憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

小枝・・12

2022-12-11 09:58:47 | 小枝

山の斜面に大きな岩がせり出し、
其の後ろに祠がある。
文治はこの土地での仮住まいを
この祠に決めると
祠の奥に山の神への供物を
ささげるために
土を盛り、平たくならすと、そこに
白米をいれた小さな杯と、
竹筒に入れたお神酒をそなえおいた。

この地での狩猟が実りあるものであること、
狩りの無事を祈願し、
山の神の聖域に入り込み、山の神の物である
獣を頂戴する許しを請うた。

文治は其のまもなしに、
小枝という女子に出会う事になった。

山から山を渡り
およそ、おなごと名のつくものを見かけることなぞない文治の前に
あらわれたおなごに
男の欲を漱がれたいと
男の息吹が文治を差配するのは、無理の無いことである。

が、であったおなごはめしいであった。

尾根の中腹からみわたした炭焼きの小屋の狭い平地に
おなごがいるのをみつけた
文治は
獣道を通り、おなごにちかよっていった。

この時点での、文治は
おなごの不遇をしるわけもなく、
ただ、ただ、身中にわきあがる欲につき動かされ
その欲をはらすためだけに
おなごにちかづいていった。

炭焼き小屋のひとの気配をさぐる文治に
此処に居るのは、
おなごひとりだと教える風が吹いてくる。
すみやき小屋はむろん、
その横の住まいからも、
人の気配は無い。

欲にかられた男は
忍び足でおなごにちかよった。
その場におなごを
おしたおしてでも、目的をはたさねばならない
渇く飢えがある。

だが・・・。

厠からいできた、おなごの姿は
文治の目に、横顔をみせた。

其のときに文治の胸のうちは、その美しさに
けおされ、
一度きり、手に入れるだけにしかならない
無理やり無体な手籠めではおしいとおもわされていた。

情交がほしい。

この美しいおなごを無理にしいたげて
己の欲をはらすのではでなく、
おなごとなれあった交わりで、
この地にいる間、
甘く匂う恋の華香に酔いたい。

かりそめの恋でしか、ないが
文治はおなごに強く惹かれ、
常の男と女がふんでゆく
恋路をとおってみたいと思った。

だが、
おなごは、マタギなぞ、よせつけはすまい。
と、思った文治の目の中でおなごは奇妙な歩みを見せた。

(目がみえぬということか)
こんな山家で目がみえぬおなご。

おなごは、
間違いなく無垢だろうと、文治は思った。

で、あれば、ぜがひでも、
己のものにしたいと思った文治であり、
ひとたび、男に触れられた初女(うぶめ)が、
その感覚に
己を見失うだろうことも、直感した文治であった。



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