憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

小枝・・13

2022-12-11 09:58:31 | 小枝

幸太のくどいほどの念押しに、
小枝は素直に
「はい」
と、応えると、幸太のいいつけどおり、
小屋の中に入って、
しんばり棒をかった。

俵に詰めた炭を問屋に持ってゆく
幸太は己の留守の間の小枝が心配でならない。
「むこうの尾根に、煙があがっていた。
マタギがはいりこんでいるにちがいない」
だから、
小枝は外にでちゃいけないと、出掛ける寸前まで小枝にいう。

男親の勘というものは、
男の生態を解したうえで、
わきあがるものであろう。
ゆえに、
幸太の勘は当たっている。
マタギが小枝を見つけたら、
何をしでかすか判らないという点で、
鋭すぎる勘ではあった。

が、
まさか、既にマタギが小枝をみつけ、
なにかをしおでかす道筋をつけているとは、
思いもしない幸太である。

その幸太の親心を
小枝は裏切ろうとしている。

胸の内にきりりと突かれる痛みがあるが、
小枝は幸太に隠し通すつもりでいる。
自分の一生の秘密にしておくだけの
文治とのであいであると、
覚悟を決めている。

だからこそ・・・。

別れるしかない人だからこそ・・・。

「あいたい・・・」

幸太の荷車の音が遠くなると、
小枝はしんばり棒をはずし、
戸口の前を進み
畑の前に立った。

日当たりの良い畑は
山の尾根からも
明るく開けて見える場所だった。

立ち尽くしたまま・・・。
小枝は文治が現れることだけを
夢に待つ。

「文治さん・・・あいにきてくれるんね?」
小さな呟きで文治の名前をよんでみるだけで、
小枝のめがしらがあつくなる。

「いくら、思うてみても、せんないことやけど・・・だけど、小枝は」
文治さんを好きになってしもうたんや・・・。

立ち尽くす小枝の傍をすり抜けてゆくのは
小鳥だろうか?
小枝は自然の中に溶け込むほど
静かに
じっとたちつくして、文治を待った。

小枝には
待つことしかか出来なかったから。

小枝にできる精一杯の恋華は
待つことしか、なかったから。



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