憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

哀れ 奴奈宣破姫・18

2022-12-05 22:54:17 | 奴奈宣破姫

ただ、たんによばれなかったからでてこぬだけなのか。

ーいや、それはない。ー

虜囚とまではいかぬかもしれぬが、
囚われの身にはまちがいない。
で、あらば動き回る自由を与えたアマテラスにせめても礼儀があろう。
きこえぬふりなどでやりすごすわけがない。
父、おおなもちの死に、我をうしのうてしもうたか。

が、ことしろぬしがそこらを自由にうごきまわっているといって
みほすすみにも自由をゆるされているとはかぎらない。

自失のはてふせこんでしまったか、
あるいは、奥から一歩もでることがかなわぬ
縄網にからめとられているか?
いや・・。
縄にかけなければならないほどのわけがあるのなら、
アマテラスは・・・。
いやな考えがわいてくる。

ことしろぬしに自由を与えている。
このにぎはやひには、怒りに血をのぼらすこともせず
おかげでまだ生きている。
なんらかの基準で生かす殺すをきめ、
生かすほうを、囚うことがないばかりか、八分がた自由をあたえている。
このにぎはやひに対してもそうだ。
こちらの願いをききとどけ、墓所にまで同道してあないしている。

ーと、なると・・ー
やはり、みほすすみはふせこんでしまったか?
そうであってほしいと願いながら
社の中にあがりこんでみたが
みほすすみの気配をかんじられない。

奥座敷に寝入っているのかもしれない。

部屋の真ん中、囲炉裏にくべられた炭がぱちとはねた。

囲炉裏につるされた鍋から
湯気があがりはじめ、炭はいっそういこり、音をたててはぜた。

部屋の右手奥。くどがあるのか、ことしろぬしが椀と木杓子を
盆にのせてあゆんできた。

「ことしろ・・」
尋ねてみたいことは山ほどあったが、
うかつにしゃべればにぎはやひでなく
ことしろぬしの胴と首が二つになるやもしれぬ。

「みほすすみは・・正気でおるのか」
これならばよかろうと
やっとの思いで口にだしてみたが
ことしろぬしはきこえぬかのように
鍋の中から干飯の粥を掬うと
「このようなものしかございませぬが」
と、二人の前に椀を押し出した。

そのまま立ち去ることしろぬしのその顔をくいいるようにみつめるにぎはやひになる。

ことしろぬしはふとたちどまってみせると
ひどく遠いまなざしをして、その後瞳をふせた。
伏せたままゆっくりと歩みだすとにぎはやひには
もう、ことしろぬしの背しかみえなくなった。

ーそうかー

悟った事実が、胸をゆする。
あまりにもいたいけなさすぎる。

ーそうまでして・・・-
そうまでして、そうまでして・・・・。

にぎはやひの胸に、みほすすみの母であるぬながわひめの顔がうかびあがってきていた。
翡翠を操る巫女姫はみほすすみだけでない。
まだまだ、微力な巫女でさえ、在ることをゆるさぬ。
ましてや強大な秘力をもつ巫女はなおのこと。
ぬながわひめへの布告にしたか。

夫をうばい、娘をうばい、それでも、あきたらず
ぬながわひめの命まで奪うというか。

なにもかも奪われた母と妻の悲しみが像になり、
にぎはやひにひとつの決意を結ばせていた。



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