あれから・・・・
―もう何度か周汰に抱かれた―
五月の空に鈍い雨音が開き、
山田の苗が慈雨を受けて伸びたった。
朋世は炭焼き小屋に雨を逃れていた。
遅い春に蕨はもう葉になり始めていたが、
最後の摘み物のつもりで朋世は山に出かけていった。
雨が降り出すのは判っていたが昼を過ぎてだろうという
朋世の予想は外れてしまった。
篠つく雨というが、まさにその通りに
雨はそぼそぼと地べたを濡らし始め、
やがて、朋世もぐっしょりと濡れ込んでしまった頃に
炭焼き小屋に辿り着いた。
炭焼き小屋に行けばみのがある。
きっと、爺がおろうし、
火もたかれておるはずであると、思った朋世であった。
炭焼きの煙が見えないのを訝りながら、
小屋に辿り着いたものの、爺もおらなければ、
もちろん火もたかれていなかった。
悄然としながら、それでも、朋世は小屋の中を見渡した。
「爺やあ・・・病かやあ?」
だとすれば爺も里にいて、
返事なぞするわけもないのである。
が、朋世の声に薪の後ろで音がした気がした。
「爺かや?」
何かあったのだろうか?
不安な気持ちのまま朋世はひょいと薪の後ろを覗いて見た。
覗いてみた朋世がいきなり抱きすくめられた。
「あっ?」
朋世を抱きすくめた男は忘れる事もない、あの男であった。
「おぼえておろう?」
一言言うと男・・・・、佐奈は再び朋世を襲った。
「いや・・・じゃああああ」
叫んだ朋世が男にもろくも組み伏せられ、
濡れそぼった着物をたくし上げられると
あっという間に男の物が身体の中に入るを知らされた。
「いや・・だ・・周さん・・助けて・・」
朋世の言葉がむなしく男の背中に
廻り込んでゆくだけであった。
「男ができたか?他の男をのみこんだか?
ここが・・ここでか?」
佐奈は駆り立てられる嫉妬のまま、
朋世に自分こそが
お前の男であらねばならぬだろうとばかりに
朋世のほとに向けていびつな欲情をはたき込んでいた。
「あ・・」
情けない事に朋世は
その欲情を、その男の嫉妬を、憎く思えなかった。
そればかりでなく男の扇情的な言葉が
朋世に鋭い快感の牙を刺し貫く事になっていた。
朋世が瞬時に極めてしまっている肉のうずきに
佐奈も気が付いていた。
「恋しかったに・・・あいたかったに・・・」
朋世の喘ぎを己の物でさらに確かな物として、
朋世自身にも知らせるために
佐奈は激しくうごめき続けていた。
そして
「よかろう?」
尋ね、さらに
「欲しかったのは・・俺であろうに」
朋世の心の深淵を見せつけようとして、
さらに佐奈はその腰を思い切り揺さぶり上げていた。
「あああああああ」
朋世の「女」が声を上げ始めた。
朋世も自ら男の動きに合わせるかのように、
知らずの内に己の快感をむさぼるために、
男から与えられる物をしっかり刻み付けるかのように
細い腰を蠢かせ始めていた。
朋世の秘め事を外から盗み見ていたのは、
炭焼き小屋で時折、男としっぽりぬれ過ごすことのある
お陸であった。
「やだね。先客がいるよ」
お陸は、炭焼き小屋の爺とはす向かいの家にいる。
だから、今日は炭焼きの仕事がなくて
小屋が空いている事が判っていた。
ご執心だった周汰がこなくなったのは
どうやら村の娘っ子のところに入り浸りになったせいだと
判ってしまうと
「あんだけ、やっても、駄目だったんだもの。
縁がなかったのさ」
つぶやいて、あきもせず男を誘った。
約束通りに炭焼き小屋にきてみて、
先客の気配にお陸は小さく声を立てて笑った。
「どうにもこうにも、
男と女ってものはしかたがないものだよねえ」
たった一つの肉付くが欲しくて、
昼間っぱらから痴態を繰り広げる男と女がここにもいる。
「で、誰なんだい?」
お陸は下卑たひと時に浸りこんでいる
幸せな男女をひょいと覗いて見た。
佐奈はじっと朋世を待っていた。
朋世は決して佐奈のことを思うておるとはいわなかった。
が、朋世を抱くとき、
朋世の身体によってそれをはっきりと告げられた。
朋世はいつも、受身で
佐奈に陵辱される女を装って見せていた。
そして、その日。
確かな朋世のため息が拒み続ける口を裏切った。
「佐奈・・・ああ・・・佐奈」
確かに朋世は佐奈の名を呼んだ。
男の陵辱に脅えるあまり
少女は身体を開いていたはずであった。
が、それが突然、逆転した。
「朋世・・・」
佐奈は背中からだかえこんだ少女の口をすすり上げた。
すすり上げながら
「朋世。おれについて来い。村をでろ」
と、囁いた。
途端、朋世の背筋がぴんと張り詰めた。
「どうした?俺がいやか?おれで不服か?」
胸まで伝う涙のしずくが、佐奈の手に感じられたとき
佐奈は朋世の身体をねじった。
「朋世は周汰の嫁になる」
「え?」
「父ちゃんも母ちゃんももうそう思っておる。
お甲もよろこんでくれおる」
「ばかな」
誰かのために嫁に行く?
「お前が欲しいのは俺であろう?」
だが、やけにはっきりと朋世は首を振った。
「ばかな」
「だけど、周汰さんを、これ以上・・・裏切れない」
佐奈はくるりと朋世の身体を回して、
朋世の足を開け上げると、
朋世の目にはっきり見えるように
己の一物を朋世の中に付きこんで見せた。
「ならば・・・これはなんだという?」
「あ・・・ああ」
朋世の身体が既に佐奈の動きに反応していた。
「なんで、そのような声を上げる?」
「あ・・あ」
「俺と一つになりたかろう?
お前のここがそういうておろう?
何故ここにきいてやらぬ?」
「佐奈・・佐奈」
「のう?」
朋世は己を許した。
流れ者の優しい嘘に酔う事を許した。
その心の開放が朋世に高すぎるあくめを迎えさせ、
確かに身も心も佐奈に結ばれる刹那を共有させた。
そして、その日を境に
朋世は佐奈が潜み待つ森に行くのをやめた。
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