切られお富!

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『42丁目のワーニャ』 ルイ・マル監督

2015-11-14 23:59:59 | アメリカの夜(映画日記)
ルイ・マルの遺作で、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の舞台稽古をそのまま映画化したという異色作ですが、ルイ・マルをそんなに好きじゃないわたしでも、なかなかだと思いました。簡単に感想っ。

脚本家山田太一のムック本で、好きな映画にこれが入っていたり、好きな本に『チェーホフの手帖』が入っていたりで、今さらながら、『ふぞろいの林檎たち』の作家のルーツはチェーホフだったのかと考えさせられたのが、この映画を観たきっかけでした。

チェーホフに関していうなら、4大戯曲では、「ワーニャ伯父さん」と「三人姉妹」が未読でも、「かもめ」と「桜の園」は読んでいたし、主要な短編も一通り読んでいましたが、正直、ずっと苦手な作家だったんですよね。というのも、大した事件は起こらないし、淡々としてるし、みんな諦めてるわで、退屈というか・・・。もっとも、ミニマリズムの代表的な作家レイモンド・カバーなんかもわたしは苦手にしているんで、とにかく、今までは相性悪かった。

でも、今回、「ワーニャ伯父さん」と「三人姉妹」を読んで、ルイ・マルの映画を観たら、ちょっと印象が変わりました。これも、読書経験の、ある種、「経年変化」なのかな~。

要するに、夢や希望を打ち砕かれた中年が、日常生活のなかで耐えて待つことにささやかな希望を託すみたいなニュアンスが、この年になってようやく少しわかってきたということですかね。

映画の方はというと、ニューヨークの42番街で「ワーニャ伯父さん」の稽古をしている俳優たちを追っているうちに、稽古じゃなくて、そのまま「ワーニャ伯父さん」の世界には入って行ってしまうという構成(ってこの言い方で伝わるのかな?)。

で、ニューヨークの街角でファーストフードを頬張るワーニャ役の禿げ男優をカメラが追っているうちに、稽古場にたどり着くんだけど、映画音楽として使われているジャズが妙にカッコいいんですよ。ま、『死刑台のエレベーター』でマイルス・デイヴィスを使った監督ですから、こういうセンスはお手の物なんでしょうが、音楽の使い方が実に洗練されている。

また、アンチヒーロー的な日常生活を描いた芝居で、俳優たちの日常を感じさせる場面から入るという構成も、チェーホフの現代的な読み替えとしては、よいんじゃないですかね。オペラの現代読み替え演出よりずっと洗練されていて。

そして、戯曲としてもクライマックスである不美人のヒロイン・ソーニャがうだつの上がらない中年ワーニャ伯父さんを慰めるラストシーンの美しい台詞、陰影ある照明・・・。

この映画の良さが、ルイ・マルの力量なのか、実際に演出していた舞台の演出家によるものなのか、どうも微妙な感じはするんだけど、落ち着いた大人の映画って感じで、わたしは心静かに観終わることができました。

なお、この作品、日本版のDVDが未発売らしくて、VHSを借りて観るしかないのが残念。山田太一曰く「何度でも観られる」とは、確かにいえるかな。

なお、「三人姉妹」は「ワーニャ伯父さん」ほど面白く読めなかったんですが、余貴美子、宮沢りえ、蒼井優出演、ケラ演出の舞台は観てみたかったですね~。DVDになっているのかな?


42丁目のワーニャ【字幕版】 [VHS]
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ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


Vanya on 42nd Street (1994) /42丁目のワーニャ [Import] [DVD]
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かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)
チェーホフ
新潮社
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