前々から、「大人になって見るといいよ」っていわれていたアニメ「母をたずねて三千里」。正直なところ、子どもの頃はあまり好きではなかったのですが、高畑勲監督への関心から、今回改めて全編を鑑賞。で、驚きました!これは、大傑作だったんですね。やっぱり、日本のアニメは世界に誇れるな!というわけで感想です。
演出・高畑勲、場面設定・宮崎駿というゴールデンコンビ最後の作品として知られるこのアニメ。とにかく、非常に練られた作品ですよ。ちょっと、ノートっぽく感想を列挙していきますが・・・。
① 全編を通して感じるのですが、これはイタリアのネオレアリズモの影響を強く受けている作品です。
(注:「ネオレアリズモ」=戦後イタリアのリアリズムを基調とした映画の流れ。日本同様、敗戦国であるイタリアが舞台になっているため、貧困がテーマになっているものが多い。「自転車泥棒」「靴みがき」「戦火のかなた」など)
大人の社会の矛盾が子供の生活に影響を与えるという苦みのある話の構造は、たんなる子供向け番組の枠を超えてますね。つまり、監督の志が非常に高いってことか・・・。
いくつか例を挙げれば、19世紀後半の産業革命、貧困問題、移民問題、差別、医療問題などが、子供向けのわかりやすいストーリーの中に見事に織り込まれていて、ディテールの豊かさに唸らされます。これは勉強熱心な高畑監督の資質によるものなのでしょうねぇ~。
② この作品のストーリー流れ(母をたずねる旅)を簡単にフローチャートにすると、
< イタリアのジェノバ(出発点) → 大西洋の船旅 → アルゼンチン国内 >
ということになるのですが、まず、イタリア・ジェノバの港町と下町の様子の作画がほんとうに素晴らしいです。
わたしはジェノバには行ったことがないのだけど、ナポリは行ったことがあって、下町っていまでもあんな感じでしたよ。
しかも、今でこそ、イタリア旅行も珍しくはないですが、あの当時町並みの細部まで取材し場面設定を行った宮崎駿のセンスは、後年の「ラピュタ」や「ハウル」に出てくる町並みに通じるんじゃないでしょうか?
③ 19世紀イタリアの南米移民史って、ちょっと考えさせられました。この映画では、南米アルゼンチンへ主人公の少年マルコの母親が出稼ぎに行くのですが、アルゼンチンとヨーロッパの関係って、案外近いんじゃないですかね。
クラシックでも、アルゼンチン出身の世界的なピアニスト・マルタ・アルゲリッチや、子供時代にアルゼンチンに亡命していた指揮者のカルロス・クライバーなど、ヨーロッパ文化に南米ラテン系の熱気を持ち込んだ演奏家がいますよね。
それに、アマゾンの奥地にオペラハウスを建設しようとした男の話『フィッツカラルド』なんていう映画もあったし・・・。
・『フィツカラルド』 ウェルナー・ヘルツォーク監督
というわけで、南米とヨーロッパの近しい関係というのも再考させられたなあ~。(スペイン語圏というのは、言語的にもヨーロッパに近づきやすいってことか・・・。)
④このアニメ全般にそうですが、深い映画史的な教養というものを感じるんですよね。
ジェノバの下町の物語には、ソフィア・ローレン主演映画のノリがあるし、船旅のくだりにはジョン・フォードの『果てなき船路』あたりのイメージがある。そして、アルゼンチン国内での旅芸人との旅程は、まさに『道』とか『旅芸人の記録』って感じ・・・。
特に、「芸人への差別」みたいな苦い描写すらもあったりして、子供向けアニメだからといって、なかなか一筋縄には行きませんよ。
ただ、一応断っておかなくてはいけないのは、このアニメはたんなる洋画の焼き直しにはなっていないという点。
高畑監督が参考にしたという『ナポリの饗宴』という映画と比べるとよくわかるのですが、あくまでこのアニメは日本人の感性にあったストーリー展開や情緒を使っていて、まさに日本のクリエイターのオリジナル作品になっているんですよね。
まあ、このあたり、高畑演出の冴えってっことなんでしょうが・・・。
⑤この作品全般にわたる特徴のひとつに、勧善懲悪ものになっていないということがあります。
わかりやすくいえば、悪人(とみえる)ひとにも事情があるという描き方がされているんですよ。
主人公のマルコにとって不都合なことをする大人たちにも社会的制約から受ける理屈があるわけで、極悪人という描き方はけしてされない。
わたしがいちばん感動した場面は、バイアブランカ駅でのメレッリ叔父さんとマルコの別れのシーン。メレッリは、自分の素性と自分が炭鉱に身を売ったお金でマルコの旅費の工面をしたことを、マルコに隠している。この苦い別れのシーンの演出にはわたしは唸らされたなあ~。メレッリはマルコの母親を散々裏切っておきながら、そのことを後悔している人物なんですよね。
こんな苦い演出って、今日日大人向けのドラマでも見やあしませんよ。それも、子供向けに作られたアニメのなかで、やっているんですからね~。
わたしはメレッリ叔父さんの虚ろな目が忘れられないなあ~。
⑥とはいえ、このアニメのストーリーの横糸には、マルコ少年と旅芸人の少女フィオリーナの恋ともいえない関係があって、何度かある別れのシーンは胸がキュンとしますね。フィオリーナのおとなしい感じは日本人好みなんじゃないかな?(本当のイタリア娘ならもっと積極的?)
で、この二人の関係の続きが、宮崎駿監督の『未来少年コナン』に繋がっていくって感じがわたしはします。
⑦全52話。DVDにして13枚。わたしは夢中になって10日弱くらいで観てしまいましたが、マルコと一緒に長い旅を終えた心境です。
この作品は、海外一人旅で知らない街に行ったときの心細い心境をよく表現していて、旅行好きの大人にも楽しめるんじゃあないかしら!
というわけで、つまんないクイズ番組なんか見るくらいなら、このアニメとともにヴァーチャルな旅を楽しんだ方がよいですよ!
因みに、いまNHK-BSでたまたま放送してるんですよね~。
強力推薦!わたしも子供がいたら絶対見せます!(いまはいませんけど。)
演出・高畑勲、場面設定・宮崎駿というゴールデンコンビ最後の作品として知られるこのアニメ。とにかく、非常に練られた作品ですよ。ちょっと、ノートっぽく感想を列挙していきますが・・・。
① 全編を通して感じるのですが、これはイタリアのネオレアリズモの影響を強く受けている作品です。
(注:「ネオレアリズモ」=戦後イタリアのリアリズムを基調とした映画の流れ。日本同様、敗戦国であるイタリアが舞台になっているため、貧困がテーマになっているものが多い。「自転車泥棒」「靴みがき」「戦火のかなた」など)
大人の社会の矛盾が子供の生活に影響を与えるという苦みのある話の構造は、たんなる子供向け番組の枠を超えてますね。つまり、監督の志が非常に高いってことか・・・。
いくつか例を挙げれば、19世紀後半の産業革命、貧困問題、移民問題、差別、医療問題などが、子供向けのわかりやすいストーリーの中に見事に織り込まれていて、ディテールの豊かさに唸らされます。これは勉強熱心な高畑監督の資質によるものなのでしょうねぇ~。
② この作品のストーリー流れ(母をたずねる旅)を簡単にフローチャートにすると、
< イタリアのジェノバ(出発点) → 大西洋の船旅 → アルゼンチン国内 >
ということになるのですが、まず、イタリア・ジェノバの港町と下町の様子の作画がほんとうに素晴らしいです。
わたしはジェノバには行ったことがないのだけど、ナポリは行ったことがあって、下町っていまでもあんな感じでしたよ。
しかも、今でこそ、イタリア旅行も珍しくはないですが、あの当時町並みの細部まで取材し場面設定を行った宮崎駿のセンスは、後年の「ラピュタ」や「ハウル」に出てくる町並みに通じるんじゃないでしょうか?
③ 19世紀イタリアの南米移民史って、ちょっと考えさせられました。この映画では、南米アルゼンチンへ主人公の少年マルコの母親が出稼ぎに行くのですが、アルゼンチンとヨーロッパの関係って、案外近いんじゃないですかね。
クラシックでも、アルゼンチン出身の世界的なピアニスト・マルタ・アルゲリッチや、子供時代にアルゼンチンに亡命していた指揮者のカルロス・クライバーなど、ヨーロッパ文化に南米ラテン系の熱気を持ち込んだ演奏家がいますよね。
それに、アマゾンの奥地にオペラハウスを建設しようとした男の話『フィッツカラルド』なんていう映画もあったし・・・。
・『フィツカラルド』 ウェルナー・ヘルツォーク監督
というわけで、南米とヨーロッパの近しい関係というのも再考させられたなあ~。(スペイン語圏というのは、言語的にもヨーロッパに近づきやすいってことか・・・。)
④このアニメ全般にそうですが、深い映画史的な教養というものを感じるんですよね。
ジェノバの下町の物語には、ソフィア・ローレン主演映画のノリがあるし、船旅のくだりにはジョン・フォードの『果てなき船路』あたりのイメージがある。そして、アルゼンチン国内での旅芸人との旅程は、まさに『道』とか『旅芸人の記録』って感じ・・・。
特に、「芸人への差別」みたいな苦い描写すらもあったりして、子供向けアニメだからといって、なかなか一筋縄には行きませんよ。
ただ、一応断っておかなくてはいけないのは、このアニメはたんなる洋画の焼き直しにはなっていないという点。
高畑監督が参考にしたという『ナポリの饗宴』という映画と比べるとよくわかるのですが、あくまでこのアニメは日本人の感性にあったストーリー展開や情緒を使っていて、まさに日本のクリエイターのオリジナル作品になっているんですよね。
まあ、このあたり、高畑演出の冴えってっことなんでしょうが・・・。
⑤この作品全般にわたる特徴のひとつに、勧善懲悪ものになっていないということがあります。
わかりやすくいえば、悪人(とみえる)ひとにも事情があるという描き方がされているんですよ。
主人公のマルコにとって不都合なことをする大人たちにも社会的制約から受ける理屈があるわけで、極悪人という描き方はけしてされない。
わたしがいちばん感動した場面は、バイアブランカ駅でのメレッリ叔父さんとマルコの別れのシーン。メレッリは、自分の素性と自分が炭鉱に身を売ったお金でマルコの旅費の工面をしたことを、マルコに隠している。この苦い別れのシーンの演出にはわたしは唸らされたなあ~。メレッリはマルコの母親を散々裏切っておきながら、そのことを後悔している人物なんですよね。
こんな苦い演出って、今日日大人向けのドラマでも見やあしませんよ。それも、子供向けに作られたアニメのなかで、やっているんですからね~。
わたしはメレッリ叔父さんの虚ろな目が忘れられないなあ~。
⑥とはいえ、このアニメのストーリーの横糸には、マルコ少年と旅芸人の少女フィオリーナの恋ともいえない関係があって、何度かある別れのシーンは胸がキュンとしますね。フィオリーナのおとなしい感じは日本人好みなんじゃないかな?(本当のイタリア娘ならもっと積極的?)
で、この二人の関係の続きが、宮崎駿監督の『未来少年コナン』に繋がっていくって感じがわたしはします。
⑦全52話。DVDにして13枚。わたしは夢中になって10日弱くらいで観てしまいましたが、マルコと一緒に長い旅を終えた心境です。
この作品は、海外一人旅で知らない街に行ったときの心細い心境をよく表現していて、旅行好きの大人にも楽しめるんじゃあないかしら!
というわけで、つまんないクイズ番組なんか見るくらいなら、このアニメとともにヴァーチャルな旅を楽しんだ方がよいですよ!
因みに、いまNHK-BSでたまたま放送してるんですよね~。
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