憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白砂に落つ・・・2

2022-12-16 09:37:20 | 白砂に落つ

佐吉の処刑は正午である。
お天燈様が真上から見下ろす白日に
其の罪を清算しようというのであろう。

お千香と佐吉は仲の良い夫婦だった。
なぜ、お千香が佐吉に殺されなければ成らなかったのか。
佐吉がなぜ、お千香を殺されなければならなっかたのか。

佐吉はどんなに仕置きをされようとも、
そのわけをかたろうとしなかったという。

其の理由がわからないまま、
定次郎はお千香の残した二人の子供を
引き取った。

どんなわけがあるにせよ、
二人の子供にとって、
父親が母親を殺してしまった事実は変わらない。

定次郎にとってもそれは同じで
どんなわけがあったとて、
娘を殺された事実は変わらないのである。

それでも、なんで好いた亭主にころされねばならない。

訳を知りたいという思いがもたげてくるのを、定次郎は
かむりをふって、払いのけた。

訳を知ったとて、お千香がかえってくるわけでもない。
ましてや、
孫の父親でもある佐吉をこれ以上、憎みたくは無い。
二人の子供を引き取ったゆえに
定次郎はいっそう、佐吉のわけをしらぬほうがよいと決めていた。

子供は上の子がもうじき、三っつになる。
お千香の子供の頃を思い起こさせる
かたえくぼのできる、おなごの子である。
下の男の子はようやっと、乳離れをしはじめ、
固いものを食べれるようになってきている。
せめても、乳がいるときに
母を亡くさずにすんだ事だけがさいわいだったかもしれない。

佐吉の処刑が今日ときかされたときから、
定次郎は佐吉の最後も
自分に縁のないこととして、
常のままに過そうと決めていた。

すんだ事はもう、関係が無い。
すんだ事にこだわるまい。
こだわったとて、
お千香がかえってくるわけでもない。

定次郎がこだわるのは、
二人の孫の行く末だけでいい。

だから、かかわりのない人間の処刑になぞ、
のこのこでかけてゆくのもおかしい。

佐吉の存在を意識の奥からさえ
いなかったものにすることで、
定次郎の心の天秤がかろうじて、保たれていた。



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