憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」・・2

2022-12-15 12:50:36 | 「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」

沙織の腹がせり出してこないうちに
俺は沙織の籍をいれ、
形ばかりの結婚式を挙げた。
石川に住んでいる沙織の両親は
隆介のことをまだ、沙織からきかされていなかった。
だから、俺は沙織の腹の子のことを
逆手にとって
出来ちゃった結婚ということで、両親に有無を言わせぬ事ができた。
チームの仲間もまだ、沙織の妊娠には
気がついてなかった。
いずれ、取りざたされることがあったとしても、
どこの誰が、隆介の子供じゃないのかと俺たちに
いいにくることがあろう。
むしろ、事務所の貴子女史などに、言われたことのほうが俺には真実に近いと思う。
沙織との挙式に出席してくれるように
貴子女史につげに行ったときのことだ。
沙織と隆介の仲はそれなりに
気がつくものにはきがつかれていたことであり、
貴子女史もきがついていたものの1人だった。
俺の招待に貴子女史はずいぶん驚くだろうと
思ったが、案に相違していた。
「はあ~ん。やっぱりねえ~~」
「なんだよ?やっぱりって?」
「矢島さんの好みでしょ?
隆介とせりあう気持ちにはならなかったから、
あきらめていたというか、
沙織ちゃんの事を意識しないようにしていたか・・・」
「あ・・・ん?」
「どっちでもいいけどさ。それより、よく沙織ちゃんの気持ちをつかんだもんだねえ。
え?結構、男っぽいとこがあったんだ」
貴子女史の毒舌はもう慣れっこだが
「なんだよ?男っぽい?結構?」
「そりゃあ、そうでしょ?
失意のどん底にいる沙織ちゃんを振り向かせて、
いつのまにか結婚にまで、もちこんじゃ・・・。ああ~~!!」
話している途中で貴子女史は大声を上げた。
「今度はなんだよ?」
「はは~~ん。さては、出来ちゃった結婚だな?」
女史の言葉にうなづきながら俺の心臓が一瞬ずきりとした。
貴子女史が事実に気がついたのかと思ったからだが、
俺はそのまま貴子女史の推理は聞き続けた。
「なるほど。失意のどん底にいる沙織ちゃんにちかよって、
上手いこと慰めてあげちゃったんだな?
ああ。前言撤回!!あんた、ワルだ!!」
貴子女史がふざけて言ってるのはもちろんだ。
「道理であの子が明るくなってきてたんだね。
隆介には、気の毒だけど、沙織ちゃんも
死んだ人間に縛られてちゃいけないもの。それが一番いいよ」
見た目だけを言えばあっさり男を乗り換えた沙織と
とられても仕方が無いとも思っていただけに
俺は貴子女史の賛同がうれしかったし、
俺が沙織と一緒になることも不自然に映らないということにも安心した。

俺たちの挙式が滞りなくすむと、
俺と沙織は俺のマンションに帰った。
沙織が持ち込んだ荷物はわずかなものだった。
沙織が買い揃えたものの多くは
1人住まいに向くものばかりだったから、
その殆どを引越し業者の廃棄担当の者に委ねた。

俺たちが新婚旅行に行かなかったのは、
慌しい日取りで式を挙げたのが原因じゃない。
あの日、沙織に求婚することになったあの日の
沙織の体調が旅行に不安を覚えさせたのだ。
新婚旅行には行かないということが、
当然、皆の耳にはいり、
その原因が沙織の妊娠だということも推測されるだろうな。
沙織も今月いっぱいで仕事をやめる。
妊娠という不安定な状態で、
女に仕事をさせ続けるということは俺の主義にも反するし、
だいいち、女房を働かせなくてもいいだけの充分な収入が俺にはある。
何よりも不安定な状況の沙織に無茶はさせたくなかった。
もしも、なにかあったら・・・。
俺の子なら、次があるさといえるだろうけど、
腹の子は隆介の子供だ。
二度と授かることのない隆介の子供なのだ。
だから、新婚旅行なんかで、
沙織の体調を崩したくは無かったし
仕事をやめさせたのもそうだ。
「のんびり、やってゆけばいいさ」
まだ、片付け切れていない荷物を
解きかける沙織に声をかけ、
「子供がうまれたら、3人でどっかにいこうや」
と、新婚旅行の穴埋めを約束すると、
沙織がふいに涙ぐんだ。



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