憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」・・終

2022-12-15 12:49:25 | 「いつか、見た夢・・デ・ジャブ」

「あのさ・・・。

沙織ちゃんが事務所に来て、アンタが一番最初に

あの子に仕事をおしえたよね。

その時にあんた・・・もう、あのこを好きになっていたんだよ。

でも、その頃って丁度、シャーシ部分の劣化問題がでて、

アンタ・・それどころじゃなかった。

そんなときに隆介が沙織ちゃんに目をつけたわけだよね。

アンタが隆介のことを大事に思っていたのは

事務所の皆も周知のことだけど、

ソレはね、沙織ちゃんも一緒だと思うんだよ。

アンタが忙しくなってる間に

隆介と沙織ちゃんが結ばれたとき、

アンタは隆介を選んだ沙織ちゃんだという事と

沙織ちゃんを選んだのがほかならぬ隆介だという事で

二重に喜んでみていれるくらい・・・。

確かにアンタは隆介を高く評価していた。

だけどね・・・、

それ、ちょっと、もう少し深い部分があるとおもうんだ。

そうだなあ。

例えば、好きな人から薦められたものとかさ・・・。

今までなんとも思わなかったのに好きになったり、気にいったりすることあるよね。

ソレって今までソレの価値に気が付かなかったんじゃなくて

急に気に入ったんじゃなくて

ようは、好きな人の代替といっていいか・・・。

ソレが好きなんじゃなくて、

その人が好きなだけ・・・なんだよ。

あたしは沙織ちゃんは・・・本当のところがそうだと思うんだよ。

つまりね・・・。

沙織ちゃんは

事務所に来て、

一生懸命仕事を教えてくれるアンタに尊敬に似た恋愛感情をもったんだと思う。

だけど・・・。

沙織ちゃんもその気持ちに気が付かないまま・・・。

好きな人がとても大切しているもの、

つまり、隆介をすきになったんだよね。

あんたが、隆介を大事に思うくらいだもの、

隆介はそりゃあ、男としてだって魅力があったと思うよ。

アンタが思ってたように

沙織ちゃんが隆介を好きになる・・・それは、当然だと思う。

でも、その裏側にあったのは

隆介の価値を高く買っていたアンタの存在なんだよ。

隆介が死んで

沙織ちゃんは隆介という華に惹かれていただけの自分に気が着いたんだと思う。

その華を咲かせてくれた土壌というか、

庭師の存在に気がついたから、佐織ちゃんはアンタと一緒になったんだよ。

そして・・・アンタは、

本当を言えば、もっと早いうちに、さっさと、隆介と競り合って

沙織ちゃんを勝ち取るべきだったんだ。

だのに・・・

ずるずる・・・自分に自信が無いのを

隆介が好きになった女だからとか

隆介を選んだから・・とか、って、いい訳して

沙織ちゃんに対しても、

自分に対しても、あまりに誠意がなさすぎたよ。

アンタ・・・隆介と同じ土俵に立って

沙織ちゃんを勝ち取ってゆく・・・のが怖かったんだろうね。

ほかならぬアンタが隆介を傷つけてゆく

そんなことしたくなかったんだろうね。

でもさ・・・。

ソレって

隆介を馬鹿にしてない?

結局さ・・・。

アンタ、本来結ばれるはずの人間を

わざわざ、自分から他の男にくれてやってさ・・・。

いわば、

自分で女房に他所の男と浮気して来いって催眠術かけてさ

挙句・・・その男の事に本気だったんだろうって、

そんな被害妄想いってるみたいなもんよ。

自分の女房を他の男の所にいかせるような真似をしたのは

アンタじゃないのかな?

そういう風に考え直してみない?」

貴子女史の釘はまさに

俺の心臓にうちこまれ、

銀の杭を打ち込まれた悪霊は

風に散る塵さながら、

あとかたもなく、

俺の中から、姿を消し去った。

「俺・・・」

俺は何を説明しようとしたんだろうか。

直己の出生の真実に触れる自分に惑い、

俺は黙りこくった。

直己は隆介の息子だけど・・・。

貴子女史のいうとおりだ。

俺は確かに

隆介の幸せを望んだ。

俺は隆介のしあわせのために

沙織を明け渡した。

俺は自分が望んだとおり・・・。

夢?

俺の?

隆介の?

いずれにしろ・・

夢を叶えたんだ。

もしも・・・。

隆介から沙織を奪い返していたら、

俺は・・・

ひょっとすると・・・。

沙織ととっくに別れていたのかもしれない。

隆介は心を残し・・・・やがて、事故を迎えることになる。

叶えられなかった夢は俺がつぶしたのだと、

俺は・・・

その痛みに耐えられなかったかもしれない。

隆介の夢をかなえてくれた沙織によって、

俺はもっと深く苦しむ自分を知らずにすんでいたのかもしれない。

俺と隆介の夢をかなえた沙織への・・・独占欲が

俺をねじまげ、

したたかに愛されている俺をさがしもとめて・・・

俺は盲目。

沙織の言葉がいまさら・・・蘇る。

「決めるのは・・貴方」

俺はいつも、決める側でしかなかったのに

それに気が付かず

自分の決めたとおりに

物事が動いていたにすぎないのに・・・。

「俺・・・」

貴子女史がにやりと笑って頷いた。

「アンタ・・・はアンタ。

アンタを選んだ沙織ちゃんを疑うって事は

アンタ自身をこけにすることだよ。

アンタは・・・いい男だよ。

沙織ちゃんの目はくるっちゃいないよ。

自分を認めてくれる人間の存在があってこそ

自分の存在価値がわかるんだよ。

自分で量る存在価値なんてさ・・・

微々たるもんだよ。

アンタ・・・

精一杯・・・沙織ちゃんの価値になればいいじゃん?」

「ん・・・」

不覚にも、涙がこぼれそうになった。

俺が・・・

隆介が

いつか見た夢は

沙織の満面の笑みだったかもしれない。

俺は今、やっと、それを、叶えられる最短距離にたった・・・

きっと、石川までむかえにいった俺に

沙織は

待っていたのよって、微笑むだろう。

それは、いつか見た夢・・・・

デ・ジャブの予感・・・・。



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