錨を下ろした船は凪のままにただよう。
この前から、このあたりから船を動かさないのは
シュタルトの船とコンタクトする場所だからだろう。
シュタルトの船が隣接したら、
男達はおおいそがしになる。
分捕ったお宝をシュタルトの船に移すと
それらは
金にかわり、食物にかわり、衣類にかわる・・。
板一枚をわたして、シュタルトの船と自船を往復する作業は
単調で単純だが、労力と多大な時間を費やし
シュタルトの船が離れる頃には
男達はボロ布のようにくたくたになる。
だから・・
いっそう、今、
男達はしばしの休息をむさぼる。
そんな男達に混ざって
やっぱり、船底の晩餐会にやってきたリカルドに
ジニーは約束の実行をつきつけた。
「なんだよ・・いきなり、ご挨拶じゃないか・・」
リカルドの条件を飲む前に
あの娘の進退をはっきりさせなきゃならない。
「わかった。
おい!そこのおまえら!!」
娘を取り巻いていた男達がリカルドを注視した。
「兄貴?なんすか?」
いいところを邪魔されたくは無いが・・
二番頭といってもいいリカルドを無視することは出来ない。
ましてや、
この場所にロァが下りてくることがないのだから、
この場所では、リカルドが頭領みたいなものである。
「せっかくのところ・・すまないがな・・
その女・・・俺の部屋に連れて行ってくれ」
言われた男達はリカルドの発した言葉の意味を理解するための
沈黙にとらわれていた。
ややすると・・
「と、いう事は?」
この娘がリカルドの専属になる?
いや?
それよりも・・・。
リカルド兄貴がオンリーも持つ?
慌てたのは娘をなぶっていた男だ。
「うぇ?」
奇声を発するとあわてて、娘から身体を離した。
憐れにうろたえた男さながら陽物もうろたえ
すまなげにうなだれた物以上に
男はリカルドの怒りに触れてしまっているに自分におののいていた。
慌てて娘の着衣をととのえ、
「じゃ・・あねさん・・いきましょうか」
と、従順な僕になりさがると、
やがて、娘の姿が船底の扉から外にきえていった。
「ジニーさんよ・・これでいいんだな?
俺は約束は護ったぜ。
あとは・・・おまえさんの番だ」
もう・・うしろには下がれない。
つけられた覚悟にならい
ジニーが手はずを話そうとすると・・。
リカルドはこらえきれないとばかりに
笑い出した。
「俺が・・条件をのまないとおもったのかい?
あの娘が俺の部屋にあがるようになったら・・・
俺の部屋は使えない。
そうすりゃ、ロァの女を呼び出す場所が無くなって、
交換条件はうやむやになるって、ふんだかい?
だけどな、
他に鍵のかかる個室はあるんだよ」
ふ・・・。
そんなことで、うやむやにするような玉じゃないだろう?
狙った獲物を手に入れるまで、蛇のようにしつこい。
そして、どんな汚い手段でも平気。
あんたのずるい性分なんか、よく判ってるよ。
唾をはきかけて、そう、詰ってやりたいジニーだったが
じっと、堪えた。
堪えなけりゃ、オンリーの約束を反古にされる。
その不安が、ジニーを堪えさせた。
とにかく、今、あの娘を護る。それが先だった。
「そう?
それじゃ・・・そこにアマロをつれてゆけばいいってことだね。
で?
肝心の『そこ』って・・・どこなんだい?」
「第3倉庫・・」
お宝目一杯つめこんだ、第3倉庫は確かに鍵がかかる。
だけど・・・。
「鍵はロァのキャビン・・の中。
どうやって・・・」
ふと笑った顔がやけに楽しそうだった。
「ロァは俺に品物の采配をまかしているんだぜ・・」
シュタルトの船とのコンタクトが近い。
リカルドが3番倉庫の宝物を点検しなおしても
ひとつも不思議じゃないってことになる。
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