第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

医師は必ず診断エラーに遭遇している。 病院総合診療医としての展望

2021-02-22 00:50:53 | Harvard medical school

みなさま こんにちわ。

きょうは、複雑な過程や、あまりにも多い作業過程では、信頼性が一見高そうなものでも繰り返すことでどれほど危ういかという話です。

病院総合診療医学会は本当に楽しかったです。ああやって、役職や肩書関係なく、若い人たちが一生懸命集まってがんばっている学会は活気があってとても良いと思います。でも、診断エラーに遭遇した事がないと解答された医師の以前のアンケート結果をみて、省察をする手法や、体系的な学問としての診断エラー学はやはりなんとしてでも卒前卒後教育で広めなければいけないなぁと確信した次第です。

たとえば、先行研究からプライマリ・ケアセッティングやERセッティングなどのUncertaintyが高い領域がもっとも診断が難しくて診断エラー率3-15%(外来セッティングでは5%以下)とされています。それでも診断正答率95%って、一般の方からしたら結構高いし、信頼できる診断正答率だと感じませんでしょうか?

では仮に、その95%の診断正答率であったとしても、それを25回繰り返すと一回もエラーをしない確率は28%になります。

だいたい一日の外来初診患者を25人見ているとしたらどんなに優れた名医でも3日間に2回は診断エラーに遭遇していることになりますね。問題は、そのDiagnostic error の古典的定義 (Wrong, Missed, Delayed)を認識できる症例や環境や実力があるかどうか?多くの場合は患者さんが来院されなければ、医師は気づか(け)ないかもしれません。もちろんその中でも極端な有害事象まで発展してしまうのはそこまで多くは無いのですが、毎日毎日臨床をしていると必ず遭遇するのが普通なのです。がんばる臨床医ほど診断エラーに遭遇しまくり!!それで良いのです。


複雑にしてしまうプロセスをだれもが
間違えようがないレベルまでに単純化して、プロセスをへらす。可能であれば、正しい作業が行われる確率を器械や強制システムを導入して100%に近いレベルまで叩き上げる。そして、これは医療の質と安全の考え方で、もっとも重要な考え方です。

このブログの記事でも以前書いたように、もともと僕が好きな人情味ある教育介入という手法は、医療の質・安全の学問的には介入レベルの低い、効果のとても弱い介入になります(短期的に特に)。いくら熱心な教育を行い情報提供を繰り返し行ったとしても、本当に安全な医療の提供の実現は難しいことがわかります。

例えば年間36000人の初診外来があればその数だけ、有害事象は必ず発生しますし、手術の現場でも、救急外来の現場でも、なんらかのエラーを避けることは不可能です。

なので間違えようがない、エラーが起きようがないシステムレベルでの変革を迅速に取り入れる事がもっとも有効であり、それを医療施設というフィールドで実施できるリーダーシップをもった人材が本気で必要ということになります。かざりではなく、全体のためにアクションを取れる人を育成する。

患者さんが来院して、無事に治療がうまくいって自宅に帰宅するまで、文字通り無数の数え切れないプロセスがあります。

無数のプロセスの中には必ずどこかには改善しなければならない余地がある。医師は多くの場合、自分の専門領域だったり、自分の医局・診療部だったり、自分の病棟などだけに視野と視点をおいていることが多いので、このように患者中心のケアを大事にしながら病院全体を俯瞰して、問題点を診断して治療介入が実施できる臨床医が必要になってきます。そうです、そこが病院総合診療医にとって高い親和性を発揮する部門なのだろうと体感しています。

海外の先行研究や、ハーバード大学のQI&Safety部門を見ていると多くがホスピタリストやプライマリ・ケア医だったりします(時々横断的な視野をもつ麻酔医だったりも歴史的におられます) 

最近悩んでいましたが、何故自分は激烈興味多動フルスロットで、視点が登っていく垂直キャリア思考ではなく、水平型であり(良くも悪くも)、突拍子もないように不連続にみえる分野にワザワザ過剰なストレスを抱えこみに乗り込んでは次から次へと転戦していっているのか?

省察してみると、ガチンコの叩き上げ臨床医から、熱帯地方の感染症とアジアの臨床教育に感銘をうけて勉強した後に、日本の大学病院での教育・臨床・研究実践にシフトして、今はシステムを変えることに興味をもっている。

結局は、患者さん中心の良いケアを提供するためだったり、安全性を確保するために、どうしても実施しなければならないシステムの変革が現場には山程多数あって、そいういう人材をガスガス育成することが重要だからなのだと薄々気づいていたからなのではないかと考えています。

悔しいですが、悩みながら、学生時代から総合診療とか専門性ないからやめておけと数多の指導をうけながら、アイデンティティーは一切ブレず、アダプタビリティーでぬらりひょんとかわしながら生きてきた、多分根っからのジェネラリストなのだと思います。

 

 



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