切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

11月新橋演舞場 昼の部 (「吃又」「吉野山」「魚屋宗五郎」)

2011-11-10 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
簡単な印象だけです。よいんだけど、もっと突き抜けたものが観たい。そんな気も少し残ったかな~。

①吃又

三津五郎の又平は五度目だそうですが、わたしが観たのは二回目くらいかな。

どもりをそんなに強調し過ぎないいき方だと思いました。リアリズム志向ということなんでしょう(実際、先代の三津五郎はどもりを克服した人でしたよね。)。

又平という役では、今だと吉右衛門が絶品ですが、個人的には富十郎の舞台が好きでした。どもりにリズム感があって、滑稽さと悲哀の両方があった。最近だと、團十郎の舞台もわたし好みで、リアリズムの見地からだと「こんなどもりいないよ!」と言いたくなるような、團十郎独特の発声のどもりなんですが、まさにワン&オンリー!三代目春風亭柳好がどもりをやったらこんなかなって感じの、富十郎とはまた違う陽性の舞台でしたね~。

時蔵のおとくは、最初の夫に代わって言い立てるところが、少しスピード感を欠いていたかな。この役だと、わたしは坂田藤十郎の舞台が好きで、あのヒラヒラしたおしゃべり感覚が、どもりの又平とよい対称をなしていた。基本的に陽性の役で芝翫もよかったですよね。

で、時蔵も後半調子が上がってきて、又平が光起の名前をもらってからは、軽快だった。

気付いたのは、手水鉢に浮き上がる絵が、菊五郎劇団と吉右衛門系で違うんじゃないかということ。菊五郎劇団の方がわかりやすい絵で、吉右衛門の方が和風の感じか。二世松緑の舞台写真に出てくる絵も今回と同じタイプだった。これは、ちょっと確認しておこうかな?

彦三郎の土佐将監は古風で貫禄あり。この人の免許皆伝なら重みがある。

松也の修理之介は、面差しが父親の松助に似てきた。今までそんな風に思ったことはなかったけど。カツラのせいか、ふっくらしたからかな。

というわけで、菊五郎劇団らしい舞台ということですかね。


②吉野山

菊之助と松緑。

劇評では舞踊としての面白味に欠けるなんて書かれていたけど、わたしは楽しめました。

菊之助の花道七三は、人形振りでもないのに人形振りみたいな静謐さがあった。この人の芸には菊五郎にないクールさがあるけど、これって富司純子譲りなんじゃないかしら。むしろ、父親の大衆性は姉の寺島しのぶが継いでいる気がする。

今日の菊之助は、全般に、いつにもましてクールで、清元舞踊なのに能みたいな感覚が残った。玉三郎から教わったのかな?菊五郎劇団っぽくはない静御前かも。

松緑は足の形がよい。座っていても、立っていても、足をコンパスのように三角にしている時の形が美しい。

團蔵はわたしの好きな役者の一人。この人の悪役の切れ味はちょっと他にないし、口跡もよい。松助が亡くなってからコミカルな役も増えたけど、これも巧い。菊之助の代になったら、誰が團蔵のポジションをやるんだろう?松也かな?菊五郎劇団の今後としては重要だと思うんだけど。


③魚屋宗五郎

またかという芝居だけど、気付いたことだけ。

この芝居に限らず、黙阿弥って黒御簾音楽の芝居ですよね。

三味線の、おなぎさんの語りに入るときの急な感覚とか、宗五郎がお酒を飲むときのリズム。

他の演者との比較でいうと、前進座の梅之助の舞台だと、畳にこぼれたお酒を舐めたりして、山中貞雄の映画の最下層の庶民みたいな感覚があったし、二世松緑、梅幸の舞台も落語っぽい庶民の生活感があった。

最近マシになったけど、以前までの勘三郎の舞台ではスラプスティック(どたばた喜劇)もどきで、江戸の風は吹いてこなかったなあ〜。

で、今月の舞台。いちばん湧いたのが松緑の子供の藤間大河くん演じる酒屋の丁稚登場シーン。そのことからいえるのが、今の菊五郎劇団だと、すごくエンターテイメントっぽい舞台になるということ。

良くも悪くも安定感があって、安心して観ていられる。危な気ない。でも、それ故に物足りなさは残りましたね。エンターテイメントとしての完成度が高い舞台だけに。

変な言い方だけど、この芝居を落語にするとすれば、古今亭志ん朝ならテンポと爽やかな口跡の落語にするだろうし、立川談志なら「鼠穴」や「死神」みたいな、リアルで映画的で臨場感溢れる噺にするでしょう。わたしの期待だと、前者の超絶技巧的江戸言葉の早口を菊五郎劇団に、後者の臨場感を勘三郎に期待したいんだけどナア~。それと、最近文庫になった渡辺保さんの『黙阿弥の明治維新』を読まないと(積読状態だ!)。

最後に細かいところながら、芝居の冒頭に出てくるお茶屋の後家の萬次郎が貫禄があってよかった、ほんとによい!萬次郎や彦三郎みたいな古風な役者って、新劇の世界からは出てこないと思う(まさに、笹野高史の逆パターン!)。そのあたり、G2がうまく使っていたんで、関心したのですが・・・。

で、その段でいうと、今後の新作の方向性って、歌舞伎役者の非歌舞伎化じゃなくて、歌舞伎にしかない人や演出の再利用だと前から思っているんですが、いかがでしょうか!

ま、今回はこんなところで。

(参考)
・6年前に書いた「魚屋宗五郎」の感想。(寿初春大歌舞伎 夜の部(歌舞伎座))

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新橋演舞場
吉例顔見世大歌舞伎

平成23年11月1日(火)~25日(金)
昼の部

一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
  土佐将監閑居の場

             浮世又平    三津五郎
           狩野雅楽之助    権十郎
           土佐修理之助    松 也
            将監北の方    秀 調
             土佐将監    彦三郎
            女房おとく    時 蔵


二、道行初音旅(みちゆきはつねのたび)
  吉野山

       佐藤忠信実は源九郎狐    松 緑
             逸見藤太    團 蔵
              静御前    菊之助


  新皿屋舗月雨暈
三、魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)
            魚屋宗五郎    菊五郎
            女房おはま    時 蔵
             小奴三吉    松 緑
            召使おなぎ    菊之助
           茶屋娘おしげ  尾上右 近
             丁稚与吉    藤間大河
             岩上典蔵    亀 蔵
         菊茶屋女房おみつ    萬次郎
             父太兵衛    團 蔵
           磯部主計之助    三津五郎
           浦戸十左衛門    左團次

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