「なぐさみものにされただけだったわよ」
幼馴染のお甲が笑って言い放った。
村の神事の夜にお甲は定太に夜這われた。
「これで一緒になれる。と、おもったのに、
うまくゆかないもんだね」
と、付け加えた。
思う人に忍ばれる事を願って村の女子達は、
しん張り棒をそっとはずしておく。
「生娘じゃなかったのが、きにいらなかったんだろうね」
お甲はあっけらかんといいのけた。
しん張り棒を自からはずした以上、
誰が夜這うて来ても、致し方ない。
思う人は来ないかも知れぬ。
それでも一縷の望みをかけて覚悟を決めるしかない。
「おなごになるからね」
しん張り棒をはずす事を決めた時にお甲は言った。
「わかってるかい?
男のあそこが身体の中にはいっちまうんだよ?」
とも、いった。
「あんた。ちゃんと、定さんに言ったのかい?
きておくれっていったのかい?」
「う、ううん。まあ、はっきりとは・・ね」
「だったら・・・」
「いいんだよ。定太は・・・」
村はずれのお陸に夢中になってる。
お陸とお鈴はこの村で名を知らぬ者はない後家である。
餓えた身体を平らに均す為、
二人は夜這われる娘さながらに男たちに身体を開いている。
「さっさと、観音様を拝ませてやらねえと
お陸かお鈴に男をとられっちまうぞ」
と、てて親からさえもいわれたことがある。
「お陸にやんねえためだけにそんなことすっもんか」
「ほっかのお?」
この村の習慣が当たり前の事であるてて親も、
そうやって、母である花世とむすばれたのであろう。
はやく嫁に行けばよい。
子を産んで親になってゆくがよい。
てて親ははやく娘が夜這われることを願うのが
てて親であると信じていた。
お陸に夢中になってる定太であるならば、
お甲のところなぞに来はしないだろう?
よしんば来たとしても、それはお甲を嫁取るためではない。
「わかってるよ」
「だったら・・・なにも・・・」
他の誰がしのんでくるともわからない。
定太より先の男に望まれたら
それを渡すしかないのに何故に戸をあけようとするのか?
「確かめてみたいんだよ」
な・・・何を確かめるというのだ?
「定さんにも
振り向いてもらえない女なのかねってさあ」
―振り向いてもらえるなら欲づくでもいいんだ―と、
それで、―定太に粉をかけてみた―と、いった。
だが、お甲のもとにやってきたのは峯吉だった。
「定がゆずってやるっていうからよ」
お甲の願いはあっさり崩れ去った。
「だから、峯吉があたしの初めての男だよ。
あいつに女にされたんだ」
お甲は手のひらで涙を拭って見せた。
だが、お甲が峯吉により女であることを教えられてから、定太がやって来た。
「なんだよ?峯吉を満足させてやれなかったのかよ?
それとも、お前のここが
峰のもんじゃ満足できなかったかよ?」
夫婦約束にならなかった男と女の戯れを
定太は笑いながら、お甲に峯吉と同じ事を求めてきた。
定太が来たのは、初めての女と肌を合わせるときの
ものめずらしさに駆り立てられてきたわけではなかった。
お陸に見限られ、
悶々とした男が洗いざらしの褌の中で
そそり立って仕方がない。
「そういやあ・・」
お甲のことを思い出した。
とうていお陸の変わりなんぞになるわけもない
小便くさいあまっちょだが、
このさい、お甲でもいいから抱いていねえと
「ちんぼの先からひからびちまうぜ」と、定太は思った。
こんな調子だったから、
朋世もどこかでいつかは自分から
誰にだかれるのでもなく、
女子になるためだけに、
しん張り棒をはずさなければならない日が
くるだろうことだけは、おぼろげに理解はしていた。
だが、実際はどうであろう?
「一体、いつ、私がしん張り棒をはずしたというね?」
男は無理矢理、
しっかりかかっていたはずの
しん張り棒さえ取り払ってしまって
いきなり、朋世をこじあけた。
ゆっくり、村への足を引きずって歩いていた朋世は
小道の真ん中に突然うずくまると顔を覆って
声を上げて泣き出した。
「おかあちゃん・・・おかあちゃん・・」
ほんの僅かの間、朋世は思い切り母を呼んでむせび泣いた。
「おかあちゃん。
朋世もお甲とおんなじ・・・女になってしもうた」
やがて、小道の真中で朋世は立ち上がった。
「朋世も、もう・・・しん張り棒はずすんよ」
そのとき、胸の中で語りかけたお甲が
笑顔をみせたきがした。
「お父ちゃんの言うとおり。
朋世も、おかあちゃんになるに・・」
朋世は小さな痛みを堪えて再び歩き出した。
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