切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

新橋演舞場 九月大歌舞伎(昼の部)

2013-09-02 00:06:42 | かぶき讃(劇評)
久々の劇評だし、久々の初日観劇ということで、簡単なことだけ、備忘録的に…。

①御浜御殿綱豊卿

まず、正直な告白から入りますが、久々の劇評のくせに、最初の三〇分遅れました!チケット忘れて引き返して、三〇分程度で済んだのが奇跡って感じ。ということで、限定的な感想になりますが…。

で、最初に話題にしなければいけないのが、多くの歌舞伎ファンをビックリさせた三津五郎の休演!勘三郎のことがあるので、同い年の三津五郎が心配ではありますが、急な代演の橋之助=綱豊卿がまずまずの出来で、まずはよかった、よかった!それに、翫雀の助右衛門もよい!ということで、この二人の熱演は好感が持てましたよ。

橋之助の綱豊卿は、ちょっと時代がかってはいますが、なかなかの貫禄で初役にしてはよくがんばった。七月の大阪の舞台もよかったし、勘三郎亡き後、一段役者ぶりが上がって来た気がしますね。ただ、あえて言うなら、仁左衛門や吉右衛門がこの役を演じる時の「遊び心」みたいな感覚がもうちょっと欲しいかな。助右衛門を相手に遊んでいる感じというのかな?仁左衛門ならお殿様ならではの陽性の無邪気さがあるし、吉右衛門なら懐の深い遊び人の余裕がある。橋之助の場合、この役に限らず、少し一本調子になるきらいがあるので、緩急というか、遊びみたいな間の部分が出てきたら、次代を担う立役という感じになるんでしょうけどね~。

翫雀の助右衛門は、染五郎あたりが演じるこの役のイメージ=血気盛んな若者というタイプとは全然違う、陽気で愛すべき粗忽者という感じで、近年の名演だった又五郎の鋭さとは違った意味のよい舞台だと思いました。ま、この人は何をやらせても巧い人だから、これくらいは当たり前かもしれませんけどね。

なお、個人的な趣味の問題ですが、わたしは坂田藤十郎も好きだけど、父親の二代目鴈治郎が大好きで、小津安二郎の映画でも『小早川家の秋』とか『浮草』の芝居が忘れられないんですよね。で、二代目鴈治郎の巧さを継承してくれそうなのが翫雀だという印象を持っています。隔世遺伝ということなんでしょうか?そういえば、先月の扇雀の「狐狸狐狸話」も勘三郎より良かったくらいでした、個人的には。

あと、壱太郎=お喜世は兄・助右衛門を留めるくだりが、いくらなんでも足がバタバタしてて、狼狽しすぎ。武士の娘の覚悟って、もうちょっと腹の決まった感じだと思うんですけどね…。

ということで、なかなか見応えがありました。歌舞伎座に負けてません。ロビーで見かけた三田寛子さんも満面の笑みでしたよ。

②男女道成寺

橋之助と孝太郎のコンビでしたが、劇中で鳥羽屋文五郎の三右衛門襲名の挨拶が橋之助からあって、華やかな感じがしましたね~。しかし、続けての出演の橋之助はお疲れさま!

意外に思ったのは、最近では珍しい橋之助の女形姿がよかったこと。狂言師になってからはもちろん、烏帽子姿の女形の踊りもなかなかよいんですよね。身内に芝翫、福助、親戚に故勘三郎と、舞踊の名手が揃っている人だから、これくらい当たり前なんでしょうが、立役の踊り手としてはダークホースだったかなと、我が身を反省してしまいましたよ。

孝太郎も、姿というより形で魅せてまずまず。

やはり、道成寺物はよいなと思いました。ま、趣味の問題ですけどね。

③河内山

幸四郎の河内山って、またかといいう感じですが、夜の部の「不知火検校」と対ということなんでしょ?

ということで、簡単に感想ですが、よくも悪くもこの人の臭み全開で、ある意味興味深かった。亡くなった團十郎の最後の河内山も、團十郎らしい宇宙人的な河内山全開でわたしは結構好きでしたが、今回の幸四郎もまた、いかにも彼らしくて、好みじゃないけどまあいいか、面白かったというところか。

いま観られる河内山の最良の舞台は、腹芸の吉右衛門か、小気味のいい仁左衛門の舞台で、どちらの舞台も観るとスッキリするんですよね。その段でいうと、幸四郎の河内山は苦み走っていて嫌味っぽくて、黙阿弥物の爽快感は昔から皆無。何か老優のもったいぶった演技も見せられている感じなんだけど、臭い感じもあれだけ堂々とやられると、珍品という感じがして、亡くなった團十郎の「宇宙人的」と同様、貴重な変種という気がしてきてしまった!

特に、最後の花道七三の名台詞「馬鹿め!」の朗々ぶりが思いっ切り臭いんだけど、「これも芸だなあ~」と思わせる貫禄があったことは確かで、今日は良くも悪くも開き直った幸四郎を観れたなあ~と思いましたよ。(ただし、北村大膳に向かって言う「ご直参だぜ」はいじり過ぎ。ここは胸のすくところですからね。ここくらいはすっきりやってくれないと!)

他だと、左団次の高木小左衛門がやっぱり貫禄。後家おまきの秀太郎はやっぱり味があるし、和泉屋清兵衛の東蔵も名調子!

ということで、夜の部が楽しみになる、幸四郎の舞台ではありました。(あとで、勝新の『不知火検校』(森一生監督)見直しとこ!)

PS:今月は、溝口健二監督の映画『元禄忠臣蔵』、「御浜御殿」のくだりの綱豊卿の能舞台の凝りに凝ったカット割りを楽しんでみてはいかがでしょうか?映画ファンからは溝口にしては駄作と言われる作品ですが、歌舞伎ファンのあなたから観れば、純粋な映画ファンなんぞは無教養な野暮天に思えることでしょう!映画ファンでかつ歌舞伎ファンが少ないことがこの映画の評価を貶めてきた?そんなところだと思います!!

それと、山中貞雄監督、当時一六歳の原節子出演の名作『河内山宗俊』もご参考に!(ストーリー違うけどね。)

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