編集長の見解と私の意見が食い違い、説得と説明と疑問と反論。その繰り返しで、へとへとになって帰ってきた。実にささいな・・トリミングの差・・これで・・ああ、まあ・・もういいや。とにかく、私が一歩もゆずらず、印刷所にGOしたわけだ・・し・・あれ?私の部屋・・ブラインドが開いてる?と、いうことは・・・・・。また、あいつだ。大急ぎで部屋の鍵・・・。いや、待てよ・・・。ドアノブをまわしてみる。案の定・・・。ド . . . 本文を読む
「うわ!!」驚きたいのはこっちだ。「うわ・・そんな恰好してても、色気ひとつねえ!!驚嘆すべき事実だ」ご挨拶だねえ・・・。「あんた・・頼むから、シャワーくらいあびてよ」「うん・・今から行く・・」はあ・・・って大きなため息をもらしてやった。とたん、「どうしたん?なんかあった?」お見事。このずうずうしさととふてぶてしさ・・。「別に」「あ、そう?」って、そのまま、シャワーあびにいってしまった。心配する気さ . . . 本文を読む
「チサト・・」リビングに行ったあいつが呼ぶ。「なによ」「こっち来て、のまないか?」は?あんた、まだ・・・・。キチンのワインラックをながめる。大丈夫、減ってない。と、いうことは、また、取材旅行のお土産のウィスキーかなんか?リビングにいくと、奴はリュックから、ウィスキー瓶をひっぱりだしてきていた。お?バルモア?グラスをとりにいくと、早速、ストレートでいただく。旨い物に弱いのはいいことかもしれない。こい . . . 本文を読む
あたしの科白に奴が返した言葉にあたしは、あきれた。「俺、アフリカにいってこようと思う・・」「なに?難民キャンプにでもいこうって?」図星だったんだろう。口の中でごにょごにょ、なにかいってた。「で、人道的テーマで撮ってみるって?」「う・・うん」切羽詰った天才はわらをも掴む思いなんだろう。それも、こいつにとっては、いい経験になるかもしれない。「で、それで、写真がすべてを語るものを撮れるわけ?」止めてやめ . . . 本文を読む
朝、目覚めると、即、幼稚園に出向。奴はいつ、出かけるのだろうかとふと思う。有給休暇が2週間ちかくあるだろう。休日をはさむと、20日ちかい休みが取れる。海外への取材旅行はもっぱらあいつが担当してるから、あたしは、めったに海外なぞでかけられない。場合によっちゃあ、あいつは、そのまま、次の拠点にむかうときがあるから、2~3ヶ月かえってこないなんてこともある。しかし、休みもらえるんだろ・・?待てよ。あいつ . . . 本文を読む
そして、「編集長」昨日のごりおしがあるから、あたしもちょっと、低姿勢口調。「あの?幼稚園の園長先生がーやっぱり、貴女にお願いしてよかったーと、いってたんですけど・・」半分も聞かないうちに編集長はご機嫌な顔になる。「そりゃ、いいことじゃないか。うん、がんばってくれ」じゃなくて・・。「やっぱりって・・なんか、誰かがあたしを薦めてくれたっていうことじゃないのかなって」「ああ・・。それ、慎吾だ」奴?奴がな . . . 本文を読む
いつまでも、エアーズロックを眺めていても仕方が無い。午後から、ビストロのランチを撮影しにいくことになっていたから、事前に、ランチをたべておこうと思った。ビストロの店内のムードもつかんでおきたかったし、やはり、客層をみておくのが、一番良い。さりげない配慮があると、客層がかわる。窓際の鉢植えにオリーブの実がなっているイタリアンレストランは中年層の女性の嗜好をくすぐるのだろうか?落ち着いたタイプの客層が . . . 本文を読む
次の日、朝起きると、早速、幼稚園に飛んでいった。3歳児なるものが、いかに、登園をぐずるものなのか、たしかめておきたかった。あわよくば、慎吾のように奇跡がころがってくるかもしれないというたなぼたも期待していた。駐車場に車をとめて、幼稚園の門の前まであるいていくと、徒歩通園の子供がちらりほらりと門をくぐっていく。保育士は、門の脇に並んで声をかけていたが、教室がはじまるまでの間、遊具で遊ぼうと一目散の子 . . . 本文を読む
「お前、自分の事になると、鈍すぎるんだよ。慎吾はお前に惚れてるんだよ」「・・・・・・・・」私の口からまったく、言葉がでてこない。奴が私に惚れてる?まあ、言うに事欠いて、よくも・・・・・ん?編集長、やけに真顔すぎた・・・。「それな、慎吾のプロポーズだったんだよ。お前、見事に肩すかしをくらわせて、鼻もひっかけない、眼中にもない、って、態度とったんだろ?それでか・・。それで、慎吾は休暇とったんだな・・」 . . . 本文を読む
奴が、難民キャンプに旅発ってから、5日がすぎていた。2週間で、思う写真が撮れるものだろうか?って、思う。たった、10日ほどの滞在で、難民キャンプのなにがわかるというのだろう?ただの異邦人でしかない一個のカメラマンが、表面上の出来事をとらえるだけにすぎなくなるだろう。だいたい、目的というか、ポリシーというか、テーマというか。そんな目線をもたないってのは、棚からぼた餅がおちてきたら、そこで、ぼた餅を食 . . . 本文を読む
そのまま、あたしの久しぶりの休日はなにごともなく、平穏無事におわる筈だった。ソファーテーブルの端においた、携帯のコールにでなければ。「もし?」もちろん、着信音でその相手が編集長だってわかってる。着信の音楽はご丁寧に「天国と地獄」にしている。携帯にまで、かかってくる用件は、往々にして地獄沙汰であるため、精一杯の皮肉ではあるが、まかり間違っても当の編集長がすぐ傍に居る時に携帯にかけてくるなんてことはな . . . 本文を読む
手短に看護士に説明すると、彼女はにこりと笑ってうなづいた。私はテントをぬけだすと、慎吾の元にはしっていった。呼びかける私の姿に軽く手をふってみせる慎吾にかすかな疑問を感じた。なんで、驚かないんだ?看護士も妙ににこやかだったし?慎吾の前につったつと、途端に掛けられた言葉が疑問をさらに肯定した。「やあ、来たな」それ?私が来るのを判っていた?「なんで?」私の疑問に慎吾は呆れた顔を見せた。「なんで、お前が . . . 本文を読む
小さなため息がまじり、慎吾はポケットの煙草をひっぱりだす。「そろそろ、底をつく。貴重品だ」苦笑でため息をかみころして、煙草に火をつける。「俺な・・。元々、行き詰まりを感じたのは、お前のせいなんだよな」意外な告白に、私もまた煙草をとりだした。慎吾の様子があまりにも、殊勝にみえた。いつも自信たっぷりの慎吾がやけにはかなげにみえ、私もしらふで話をきけそうになかったが、さすがに酒はない。酒の代わりの煙草で . . . 本文を読む
日本と違って、湿度が低く、木陰や建物の中にはいってしまえば、暑さをかんじないし、少々、身体を動かしても汗が落ちるなんて事が無い。暑いのは、日差しでしかないわけで、あたしはテントの中で横になって、眠っても充分睡眠がとれた。取材旅行は元々、嫌いじゃないし、どこでも、寝れるという図太さがなけりゃ、カメラマンなんて、職業はやっていけやしない。そんな、あたしだったから、目がさめたのも、随分、陽が登っていた頃 . . . 本文を読む
慌てふためいているのは私だけのようで、テントの中の女性達は医師たちの様子で、手術室を使えないことは元より、看護士の助産も無理だと判断していたようだった。テントの外にでて、干されている看護服をみつけると、さいわい、乾いていて、私はとりあえずそれをはおることにした。次は・・。まず、手指の消毒だろう・・と、手を洗い、応急処置テントにはいって、消毒アルコールを探した。
アルコールをさがしながら、ふと、迷 . . . 本文を読む