憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

宿業・・・4   白蛇抄第7話

2022-08-27 21:01:39 | 宿業   白蛇抄第7話

木陰から佐奈は少女をじっと見ていた。
無事に村への抜け道にたどり着くのを見届けると
佐奈は再び森の中に走り出した。走り出しながら
「あれが・・・いかんかったんじゃ」
佐奈は呟いていた。
少女に出会う前、森外れにある炭焼き小屋で
佐奈はくたびれた身体を休めていた。
積み上げられた薪の後ろに隠れて佐奈は身体を伸ばした。
いつの間にか、佐奈が深い眠りに落ちていたと、
気が付かされたのは女の妙な声が聞こえたからだった。
「陸・・・」
男が女の名を呼んだ。
媚を売るような鼻にかかった女の声が
はっきり佐奈の耳に届いた。
続けてその声がみだらな音色に変わったとき、
薪山一つの向こうで
男と女が何をしているか佐奈にも判った。
「周さん・・」
女が吐息とともに男の名を呼んだ。
その場所から出ることも叶わず、
佐奈は固唾をのんでいるだけだった。
「周汰さ・・・ん・・ああ・・ああ」
男のうねりに女が禍々しい声を深めた。
やがて男の声があらぶれて女の声に重なりだしてゆく。
「陸・・はなつぞ」
「あ・・・」
女の声が早まりだしてゆく男のもののせいで、
一層乱れだしていった時、
佐奈は二人の後ろをそっとぬけだした。
男の小気味良さそうな動きが
高く掲げられた女の足の間に揺らめいていた。
硬く目を瞑った女の顔が男の背中越しに見えた。
堪えられない感覚を与えられた女の顔は
苦悩しているようにさえ見えた。
その口から喩え様もない声が漏れ出していた。
佐奈がごくりとつばを飲み込んだとき、
口の中はからからに渇いていた。
女の足が佐奈の脳裏からはなれなかったが、
それよりも佐奈は引っ付くような喉を潤したかった。
川の水のせせらぎのにおいと音を頼りに
佐奈は歩き出したのである。
そして、その後少女に何をしでかしたか・・・
「あれが、いかんかったんじゃ。あんな物におあられて・・」
水を飲もうとしていた佐奈は少女の鋭い悲鳴に気が付いた。
そして、あの顛末だった。
少女が村に入る道に立ったのを見届けると
佐奈はやっと渇きに気が付いた。
この、渇きを癒す事よりも・・・・
その付け根が己の肉体につながっている男根を
癒す方が先立ったという。
己の中に渦巻く肉欲の恐ろしささえも、
事がすみ果てると嘘のように引いていった。
本当のことであったのだろうか?
だが、佐奈の身体にも少女の血の滴りは
まとわりついていた。
「身体はあらいながせるが・・・」
一度存在を誇示し始めた欲望を塞ぎこめる事は
できるのだろうか?
そのことこそがおそろしい。
己を佐奈でなくさせるほどの空恐ろしい欲望は
佐奈の意識をどこかにおしやってしまうだろう。
「違う。すいておるのじゃ。一目できにいったのじゃ」
佐奈はもう一度言い聞かせると川を目指した。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿