憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ー悪童丸ー   1   白蛇抄第2話

2022-12-04 13:49:05 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
政勝が城の門を潜ると、白河澄明(とうみょう)が居た。政勝に気が付くと、澄明はずううっと側に寄って来た。「妖かしの者なぞに情をかけて・・・かのと様と百日は交わりをなさらぬように」と、声を潜めた。政勝は内心澄明を疎んじている。陰陽師である事も一つであったが、かのととの婚礼の席で見せた澄明の目付き。かのとに寄せる想いが尋常のもので無い事が手に取る様に伝わってきた。故に、更に気に入らないのである。澄明に答 . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   2  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:48:35 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
主膳の沙汰を待って、報告をせねばならない。『しかし、何故、澄明が城へ?』訝気な陰陽師の存在などを、朝から見掛けるのも妙な事だった。詰め所に入り、どかりと座ると、櫻井が妙な顔つきで政勝を見ている。「如何した?浮かぬ顔だの?」「政勝殿・・」「いかがいたした?」「それが・・・」言い渋るが、櫻井の顔付きは、とても己が胸に留め置けそうもないと白状している。「話してしまえ。言わざるは、腹ふくるる業なり。古から . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   3  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:48:18 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
「澄明様が?」櫻井の顔に微かな安堵が浮かんだ。澄明が動いたとなるなら間違いなく海老名は事の大事を殿に告げている。解決への糸口が開かれた事に櫻井はほっと胸を撫で下ろす様であった。「うむ、先程すれ違った。しかし、男のくせに妙になよけた感じがしてどうも、いけ好かない」「見た目はともかく陰陽の術では古の安部清明の右に出るかという程らしいです」「某は好かん。法術、加持、祈祷の類はあくまでも自力ではない。剣あ . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   4  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:48:01 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
主膳に御目見えする様に言い伝えると政勝の来るのを待ち受けるようにして前を歩き出した。 政勝が主膳の前に額ずくと「政勝、苦労であった。先ほど早馬がきて委任状の一件、万事承知仕りましたの花印だった。大儀であったの」労をねぎらう言葉を掛けた主膳の声が、止まると静かな調子で「ところで、政勝。先ほど、白河澄明との話の中でな・・・うむ」主膳は、そこまで言うとまたも押し黙った。やがて、意を決すると「実はの、勢 . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   5  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:47:42 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
澄明が帰るのを見送るとかのとは膳を下げ、かた付けを始めだした。軽い酔いに政勝はごろりとその辺りに寝転がりながらかのとを見ていた。かぞえの十八。政勝と七つ、歳が離れている、気端がよく効いて、手先も器用だが、なによりも性がいい。明るい日溜りに居るように温かく和やかな女で、芯に強いものが見え隠れするのだが硬い感じを与えず、おとなしく政勝を慕ってくる。「かのと。澄明とは乳のと兄弟だったのか?」「あ、はい」 . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   6  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:47:25 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
城へ入ると本丸の前の広い庭に緋毛氈が敷き詰められ男衆は、かがり火を焚く為の薪を運び、要所要所に要具を立てこんでいた。女たちは蔵から取り出した膳を柔らかな布で拭き込んでは台所に運び込んでいる。器も加賀の金箔をあしらった漆黒の上等な品である。それを、横目で眺めながら政勝は庭を突っ切ると海老名と何か話しこんでいる澄明の元に向かった。政勝に気がつくと澄明の方も歩み寄ってきた。「思ったとおりです」澄明はくぐ . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   7  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:47:08 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
宴の席からそっと抜け出て自室に戻り臥せりこむ海老名の元に勢姫がやってきた。「気分がすぐれませぬので」そう、言い分けをしながら海老名が起き上がると勢姫が詰め寄った。「何ゆえ、父上に話しやった。父上が勢を見る目が違いおる。おまけに澄明までよんで」「姫様。なにとぞ、御許しを。海老名も姫様の身を案ずるが故。悪童丸様の事はなにも話しておりませぬ。されど、姫」「言わぬでよい」「姫。なりませぬ。成ってはならない . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   8  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:46:51 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
十日を過ぐる頃。使者が来た。思った通り三条からの勢姫との婚儀の申込みであった。主膳の腹は当に定まっていた。このまま勢姫を鬼の陵辱に晒しておくぐらいなら、三条の元に嫁がせた方が良いに決っている。婚姻の因を結べば悪童丸ももう、勢姫の元に現れる事は叶わなくなる。揺るがせない産土神の神前での契りを立てれば守護を得られる。主膳は惟、一つの気懸りを振り払うと墨書をしたため始めた。若し、勢姫が悪童丸の子を孕んで . . . 本文を読む

ー悪童丸ー   9  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:46:21 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
「何を考えおる」「政勝殿・・・」「厭な相手におうたような顔をするな」「あ、いえ」政勝の問題もある。主膳の為にも、なんとしても鬼を討ちたいのが、この政勝である。が、この半月、手のうちようがなくてこれといった事一つも出来ずにいるのに痺れを切らし、「叩ききる」凄まじい形相でいうのを説き伏せた。叩ききるのも容易な事ではないが、政勝の腕なら澄明が先んじて縁者の印を唱えればその首を刎ねられる。その後は、胴と繋 . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  10  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:46:01 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
さすがに鬼もその日は現れなかった。八日を過ぎた。「いつまで、こうしている?」「弥生ひいなの祭りまで。が、このまま、悪童丸が現れないわけがありませぬ」「元より、承知の上じゃ」「討っては成りませぬぞ、追い払うだけ、心に念じ下さりませ」「う、」「ご返事を?」「あい判った」 三条の姿と見破られておれば昼最中には、現れぬという澄明の読みを信じて、昼になると、うつらうつらと眠り、この八日の間、昼と夜が逆転し . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  11  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:45:43 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
衣居の麓から馬で上がれる所まで上がると二人は馬を降りた。帰りは姫を連れ返る手筈でいる。政勝は頭陀袋に鞍や鐙をひと揃え押しこんで来ている。それを木に括り付けると馬も繋いだ。「判るか?」政勝が悪童丸の棲家を尋ねると澄明が先に立って歩き出した。「しかし、機敏な奴だ」澄明は黙って聞いている。「しかし、思うたほど、背いは高くなかったの。身体も小振りに思える」「悪童丸の父の光来童子もそう、大きくない鬼ときいて . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  12  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:45:24 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
「どういうことだ!」「かくなる上は、隠し立ても相成りませぬな。御亡くなりになられた勢姫の母君をご存知ですね?」「うむ 無残な死に様 よう覚えておる」「かなえ様は、主膳殿の元に嫁し越す前より先にご懐妊あそばしておりました」「馬鹿な!めったな事を申すでないぞ」「ならば、もう、それ以上のことを御ききなさいますな」「・・・」「どう、なされます?」「聞こう」「海老名は、かなえ様ご幼少の砌からお側に仕え、嫁し . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  13  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:45:10 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
百日の間、澄明は明け六つ、暮れ六つの二度、祭壇のまえに現われて縁者の印を結ぶと護摩を炊いた。榊を四方に飾ると、榊を御神酒に浸し込め、悪童丸の陽根に直垂さすと、口の中で何か唱え出していた。九十九日は何事もおこらなかった。百日めの夜。政勝はかのとを相手に酒を飲んでいた。かのとはむろん酒は飲まない。飲める口でもなかったが仮に飲めたとしても腹の子を慮って口をつけることはないのである。月の物が途絶えると政勝 . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  14  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:44:55 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
去って行く、勢姫の姿を目で追いきると政勝は無念の声を上げ始めた。「おぬし、こうなる事が判っておった筈だ。なのに、何ゆえに」蘇生された様を政勝に見届けさせると、澄明は政勝にかけられた因を解いた。とたん、政勝が澄明にせめ寄った。あの有様からも澄明がこの日、縁者の印を切らなかったのが政勝にも判った。「あれでは、貴様が先ほど申していた。主膳殿の因縁、繰返すだけではないか」「因縁は避けられませぬ。因縁からの . . . 本文を読む

ー悪童丸ー  15  白蛇抄第2話

2022-12-04 13:44:36 | ー悪童丸ー   白蛇抄第2話
軽い溜息をつくと澄明は足駄をはんだ。外はまだ、暗い。「いくか?」父である正眼が声をかけた。「父上」「苦労であったの。主膳殿にもあかせず。しかし、因縁を通り越そうとは、また、思い切った事を」「いえ、どうなるかは」「悪童丸の子を孕み易い日を選んで教えたのも、因を解いておいたのもお前の采配であろうが?」「はい。姫が鬼であらば姫と三条の子もやはり、鬼。さすれば、かなえ様の父の様に、また、主膳殿のように三条 . . . 本文を読む