明かりのついた俺の部屋をぐるりと見渡すと
貴子女史は溜め息をついた。
リビングの真ん中のテーブルの上には
手直しをかけていたオイルシールが有る。
「アンタ・・・本当に仕事人だね・・・」
取り散らかした工具一式を片付け始めた俺を貴子女史は制した。
「いいよ。ダイニングテーブルに行こう。
ヘタにさわっちゃ、後が困るでしょ?」
帰ったら直ぐにさわれるように、してあるって事は
一目瞭然のことすぎた。
ダイニングテーブルの上には、朝のコーヒーーカップが一つ残ってた。
「これだもんね。
朝もまともに食べてないんだ。
沙織ちゃん、心配してるだろう・・な」
貴子女史の言葉にあっさりと俺の鱗がなで上がる。
「心配なんかしてないさ・・」
貴子女子が呆れた顔になり
「アンタのそういう部分・・・意固地だってわかってるの?」
ビールをひっぱりだしてくると、グイッグイッと500ml缶をあおりあげ
立て続けにもう一本を飲み干したあとのいいわけ。
「流石にあたしもしらふじゃいいにくいからね・・・」
この後に俺に告げることが、やけに重ったくるしいと、いう事になる。
貴子女史の飲みっぷりに刺激され、
負けずに俺もビールをのみほしたあとに、
今更と、笑いながらグラスを持ち出してきて
貴子女史と向かい合い、本格的に飲み始めた。
安物のポテトチップスを口に運んでいた貴子女史が
「そろそろ・・・話しなさいよ」
と、確か言いたいことがあったのは
貴子女史のほうだったのに
軽い酔いが俺を冗長にさせはじめ
俺は自分の胸につっかえてる事を口に出した。
「サッキさ・・・。
沙織が好きな男の傍からはなれないっていったろ?
俺は、最初、そうかな?っておもったんだけどな・・・。
今はそうだなって思うよ」
「はい?
アンタのいうこと、よく分かんないね。
判りやすく・・・具体例ではなしてくれないかなあ?」
そうだな。俺もそうしたい・・・。
「つまり・・・。
簡単に言うと・・・沙織のそういう性分は隆介との事を
見てきた上で思ったことだろ?
だから・・・。
俺に対してはそんな沙織じゃないけど・・・。
でも、よく考えたら、沙織の想いは隆介から一時も離れてないって事で・・・
そう考えたら、確かに・・・沙織は好きな男の傍を離れない・・・あたってるよ」
俺の精一杯の暴露を
きいちゃいられないと、貴子女史はマズ、鼻でふんと笑った。
「アンタ・・・、馬鹿じゃない?
そして、あたしは自分でも吃驚するくらい賢い人間だわ。
アンタ、あたしが心配してたとおり・・・」
貴子女史はグラスに半分になったビールを又も、一気に飲み干すと
「あのね・・・。
沙織ちゃんはアンタが言うとおり、隆介を本気で愛してたと思うよ。
でもね、あの子はそこらのへらへらした女の子じゃないのよ。
いい?
あたしもアンタなんか、ほめる言葉を言いたかないけどね
隆介を本気で愛していたあの沙織ちゃんが
呆れるくらいあっさりと、アンタにのりかえたのはね、
隆介が死んだおかげでもあるけど、
アンタにぞっこん本気になったから・・・。
沙織ちゃんみたいな真面目な女の子のハートを
簡単につかんでしまう・・・あんた、もっと自分に自信をもちなさいよ」
俺が足りないだけ?
俺にただ、自信がないだけ・・・?
貴子女史の見解と
俺の沙織への鬱屈はまるっきり、180度違う。
「だいたいね・・・
そもそも、一番最初から・・・
あんた、そうやって、逃げ腰だったじゃない?」
「なんだよ、そもそも、一番最初・・って・・・」
思い当たらないことばかり、
俺の前に並びあがる。
「そうよ・・・そもそも・・・最初・・・。
アンタ・・・・
隆介より先に沙織ちゃんのことを好きになっていたじゃない」
「え?」
「え?じゃないわよ。
そうやって、自分でも判らないくらい自分の気持ちを誤魔化して、
誤魔化した自分だって事さえはぐらかして、
演じた道化を本来の自分だと信じてる。
アンタ・・・もっと、強くなってかまわない男なのに
なんで、そんなに・・・・」
きのせいか、貴子女史のまなじりに涙が浮んで見える。
「あの?俺・・・・」
いったい、何をごまかしてるっていうんだ?
「もう、うざったい!!
いい?
もう一度言うよ・・・・。
アンタ。隆介よりもっと先に沙織ちゃんをすきになっていたの」
まさか・・・。
俺が・・・隆介より先に?
「いい?言うよ」
貴子女史?
このうえ、まだ・・・なにかある?
そして・・・。繰り出された貴子女史の連発銃弾・・・。
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