝翫は<肝っ玉母さん>で、歌右衛門は<瘠せた岸壁の母>って感じかな。まあ、好みの問題なんで、立派な大きい舞台だったことは変わりない。

 因みに私が見たことのある『恋女房染分手綱』は、昭和31年のモノクロ・ビデオ。重の井=歌右衛門、調姫(いやじゃ姫)=今の魁春、三吉=今の梅玉というもので、梅玉さんの三吉は今に通じる飄々としておおらかな三吉でなかなか良いんですよね。

PS:文楽の『恋女房染分手綱』を近日中に観るのでまた感想書きます。

②『男女道成寺』
 「鐘に恨みは数々ござる~」というわけで、私は『道成寺』という演目自体が好きで、実演はもちろん、玉三郎、歌右衛門、梅幸、芝翫、魁春といったところのビデオを繰り返し見てきた者だが、今回の『男女道成寺』はいかにも中途半端。道成寺本来の踊りが細切れにつながり、なんだかカタルシスが得られない。(やっぱり道成寺は花道で口を拭いた袂紙を捨ててくれないと、あの色っぽい道成寺じゃないような気がするんだよなあ…。)女形姿から狂言師姿になった橋之助はいつになく色っぽくてよかったが、せっかくの五世福助追善なんだし、ちゃんと福助一人で『娘道成寺』を成駒屋の型でやったらいいんじゃないかと思う。(ちょうど映画『娘道成寺』の宣伝にもなるんだし。)どうせ七代目歌右衛門を襲名することになるんだろうし…。襲名まで出し惜しみするつもりなのか、それともたんに体力的問題なのか、松竹永山会長、考えてくださいよ、見物のことも!

③蔦紅葉宇都谷峠
 地味な今月の演目にあって、じつは一番期待していた幕。

 河竹黙阿弥作・市川小團次初演のこの芝居を観るのは実は初めて。市川小團次といえば、幕末の名優で、小柄で醜男だったために宙乗りや早替りなど様々な演出の工夫をした人物。今の猿之助がこの人を大変意識しているのは言うまでもない。

 さて、今回の芝居だが演劇評論家渡辺保氏のHPにかなりボロクソに書かれていてちょっと不安だったが、実際みてみれば黙阿弥らしい、いい芝居だった。渡辺氏は4日目に見たそうだが、世話物は遅い日に観たほうが分があるってことかな。
河竹黙阿弥といえば、「髪結新三」や「三人吉三」など幕末の江戸の治安悪化を背景とした、表の社会と裏社会の交流を描いた風俗劇作家というのが私の印象。今回も旅の旅籠から序幕が始まるあたり、江戸歌舞伎だなあと思う。

 今回、善人の<座頭・文弥>と悪党の<提婆の仁三>二役を勘九郎が演じているのだが、断然<提婆の仁三>役が素晴しい。髪結新三の勘九郎が戻ってきた、という感じ。「髪結新三」はいろいろな人が演じているが私の印象でいうと、勘三郎のは愛嬌のある太い(ふてぇ)新三、菊五郎は江戸っ子の粋な新三、そして勘九郎は鋭くておっかない新三だ。アドリブが利く人なので、日頃つまんない笑いを取ったりもする勘九郎だが、こういう鋭い勘九郎が私の望む勘九郎なんですよね。
 対する伊丹屋十兵衛役の三津五郎は落ち着いていて、しっかり仁三と渡り合う。久々に世話物らしい緊張感のある掛け合いだった。
 脇役では<野次馬の喜多>の松本錦吾、<文弥の母りく>の坂東玉之助、<口入婆・お百>の中村吉之丞が、勘三郎存命時の渋い世話物の雰囲気を出していて、「やっぱり世話物だよなあ」と思わせてくれた。

ただ惜しむらくは、この芝居、ストーリーがいまいちなんですよね。(特に最後。)補綴に問題があるのか、原作自体の問題なのか、原作を知らないのでわからないが。何とかならないのかな…。

九月大歌舞伎 歌舞伎座
渡辺保氏のHP
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2 コメント

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ありがたい情報。 (切られお富)
2004-09-19 21:49:24
演出が途中で変わったんですか。貴重な情報です。でも変更しても、いまいちな終わり方だと思うんですよね…。渡辺保氏の感想の理由が良くわかりました。

ブログ情報侮りがたし、です。

ありがとうございます。
返信する
コメントやリンク、ありがとうございます。 (はつせ)
2004-09-20 00:34:33
「宇都谷峠」の件は、

三津五郎さんの公式ページ内の "フォト日記" にも、

簡単ですが、説明が出ていました。

http://www.kabuki.ne.jp/mitsugoro/
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