操舵室うしろのロァのキャビンをのぞきこむと、
ロァは相変わらず海図を広げている。
「またかい?」
声をかけたリカルドにわずかな一瞥をくれると
「ああ」
と、言葉少なく、腕を組む。
何を考えているのか判らないが海図が途切れてしまうあたりを
デスクの上においているから、
地中海にまわりこむつもりなのかもしれない。
アトランティスの財宝でも探す気か?
けれどリカルドの興味はロァにそってゆこうとしない。
なぜならば、
どこに眠るか判らない財宝よりももっといいものがある。
それが、もうすこしあとにリカルドの手中のものとなる。
今も、ロァはアマロを片時も手離さず、
操舵室キャビンにまで、連れ込んでいる。
ロァの傍らに立つヴィナースに目を奪われながら
リカルドは第3倉庫の鍵に手を伸ばした。
『ご執心なことで・・・』
リカルドに手中の宝玉を奪われることも知らず、
その宝玉がリカルドに染められたことも知らず
ロァだけのものと思い込んで・・この先を過ごす。
『ざまあ見ろ』
この先を見越したリカルドの胸に沸いてくるのは、
優越感であろうが、
それは、ロァに対し卑屈に歪んだ劣等感がうみだしたものに
ほかならない。
リカルドのプライドは敗北感に鬱屈し、
地位も名誉も見た目も統率力も体形も・・・
いっさい関与しない性技においてでしか、
ロァより秀でた自分を確認しうることができなくなっていた。
それは、ひそかな部分であるだけに、
いっそう、隠避にのがれ・・、
そう、まるで、氷山が水面下の大きさを自覚すると同じ。
と、リカルドは思い込んでいた。
それが、もう、少し。
俺の男としての技量がロァより上手だと明かしてくれるのが
アマロ。
その証明におおいなる満足で微笑むのも、あと・・少し。
第3倉庫の鍵を手の中に収めると
リカルドはさりげなくロァに確かめる。
「そのあとは・・・また、マストにのぼるのかい?」
海図を睨んだあとのロァがマストに登るのも、ここ最近の習慣である。
「ああ」
またも、海図を覗き込んだまま短く答えたロァに
バイと手を振り、ちらりとアマロをかすめみると、
リカルドはキャビンを後にした。
かすめみたアマロの横顔がこれからの情事に重なり
リカルドの胸の呼吸までも、大きくなる。
ぐっと、そりかえり甘い鼓動を欲しがるものを
鍵を持たぬ手でズボンの上からさすりあげ、なだめるのさえ
胸が弾む所作である。
『待ってろよ。もうすこししたら、たっぷり・・』
想像以上の期待にリカルドは溜め息を溶け込ませる。
『つくづく・・・いい女・・だよ』
そのいい女がが、もう少しで
俺のこいつで、我を忘れ喘ぐ。
第3倉庫でヴィーナスの来室を待つ間も
アマロへの挑発的な恣意をどう開いてゆくか、
艶やかな手順を練る楽しい時間になる。
チャリと金属音がベルトの金具に鳴った。
鍵を握り締めなおすと
リカルドは船下に急いだ。
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