次の日も、朝から、シャッターをおとしまくっているあたしに
慎吾がきがついた。
「おう」
まったく、もっと、なにか、しゃべれないんだろうか?
「ああ?もう出発?」
「うん」
慎吾が、なんだか心配そうな顔つきをみせた。
奴もカメラマンだ。
あたしの状態に感ずいたのかもしれない。
「ごめんな。チサト」
突如、あやまられてしまうと、馬鹿なりにいろいろ考える。
それは、どういう意味だろう?
慎吾が会心作を物にしたということが
あたしによからぬ影響をあたえたと、慎吾は想ったのだろうか?
「ごめんって、なに?」
いささか、つっけんどんになっていると自分でもわかっている。
「ん。先にあやまっておく」
はい?はい?
え?またも人をけむにまく気?
「なによ、先にあやまるって、これから、よからぬことをしようって?」
「うん」
うん、って。うん、って・・何を考えてるんだ、こいつ?
「じゃ、俺、行くから」
慎吾はテントに荷物をとりに戻って行ったし
向こうには慎吾を飛行場までおくるつもりのジープが待機してる。
見事にしりきれとんぼをつくってくれたものだと想う。
時間が無いことを、盾にして
いいほど、こっちに波風たてて・・・。
でも、そんなことに、かかわっている閑はない。
昼食の手伝いまで、目一杯、写真をとって
昼からは少し、見直してみよう。
そう決めて、写真を撮り続け
慎吾がジープに飛び乗ったのもきがつかずにいた。
そして、昼食をおえて、カメラのプレビューを覗き込もうとしたときだった。
あたしは、ここが、日本で、自分の家かと錯覚した。
ポケットから、編集長のテーマ曲「天国と地獄」が流れてきてる。
そうだ、その一発の電話が元で、今、キャンプにいるんだ。
と、錯覚をなだめすかせると
電話に出た。
その電話の内容。
「おい?チサトか?」
あんた、どこに電話してきてんのよ、と、ねじこみたくなる。
「はい?」
「おお。チサトだな。いやあ、せっかく、キャンプにいってもらったんだけどな。
もう、いいから、帰って来い」
なんじゃ、そりゃ?
行けの帰って来いのと、人をこま扱いにしてくれて・・ん?
「慎吾がな、すごい写真をとってきたんだよ。それを使うから・・」
へ?
あ、あいつ、空港から編集局のパソコンに写真データを送信したんだ・・。
あ?
やっと、慎吾の「ごめん」の意味が理解できたけど・・・。
あたしは、
編集長に「わかりました」というのが、精一杯で電話をきった。
「おい?チサト?怒ったのか?いや、おまえにかぎって」
電話口に編集長の言葉がのこったけど
じっさい、あたしは怒っている。
だしぬかれたって、気持ちと
実家に帰ってるはずの慎吾が撮れるわけのない写真なのに
そんなことさえふっとばすほどの、会心作で
おまけに、あっさり、慎吾の写真を使う?
自分の状態もまさにスランプ状態で
私もとってます。それと見比べてからどっちを使うか決めてくださいといえない状態であることも
たとえ、とっていても、見比べてみるまでもないと判断してる編集長であることが応えた。
怒りにならない怒りは、自分にむけられて
たとえようもなく、惨めだった。
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