憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

宿業・・10   白蛇抄第7話

2022-08-27 20:59:52 | 宿業   白蛇抄第7話

村の共同浴場というと実に聞こえがよい。
竹垣で風をさえぎった露天風呂でしかないのである。
そこで男は時折女を知らされることがある。
お陸の手管に落ちた男。
お陸との接合をもくろんで浴場に足を運ぶ男。
どちらの馴れ初めが先なのかは定かでなくなった男に
お陸は久方ぶりに顔を合わせた。
「周汰さん」
口説いたのか、口説かれたのか。
身体を合わせなくなって、久しい周汰である。
身体の疼きを癒されるだけを望んだ男なら
お陸ももう知らぬ顔をしていたのかもしれなかった。
だが、
「周汰さん」
裸身の身体をお陸は寄せていった。
「ああ・・陸か」
湯気の中に身を沈めた周汰ににじり寄った女に
気が付くと周汰は照れたような笑い顔を見せた。
もう、周汰の心は陸にはない。
それを周汰の照れた笑顔が語っていた。
いや、むしろ、
初めから周汰の心は陸にはなかったのかもしれない。
陸は周汰のものに手を伸ばしていった。
だが、それは、
やはり、すんだ事であると確かめるためだけの
所作になった。
「ああ・・・陸・・すまぬ」
周汰は陸の手の動きにはっきりと肥えてゆく物を
なぶらせたまま、謝っていた。
「周汰さん?」
「すまぬ。陸」
再び確かに周汰は謝った。
「ほ、本当なのだね?」
「ああ。わしは朋世がかわゆい」
朋世がはらんだ。
それで、大手を振って
そのまま朋世を娶る事が出来ると
周汰が嬉しげに言い放ったと噂に聞いた。
「そうかえ?」
周汰のものを陸の手がしごきだしてゆく。
「ああ。陸。だからもう、お前の中にはなつことはない」
あっさりとこらえ性もなく、
周汰のものが硬く張り詰めると
湯の中に白い液体を放ち始めていた。
鳥の卵の白身が固まるように
湯の中で液体は軽く煮凝ごんだ。
よどんだ液体を陸は手でかきならした。
「だから、身体はあわさないというかや?」
「ああ」
「陸のここはいらぬというかや?」
周汰の手を陸のほとに導いてみたが
周汰のものはもうびくとも動こうとしなかった。
「何度、われの中にはなったというに?」
「子種は留まらんというたでないか?だからじゃろう?」
暗に朋世には敢えて子種をやどらさせたと
いっている周汰なのである。
陸は黙った。
嘘である。孕まぬというのは嘘であった。
周汰の子が欲しかった。周汰の子種が欲しかった。
あわよくばそのまま周汰のかみさんにおさまりたかった。
だから、周汰だけには嘘をついて
何度か周汰の種を受けた。
が、それでも子は留まらなかった。
周汰となれ初めてからは周汰一本にした。
いや、周汰だけの女になってしまう自分であった。
だが、それは周汰が強いてきた事でもなければ、
子が留まらなんだのも、
周汰が本意に陸をのぞまなんだせいであろうと思えた。
陸は朋世がここらでは、
見た事もない男に抱かれていたことを
よほど話してしまおうかと考えもしたが、
いらぬ事を言って周汰の心を傷つける
おろかな逆恨みを見せる女にだけはなりたくなかった。
「縁がなかったんだねえ?」
いつかも陸はそういって自分を宥めたが、
もう一度大きな運命(さだめ)のせいにすると、
もう一度周汰のものを柔らかくなで擦り、
ぐっと握ってみた。
そして、陸は笑っていった。
「ここも朋世が一等かわゆいかや?」
周汰はにっと笑うと
「どうも、そうらしい」
と、答えた。
そのとき、陸は周汰を恐ろしい男だと心底から感じ取った。
周汰は朋世を守る為なら、
この陸の首をへし折る事にさえも
痛みを感じ取りはしないのだ。と。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿