おかあさんと赤ん坊を休ませてあげる個室なんていう上等なものはなく、
元居たテントに二人を運び入れた。
狭いテントの片隅を二人の居場所にしてあげようと
女たちは場所をつくっていた。
子供たちは赤ん坊をみたくてしかたがない。
そばにいかないのよ、静かにしなきゃだめよと母親に叱られて、
くるくるの瞳だけが赤ん坊に注がれている。
あたしも同じ。
おっぱいをのみながら、ねむってしまう赤ん坊の . . . 本文を読む
夕食はビーンズスープ。
くばられた一杯のスープは、悲しいくらい。
豆がどこにあるのか、さがしまわらなきゃいけない。
それでも、わずかしかないのに、
女たちは、わずかの豆を掬ってお母さんの器に入れてあげてる。
おかちゃんのおっぱいのために、少しでも多くたべさせてあげたいと
みんな、あたりまえのようにスプーンにのせた豆をおかあさんにもっていってあげてた。
あたしといったら、これまた、涙が . . . 本文を読む
次の日、さすがのあたしもぐっすりねむりこけてるわけにはいかない。
どうこう考えてみたって、
あたしはプロのカメラマンのはず・・なんだから。
依頼された仕事はやりこなさなきゃならない。
でも、こんな調子では妥協の産物になるかもしれないな・・と
ひとりごとをつぶやきながら
テントの外に出た。
タオルをひっかけて蛇口に口をつけてる慎吾がいた。
あたしもそこに用事がある。
ちょっと、昨日 . . . 本文を読む
☆
テントに戻って、カメラを引っ張り出しながら
慎吾は、何をとったんだろうと想う。
妙にすっきりした顔が、
思い出されて
怪我人とか?そんな悲惨な状態を撮ったんじゃない。と、思えてくる。
なにか、そんな中でふと、心やすまるような
う~~ん たとえば、看護師だな。
あのお姉さん・・ぴしっときついけど
逆に言えば、本心でぶつかってゆくからだって考えられる。
甘えを許さないけど、
. . . 本文を読む
次の日も、朝から、シャッターをおとしまくっているあたしに
慎吾がきがついた。
「おう」
まったく、もっと、なにか、しゃべれないんだろうか?
「ああ?もう出発?」
「うん」
慎吾が、なんだか心配そうな顔つきをみせた。
奴もカメラマンだ。
あたしの状態に感ずいたのかもしれない。
「ごめんな。チサト」
突如、あやまられてしまうと、馬鹿なりにいろいろ考える。
それは、どういう意味だろ . . . 本文を読む
なんで、こんなに、それも、突如、スランプになってしまったのか、
自分でもわからない。
ただ、ひとつの救いはスランプのまま、これ以上悪あがきの写真をとらなくて良くなったことだろう。
帰国命令がでたと看護師に伝えると、
「あら?」とびっくりしてた。
されは、彼女もまた、私が写真をとりきれてないことを察していたからに違いない。
「う~~ん。そうかあ・・」
と、彼女はうなづくしかない。
ま . . . 本文を読む
想ったけど、ちょっと、考えてる。
ああいった手前、
こっちから、「見せろ」とはいえない。
奴に頭を下げるのも癪だし・・・
・・・見せてくださいというべきよ・・・
ちいちゃんとおかあさんの写真がそういったきがした。
一生懸命を見るには
当たり前の態度かもしれない。
それで、あたしは、飛行機の中で言い慣れない言葉を練習することにした。
ーお願いがあるんですけど、慎吾さ . . . 本文を読む
検閲をくぐりぬけて、やっと、日本の土をふみしめたのは
もう午後4時をすぎていた。
これは、もうまっすぐ家にかえることにしようと
編集長に電話をいれておいた。
電車にゆられて、駅をでたら
さすがに、暗くなってる。
これは、タクシーで帰るしかないなと乗車場にならぶと
看護師の言葉がよみがえってくる。
ータクシーのドライバーだって、資格がどうのこうのいってたかしらー
そうそう。
その . . . 本文を読む
確かに、あたしには映せない写真ではある。
第一、あたしがあたしを映すことは不可能だ。
だけど、もちろん、そういう意味じゃない。
まず、一番にあげられるのは、
被写体への愛情。
あたしが、いろんなことを知っている当事者だから
バックグラウンドにしきつめられているものが判っているから
そう感じるというわけじゃない。
しいて言えば、あの看護師が最後に写真を撮ってくれたのに似ている。
プ . . . 本文を読む
翌日になって・・
あたしは迷った。
「慎吾・・ああ、あの一緒に出社するのは・・」
ちょっと、やばくない?
「いいさ。きにしなくて」
慎吾は気にならないらしい。
そうだな。途中で顔あわせたってことにしておけばいいか・・と
たかをくくると二人で会社に向かった。
編集長は帰社したあたしにご満悦って、呈ででむかえてくれて
編集長室にあたしをよびつけた。
「納得しただろ? . . . 本文を読む