きわめて簡単な感想です(箇条書き風)。
「小栗判官」という芝居は説教節からきているんですが、森鴎外の小説や溝口健二の映画でおなじみ「山椒大夫」も、元をたどれば説教節です。そして、「高貴な人の放浪」という設定は、民俗学でいう「貴種流離譚」ってやつですよね~。実際、小栗判官のみならずヒロインの照手姫も流離する。そして、熊野古道でおなじみ熊野が「再生」の舞台になるという点も、じつは深い何かがあるんでしょう。
でも、難しいことはともかく、このストーリーのアウトラインを押さえるには、『説教小栗判官』というマンガがオススメ。近藤ようこさんの絵柄は落ち着きがあって、絵巻物風でよいです!
さて、このあたりで本題の芝居の感想に入りますが・・・。
①序幕
竹三郎(局藤浪)が舞台を締める。照手姫を引き立てるには、まさに「お局」って貫禄の女形が必須。段四郎休演で、敵役横山大膳は右近。よくやっている。思ったより老け役も貫禄あり。笑也の照手姫は澄ましているところが良い。
御殿に入って亀治郎の小栗判官。線の細い亀治郎が間目を出そうとすると、猿之助の台詞回しになる。たぶん意識してるんだろうけど、亀治郎の小栗判官は太さ、立派さが強調されていると思う。
②二幕目
春猿(浪七女房お藤)が出色の出来。夫の帰りを待って花道を見る視線の愛らしさ、哀れさ。簪をめぐって夫と交わす視線と決まり決まり。
右近の胴八は上手いが、妹にまで手を出そうとする図太い悪に欠ける。土着の悪というのかな。ペルソナとしての悪なら團十郎という怪優もいるけど、右近の場合は真面目すぎるんだと思う。(團十郎だと、正体不明の宇宙人的な感じになって、古怪な感じになるけど、こういうのは團十郎のワンアンドオンリーだと思う。)
そして、獅童(橋蔵)も頑張っている。獅童の役は宗十郎の当たり役で、「聖なる愚か者」って感じか。あれこそ紀伊國屋のワンアンドオンリーだったけど、獅童は自分なりにかなり考えてこなしていると思う。違いでいえば、同じ阿呆役でも、宗十郎はふくよかな品を見せたけど、獅童は笹野高史を思わせる下層民みたいな部分と獅童独特の子供っぽさが加わったスタイル。
亀治郎の二役目浪七は、世話場だけに台詞回しが父親の段四郎に似ているのが不思議。時代がかると叔父の猿之助を彷彿とさせるし、根本的に器用なタイプなんだと思う。
そして、こんなことをいうと、猿之助フリークを敵に回しそうだけど、役者としての猿之助・段四郎兄弟では、口跡のよさ、台詞に籠もる情の濃さで、わたしは断然段四郎贔屓。その点でも、世話場の亀治郎の台詞には好感を持ちました。
そして、あの線の細い亀治郎がと思うほど貫禄が出ているのが素晴らしい。これだけ重量感のある立ち役が出来るのなら、将来的には濡髪とか逆櫓の樋口、夏祭の団七もいけるんじゃないかと思いましたね。特に幕切れの勇壮さなんて驚きましたから。
③大詰
亀治郎三役目のお駒がよい。この人の女型について美しくないという人もいるけど、わたしはむしろ現代的でコケティッシュな感じがするし、今のOLでもこういうタイプいるな〜と思わせる感覚があって面白いと思ってます。
以前も書いたけど、芝翫が演じるとカントリーガールに思えた「野崎村」のお光が、亀治郎だとぶきっちょな普通の女の子に思えて、むしろ、これからは亀治郎の線でこの芝居は生き残るのではなんて思えましたからね。
で、その点からいえば、3幕目の亀治郎の小栗判官はやや物足りないか。色男にしては鬘が少しカッコ良くなかったしね。
で、三幕目の出色は笑三郎の後家お槇。宗十郎も傑作だったけど、笑三郎には元は武家というような気骨のある後家になっている。大柄な人だし刀を構えた感じなんか、実に様になってましたね。
それと、下女になった照手姫の笑也も可愛らしく哀れみもあってよい。そして、この人、普段は古風な感じなのに、コメディっぽいところでは現代的なニュアンスが出たりする。(たとえば、判官に嫉妬する時の仕草なんか。)
で、お槇が娘を殺すくだりで、以前坂田藤十郎(当時中村鴈治郎)がお駒を演じたとき、灯籠に飛んだ生首が藤十郎本人の首にすげ変わる演出があったんですよ。(要するに、盟三五大切で、主人公の三五兵衛が好きな女の生首と食事をする場面と同じ演出ね。)
実は今回もそういう演出かななんて思っていたら、生首の作り物と火の玉のみで少し凄味が足りなくなった気がしました。というのも、あの生首で一部に失笑が起きてましたから。
で、お駒の怨念で病気になった判官と照手姫のくだりは絵草紙的で美しかった。ただ、頽廃美というより健康的な美しさではありましたけど。
そして、熊野の湯から白馬の宙乗りですが、ここは愛之助の遊行上人がなかなか立派ですっきりしている。もともとそういう芸風とはいえ、やっぱり貫禄がついたな。仁左衛門の小ぶりのレプリカじゃなくなってきたもの。
そして、お待ちかねの宙乗り。猿之助の宙乗りがよかったのは宙乗りの最中も芝居っ気があったところで、亀治郎もそこは立派に踏襲している。馬から落ちそうになる芝居(!)も笑也ともどもカッコよかったですもの。
最後は出演者勢揃いで、敵討ちですが、ここの大膳は段四郎の方がよかったですね、右近だと形は立派だけど、打ち取られる「悪」の渋みがまだ出てこない。
ということで、トータルでは亀治郎大健闘の舞台だと思いました。また、劇評では「亀治郎は浪七役で苦労している」とみな書いているけど。わたしの観方ははっきり違います。少なくとも、わたしの観た日は浪七も素晴らしかった。ま、誰の劇評であれ参考程度ですよ。結局、自分の感想を残すことが一番なんだから!以上!!
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夜の部
猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)
市川亀治郎 市川笑也
天馬にて宙乗り相勤め申し候
小栗判官兼氏/浪七/娘お駒 亀治郎
照手姫 笑 也
鬼瓦の胴八 右 近
横山次郎/膳所の四郎蔵 猿 弥
後家お槙 笑三郎
浪七女房お藤 春 猿
横山郡司 寿 猿
横山三郎 薪 車
局 藤浪 竹三郎
矢橋の橋蔵/上杉安房守 獅 童
遊行上人 愛之助
横山大膳 段四郎(休演)→ 代役=右近
「小栗判官」という芝居は説教節からきているんですが、森鴎外の小説や溝口健二の映画でおなじみ「山椒大夫」も、元をたどれば説教節です。そして、「高貴な人の放浪」という設定は、民俗学でいう「貴種流離譚」ってやつですよね~。実際、小栗判官のみならずヒロインの照手姫も流離する。そして、熊野古道でおなじみ熊野が「再生」の舞台になるという点も、じつは深い何かがあるんでしょう。
でも、難しいことはともかく、このストーリーのアウトラインを押さえるには、『説教小栗判官』というマンガがオススメ。近藤ようこさんの絵柄は落ち着きがあって、絵巻物風でよいです!
さて、このあたりで本題の芝居の感想に入りますが・・・。
①序幕
竹三郎(局藤浪)が舞台を締める。照手姫を引き立てるには、まさに「お局」って貫禄の女形が必須。段四郎休演で、敵役横山大膳は右近。よくやっている。思ったより老け役も貫禄あり。笑也の照手姫は澄ましているところが良い。
御殿に入って亀治郎の小栗判官。線の細い亀治郎が間目を出そうとすると、猿之助の台詞回しになる。たぶん意識してるんだろうけど、亀治郎の小栗判官は太さ、立派さが強調されていると思う。
②二幕目
春猿(浪七女房お藤)が出色の出来。夫の帰りを待って花道を見る視線の愛らしさ、哀れさ。簪をめぐって夫と交わす視線と決まり決まり。
右近の胴八は上手いが、妹にまで手を出そうとする図太い悪に欠ける。土着の悪というのかな。ペルソナとしての悪なら團十郎という怪優もいるけど、右近の場合は真面目すぎるんだと思う。(團十郎だと、正体不明の宇宙人的な感じになって、古怪な感じになるけど、こういうのは團十郎のワンアンドオンリーだと思う。)
そして、獅童(橋蔵)も頑張っている。獅童の役は宗十郎の当たり役で、「聖なる愚か者」って感じか。あれこそ紀伊國屋のワンアンドオンリーだったけど、獅童は自分なりにかなり考えてこなしていると思う。違いでいえば、同じ阿呆役でも、宗十郎はふくよかな品を見せたけど、獅童は笹野高史を思わせる下層民みたいな部分と獅童独特の子供っぽさが加わったスタイル。
亀治郎の二役目浪七は、世話場だけに台詞回しが父親の段四郎に似ているのが不思議。時代がかると叔父の猿之助を彷彿とさせるし、根本的に器用なタイプなんだと思う。
そして、こんなことをいうと、猿之助フリークを敵に回しそうだけど、役者としての猿之助・段四郎兄弟では、口跡のよさ、台詞に籠もる情の濃さで、わたしは断然段四郎贔屓。その点でも、世話場の亀治郎の台詞には好感を持ちました。
そして、あの線の細い亀治郎がと思うほど貫禄が出ているのが素晴らしい。これだけ重量感のある立ち役が出来るのなら、将来的には濡髪とか逆櫓の樋口、夏祭の団七もいけるんじゃないかと思いましたね。特に幕切れの勇壮さなんて驚きましたから。
③大詰
亀治郎三役目のお駒がよい。この人の女型について美しくないという人もいるけど、わたしはむしろ現代的でコケティッシュな感じがするし、今のOLでもこういうタイプいるな〜と思わせる感覚があって面白いと思ってます。
以前も書いたけど、芝翫が演じるとカントリーガールに思えた「野崎村」のお光が、亀治郎だとぶきっちょな普通の女の子に思えて、むしろ、これからは亀治郎の線でこの芝居は生き残るのではなんて思えましたからね。
で、その点からいえば、3幕目の亀治郎の小栗判官はやや物足りないか。色男にしては鬘が少しカッコ良くなかったしね。
で、三幕目の出色は笑三郎の後家お槇。宗十郎も傑作だったけど、笑三郎には元は武家というような気骨のある後家になっている。大柄な人だし刀を構えた感じなんか、実に様になってましたね。
それと、下女になった照手姫の笑也も可愛らしく哀れみもあってよい。そして、この人、普段は古風な感じなのに、コメディっぽいところでは現代的なニュアンスが出たりする。(たとえば、判官に嫉妬する時の仕草なんか。)
で、お槇が娘を殺すくだりで、以前坂田藤十郎(当時中村鴈治郎)がお駒を演じたとき、灯籠に飛んだ生首が藤十郎本人の首にすげ変わる演出があったんですよ。(要するに、盟三五大切で、主人公の三五兵衛が好きな女の生首と食事をする場面と同じ演出ね。)
実は今回もそういう演出かななんて思っていたら、生首の作り物と火の玉のみで少し凄味が足りなくなった気がしました。というのも、あの生首で一部に失笑が起きてましたから。
で、お駒の怨念で病気になった判官と照手姫のくだりは絵草紙的で美しかった。ただ、頽廃美というより健康的な美しさではありましたけど。
そして、熊野の湯から白馬の宙乗りですが、ここは愛之助の遊行上人がなかなか立派ですっきりしている。もともとそういう芸風とはいえ、やっぱり貫禄がついたな。仁左衛門の小ぶりのレプリカじゃなくなってきたもの。
そして、お待ちかねの宙乗り。猿之助の宙乗りがよかったのは宙乗りの最中も芝居っ気があったところで、亀治郎もそこは立派に踏襲している。馬から落ちそうになる芝居(!)も笑也ともどもカッコよかったですもの。
最後は出演者勢揃いで、敵討ちですが、ここの大膳は段四郎の方がよかったですね、右近だと形は立派だけど、打ち取られる「悪」の渋みがまだ出てこない。
ということで、トータルでは亀治郎大健闘の舞台だと思いました。また、劇評では「亀治郎は浪七役で苦労している」とみな書いているけど。わたしの観方ははっきり違います。少なくとも、わたしの観た日は浪七も素晴らしかった。ま、誰の劇評であれ参考程度ですよ。結局、自分の感想を残すことが一番なんだから!以上!!
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夜の部
猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)
市川亀治郎 市川笑也
天馬にて宙乗り相勤め申し候
小栗判官兼氏/浪七/娘お駒 亀治郎
照手姫 笑 也
鬼瓦の胴八 右 近
横山次郎/膳所の四郎蔵 猿 弥
後家お槙 笑三郎
浪七女房お藤 春 猿
横山郡司 寿 猿
横山三郎 薪 車
局 藤浪 竹三郎
矢橋の橋蔵/上杉安房守 獅 童
遊行上人 愛之助
横山大膳 段四郎(休演)→ 代役=右近
説経小栗判官 (ちくま文庫) | |
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