憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

空に架かる橋  16

2022-09-17 15:54:04 | 「空に架かる橋」

明美の説得がうけいれられるわけもなく、
源次郎さんがフォルマリン室に入っても、
兵士はやはり源次郎さんに威嚇を続けていた。
注射を打ってる露木先生の傍らにも、
兵士は立っているだろう。
静かで、物音一つしない。
だけど、暫くすると、
フォルマリン浴槽の蓋を開ける音が
聞こえてくる。
源次郎さんが
たおれると威嚇の必要がなくなった兵士は
前の患者をつれてきた男と一緒に
源次郎さんの前に入って
既に事切れ床に崩れた患者の身体を
フォルマリン浴槽に運ぶ。
その役目がすむと始めに部屋の中に居た男は
次の患者を連れにいく。
たおれた患者を何故すぐさま
フォルマリン浴槽にいれないか?
まだ生体反応があるせいだ。
口から泡を吹き
身体は小刻みに痙攣し、
瞳は血走り大きく見開かれる。
流石に兵士も
生きてる身体をフォルマリン浴槽に入れるのは
気味がわるかったのかもしれない。

小人数に分けてフォルマリン室に
患者を連れて行くのも、
患者の反抗を恐れるからだ。
そうなったら、銃で打ち殺すしかなくなる。
無駄弾は使いたくないのが兵士だ。
たった一発の弾丸の有無に自分の生死が
関わってくる。
命の次に大事なのは弾丸なのだ。
その弾丸を一発でも無駄に使わせてしまいたい。
たった一発の弾丸の有無で
仲間の兵士が打たれずにすむかもしれない。
たった一人の反抗でも
銃弾は何発無駄になることだろう。
患者達、皆、こんなことを考え付く。
だけど、それをしなかったのは、
東さんの一言があったからだ。
だから、
源次郎さんの後に呼ばれた男も
死を前にひどく優しかった。
「明美ちゃん。元気でな」
なんでもない顔をして、彼もまた、ホルマリン室にはいっていったんだ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿